第55夜(学園編) この人、鬼だ
前回のあらすじ
シヴァリエ、危機一髪。
その場に突然現れたその人に、辺りは騒然となる。
フィンは初めて見るその人に瞬きしつつ、その人がたった今行った事に息を飲んだ。
訓練用とはいえ模擬戦に使う剣はどんなに簡素に見えても耐久性は先程の陶器製のゴーレムなんて比ではなく、さっきシヴァリエが強化魔法で隕石落下時と同じような威力を付与しても剣は無事だったように、絶対耐久なのだ。多分、訓練用の剣は魔法で何かしらの干渉をされない限り、折れないし、ましてや斬れない。
だが、この人物は魔法無しで自身の剣でそれを叩き切った。
確かに魔法は使っていなかった。嘘だろうと思うぐらい、剣の一振りで叩き切ったのだ。
それだけでフィンはこの人物の非常識な実力を見抜いて息を飲んだ。
地面に2度も倒れ、土だらけになったミカエラはそんな実力者の正体に気づかないまま、怒りで我を忘れて食ってかかった。
「何者だ!?俺の邪魔をす‥‥るな‥‥。」
だが、その人物の顔を見て、正体に気づくとその勢いは尻すぼみになっていく。最後には呆然とし、愕然とした。
そんなミカエラにその人は、隠すことなくため息を吐いて。
「はじめまして。第二王子ミカエラ様。外務大臣兼騎士団長代理をしている、明連・ヘツギショウです。」
そう淡々とここにいる全ての人間に聞こえるように言った。
その名前に辺りは浮き足立ってざわついた。騎士団長代理。その人を知らない人間はこの場にフィンとシヴァリエぐらいしかいない。
(ゲームに明連なんて日本人らしい名前の奴いたっけな‥‥。)
(外務大臣兼騎士団長‥‥代理?兼任って‥‥?フローレンス、人材不足なのかな?)
二人が色々思っている頃。ミカエラに明連は目を細めた。
「‥‥。」
無言。
そして。
「アルフレッド。」
「ハイ、どうしましたか?」
明連はアルフレッドを呼んで、不思議そうにする彼に命令した。
「ミカエラ王子の剣術顧問はお前が担当しろ。」
その言葉に衝撃が走った。ミカエラは呆然とし、アルフレッドが慌てて問い質す。
「な、何故です?」
「俺では無理だからだ。」
「はい?」
「俺では‥‥経験が無さすぎるミカエラ王子のレベルに合わせられない。」
はっきりと、誰にでも聞こえる声で、明連はそう断言した。それに周りがざわつく中、ミカエラの中の何かが壊れた。
「何を言う!俺はここのクラスで1番で‥‥!」
今までの自分が壊される予感にミカエラは叫ぶ。だが、悲鳴に近いそれも、明連は情もなく切り捨てた。
「なら、1度、全員の親と『勝敗の結果によって貴公の一族に責を負わせない。または他家によって貶される事がないよう配慮する。もしこの件で文句をつける者がいれば自分であろうと処罰する。』と約束してから、本気の勝負してみたらどうだ?」
「‥‥!」
はく、はくとミカエラの口が唖然に塞がらなくなる。そして、即座に周りの人間全てをみた。
自分の取り巻き、少し距離の開いた関係の者、今まで喋ったことのないクラスメイト、フィンやシヴァリエ‥‥。その全員がこちらを申し訳無さそうに‥‥否、ミカエラから見れば、憐れむような可哀想なものを見るような目でこちらを見ていた。
ミカエラはここに来て、理解した。
ここにいる全員、自分が王子だから手加減していたのだ。そして、恐らく今まで自分の剣を見てくれていた近衛兵も。自分達の親や立場の為にそんなことをした。そして、ミカエラが1番強いと心にも思ってないことを口にして、おだてて御機嫌取りをしていたのだ。
青ざめる。そのやるせなさ、その屈辱感にミカエラは震える。
明連は用はなくなったとばかりに、ミカエラに背を向け、隣にいるアルフレッドを困らせていた。もう明連は本当にミカエラを剣をみる気がないのだろう。ミカエラが‥‥弱すぎるから。
しかし、それでもミカエラは諦めきれなかった。
「騎士団長代理殿!」
ミカエラは明連を引き止めた。
「お願いします。貴方に頼みたい、強くなりたいのです!!」
そう言って頭を下げた。王子が頭を下げるなど前代未聞で、近くにいた教師が「やめなさい。」と注意するが、ミカエラは聞かない。どうしても経験がないからといって降りて欲しくはなかった。‥‥そこまでされてしまったら、自分の何かが失われそうだった。
そんなミカエラに背を向けていた明連は振り返ると、仕方が無さそうに肩を落とした。
受けてくれる!誰もがその姿を見て、思ったがしかし。
驚くことに明連はミカエラではなく、シヴァリエの方に視線を移した。
「‥‥確か、貴方はシヴァリエ・マイネスといったか?」
「!?は、はい。」
「今から俺と模擬戦だ。拒否は認めない。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥え????????」
シヴァリエは今生で1番と思うほどの不運に突如見舞われた。
明連はその辺りに放置されていた訓練用の剣を手に取ると、ミカエラに告げた。
「今から模擬戦を行う彼と同等と心底からお考えならば、顧問の件を撤回します。」
「本当か!?」
「本当です。」
明連とミカエラがそんな会話をする中、シヴァリエは死にそうなくらい青ざめていた。
確かに今までビックな要人と対談したり、共演したことはある。しかし、これとは別だ。騎士団長‥‥代理とはいえ王子の剣術顧問するような実力のある人物と1戦やるなんて前世も今世もひっくるめて経験が無い。前世で比較するなら、きっとマイケル・ジャ〇ソンとダンス対決するようなものである。最初から負けが見えている。いや、そもそも勝負したくない人だ。
シヴァリエは死を覚悟した。
しかし、それでも逃げないで剣を構えるのは、きっとこの模擬戦に意味を感じているからだ。
騎士団長なんて滅多に模擬戦できる存在ではない。シヴァリエのような辺境の人間ならば尚更、それなら例え、実力の差がありすぎて太刀打ち出来ないことになっても意義を見い出せる。
模擬戦を行う試合場で明連とシヴァリエは向き合う。互いに武器は同じ、魔法の使用は認められず、使って良いのは己が実力のみ。
シヴァリエは明連と向き合った瞬間に走る武者震いに思わず背筋が伸びた。
只者じゃない。
気品、貫禄、気高き威信。
そんなものを今、シヴァリエは感じていた。
雰囲気で分かる。明連という人間は何かが逸脱している。才か、意思か、存在か‥‥その魂か‥‥。見ていると何故かあの兄と初めて出会った時の恐怖感を思い出す。底知れない、異様なそれ‥‥。
(何だろう。兄様のが恐怖を感じるなら、この人のはまるで腰を折って、跪きたくなるようなそれ。‥‥将軍‥‥そういうのに近いような‥‥?)
「シヴァリエ公。」
シヴァリエが思案していると、その明連から声がかかった。シヴァリエが顔を合わせると、明連はやや申し訳なさそうに言った。
「巻き込んですまないが、全力で来て欲しい。何、詫びはする。‥‥それに貴方が使っている剣技、その流派には興味が有る。」
「‥‥流派?」
「さて、始めようか?」
ハルトから教わった剣に流派があるとは思わなかった。むしろ知らない。どういうことか聞こうとしたが、明連が剣を構えたことで質問を飲み込まざるえなくなる。
シヴァリエは切り替える。質問よりも先に目の前の明連から一本取る気持ちを作る方が大切だ。この経験を無駄にしないようシヴァリエは決意する。しかし、後にシヴァリエはこの時、覚悟が足りなかったと後悔することをまだ知らなかった。
こうして模擬戦は開始した。
‥‥圧倒的な力量を持って。
開始早々、フィンは何が始まったのか分からなくなった。審判を買って出たアルフレッドも、周りの貴族達も呆気を取られた表情で眺めるしかなかった。
速い。
第一の感想はそれだった。
模擬戦を開始した直後、シヴァリエは真っ先に明連に突っ込んでいった。先手をとったのだ。だが、それから見学している者は全て何が起こっているのか理解が追いつかなくなった。
明連の剣がシヴァリエと交錯したと思えば、シヴァリエは突如、距離を置き、明連の背後に一瞬で回る。だが、そのシヴァリエの後ろに既に明連は移動しており、剣を振り下ろしていた。そうして始まった‥‥まるで剣が分身したかのように見える多段の斬撃、それにシヴァリエはすぐに反応して全て交わすと、攻勢に出た。だが、それは全て読まれており、剣によって弾かれてしまった。
ここまでまだ開始して1分。
シヴァリエは既に息切れを起こしていた。しかし、それでも剣を構え、明連からの攻撃の全て剣で防ぎ素早く弾いて、躱し、隙をつくべく攻撃の機会を探る。
上がる息を深呼吸して落ち着かせ、重く鋭い明連の剣をまともに受け止めたショックで震える手を無理やり押さえ込んだ。
前世でも今世でも未経験の勝負をしている。
明連はまだ余裕で、汗一つかいていないようだ。だが、まさか毎秒20回ほどの高速攻撃を仕掛けられ、その上、瞬間移動かと思うような距離の詰め方取り方をされるとはシヴァリエは思わなかった。
(強いとかいう言葉じゃ足りない‥‥。人間じゃあないいいいいいい‥‥!!)
シヴァリエは内心、冷や汗をかいた。
いい経験になるだとか一本取る気持ちが大事だとか思う暇は無かった。いや、そんな余裕すら持てないほどにかの人は強大過ぎた。覚悟が足りなかった。先程までの自分の言葉を撤回したい。無理。勝てるかというとNO!敗北必死。正直、泣きたい。なんて今日は不運なんだと嘆きたい。人助けしたのに、手加減無し、逃げ場無し、勝ち目無しの地獄に出会うなんて。ハルトに剣を教わっていた頃の模擬戦だってこんな理不尽じゃなかった。あの兄だから手加減していただろうけど、もっと楽しめる内容だった。
これはいい経験とか言ってられない。最早エレベストに酸素マスク無しで登山するくらいの過酷な試練だ。
考える。
負けるしかないのはどうしようもないほど分かる。何せ開始1分で、3時間ぶっ続けライブや、単独猛火トカゲ200体狩りだってへこたれたことが無かったシヴァリエでも息切れする程に体力をごっそり取られた。これが2分、3分と続けば、身体から壊れて、ある時、動かなくなるのが目に見えていた。
冷静に対処を考える。
第一体力温存、第二戦略的打開の糸口‥‥優先事項はこれだろう。そして、奇跡的にまだ1回も明連の剣をこの身に受けていないけれど当たったら、即敗北と考えて間違いない。あの攻撃を剣で受け止めただけで手が衝撃で震えるのだ。あの人の斬撃は銃弾にも等しいかもしれない。できるだけ彼の攻撃を避けなくてはならない。
そこまで考えて。
シヴァリエは明連から距離を置き、柄を握り込む。
思い出すのはやはり兄ハルトだ。
ハルトとの模擬戦は楽しかったけど勝てた試しはない。だから、1度。
「どうしたら兄様に勝てるのですか?」
と聞いたのだ。
その時、ハルトが何と答えたか。シヴァリエは覚えている。圧倒な実力差のある人間と対戦する‥‥そんな時は‥‥。
シヴァリエは決意する。
そのシヴァリエの決意はシヴァリエの表情さえ凛々しいものに変わらせる。そんなシヴァリエの変化に明連は気づいて、目を細め、満足げに微笑んだ。
「来るか‥‥。」
シヴァリエは思いっきり地面に踏み込み、明連に向かって突撃する。
だが、様相は先程と異なる。
走るスピードが倍になっていた。
模擬戦を見ている者はもっと何が起こっているのか分からなくなった。
どちらが有利で不利か、どちらが攻勢に出ていて防御に徹しているかも分からない、ただ目の前に瞬間移動しながら戦う人間が2人いるだけしか理解出来なかった。
フィンはふとミカエラの方を見た。
元はと言えば彼のせいで、こういうことになったのである。どんな表情で見ているのか気になったのだ。
すると、その彼はまるで魂が抜けたように真っ白になっていた。
(‥‥比べようもない。)
如何に自分が稚拙で弱くて、今まで狭い世界で生きてきたことだろう。周りも悪ければ自分も悪かった過去を認めざる得ない程に、目の前の模擬戦はプライドも自信もバキバキにへし折るようなそれだった。
これでは魔女を倒すなんて程遠い。
ただ足蹴にされる未来しか見えない。目の前にいる同い年の少年にも及ばないのだから。
ミカエラは意を決して、未だに呆然と見守ることしかできないでいる審判のアルフレッドに声をかけた。
「ペンドラ卿。」
「‥‥はっ!何でしょうか。」
「騎士団長代理ヘツギショウ卿ではなく貴方に剣術顧問はお任せする。」
「!?」
「‥‥俺では‥‥あの人についていけない‥‥。自分の力量はそこまで無い。」
「‥‥。」
「だが、諦めたわけではない。いつかシヴァリエに対等に戦えるようになって、あの方に教えを乞う。」
「陛下‥‥。」
「アルフレッド・ペンドラ卿。容赦も慈悲も要らない。扱いてくれ。」
王子の決意にアルフレッドは息を飲み、敬礼した。
「ハッ‥‥!!誠に光栄至極、貴方の為、誠心誠意努力します。‥‥そして、貴方の希望通り、厳しく指導致します。」
そうミカエラとアルフレッドが固く約束してから、3分後。
模擬戦の勝敗は一瞬にして終わりを告げた。
辺りは緊張と静寂に満ちている中、シヴァリエの荒い息遣いだけが響いていた。
汗の量や手足の震え具合、ふらついた足取り、そんな限界さえ超えているだろう状態でシヴァリエはそれでも目の前のその人だけ見据えて立っていた。
相手はやはり汗一つかいていない。その上、息も上がってない。悔しいほど未だ余裕のある態度だ。
だが、その人、明連の首筋には‥‥シヴァリエの剣が当てられていた。
開始6分、その剣で受けた斬撃1638回、躱した斬撃は5600回以上。
シヴァリエは文字通りボロボロだった。疲労で足が張っている。視界はぼやけ、喉はカラカラだ。
シヴァリエは約5分前明連に惑わされすぎて、身体を壊すくらい体力消費しないよう決めてから、体力温存しつつ、一瞬で相手の間合いに詰める縮地という走法を多用し、倍の速さで動くことで明連の攻撃を尽く躱す戦法に出た。そして、“隙”を伺ったのだ。
ハルトはあの時言った。
「相手に大きな隙が出来るのを待てばいい。」
どんなに強大で完璧な敵でも隙が出来る時がある。シヴァリエはそれを理解し実行した。その上、ハルトから習った剣は断つことに特化している。相手の行動の流れ、攻撃までの流れを断つように高速で移動しながら攻撃し続けた。流れやリズムを崩せば必ず隙が出来ると信じて。
そして、開始6分。体力温存したとはいえ、もう1歩も動けないぐらい消耗した瞬間、明連からやっと完全な一本が取れた。
明連は参ったように鼻で笑うと、シヴァリエに告げた。
「いい動きだったな。」
その言葉に、この模擬戦の終了を感じて、シヴァリエは目を見開く。
この過酷な模擬戦をシヴァリエは勝ち抜いたのだ。粘り勝ちしたのである。心の底からシヴァリエはホッとし、肩の荷が降りたように息を吐いた。
が。
「‥‥ふむ、安堵する体力がまだ余っているようだな?」
「‥‥‥‥え?」
「よし、もう一度するぞ。また一本取るまで。」
「え?え?いや、もう無理‥‥。」
「遠慮するな。なに、お前のレベルなら、最低でも4分あれば、俺から一本取れる。」
「えぇ!?」
「で、俺は移動速度を1.5倍にする。ああ大丈夫だ。毎秒20回の攻撃回数は変える気は無い。毎秒50回は流石にお前は死ぬだろうし。
‥‥では、次を始めようか?」
それを聞いたシヴァリエは本気で泣きそうになりながら、内心、叫んだ。
この人!!鬼だああああああああああああああああああああ!!!!!!!!
‥‥結局、シヴァリエは明連に気に入られたのか、あれから10分の模擬戦後に20分鍛錬することになり、クラスメイトやアルフレッドに本当に憐れなものを見る目で見られながらそれらを全うした。当然ながらシヴァリエは終了直後にぶっ倒れ、フィンに治療室に連れてかれ、4日ほど全く動けなくなった。
その後日。
騎士専攻のクラスメイトしかいない教室でシヴァリエはミカエラから「俺のせいで本当にごめん‥‥いや、すみません。」と心の底から敬語で謝罪されたが。
「でも、ほら、お前にとっても良い機会だったんじゃあないのか?騎士団長代理に直々に鍛錬をお前は受けたわけだし、コネクションが出来ただろ。だから、この件はプラマイゼロということで‥‥。」
シヴァリエはその謝罪を聞いて、はあ?と怒りが湧いた。何がプラマイゼロだ。こっちはミカエラに巻き込まれたせいで、今でも毎日アンナの治療魔法が欠かせない筋肉痛なのである。むしろマイナスしか被ってない。
しかし、身分だとか立場だとか懸念すべきことがある為、シヴァリエはわざわざぐっと怒りを抑えて話す。
「プラマイゼロとは何でしょうか‥‥?」
「俺は君に迫った上に訓練用とはいえ剣を向けたじゃないか。‥‥あの件、騎士団長代理との接点も出来たし‥‥結果的には君にとってもプラスだっただろう?」
「はい?」
「そうだろう?田舎の辺境伯が出会える人間じゃないし、だから‥‥この前のことは無かったことに‥‥。」
何言ってんだコイツ。とシヴァリエは貼り付けた微笑みの中で思った。意味がわからない。あれを見て何が良かったと思えるんだ。本当は厄災でしか無かったと叫びたいが我慢である。シヴァリエはハルトや辺境伯領の人達を思い出しながらミカエラの話を我慢しようとした。
だが。
ミカエラはどうも機微に聡く。
「あの‥‥もしかして‥‥君、怒ってるのか‥‥?」
僅かな態度でシヴァリエの怒りに気づき、そんなことを聞いてきた。因みに怒っている人物に怒ってるのか?なんて聞いた暁には、さらに火に油を注ぐことになるとミカエラは知らない。
「‥‥は?」
これにシヴァリエは完全に抑えていたものが、抑えられなくなった。誰のせいで怒りを感じて我慢していると思ってんだ、とキレたのである。
フィンが見たことないそんなシヴァリエに青ざめている中、シヴァリエは淡々と人当たりの良い笑顔のまま、聞いた事が無い程の低い声で。
「あはは、怒ってませんよ。怒ってません。ただ貴方とお話するのがとてもではないですが億劫で無駄だなと思ってるだけです。王子様?僕はあの鍛錬を受けたことは後悔していませんし、騎士団長代理と繋がりを持てたことも後悔してませんが、これで自分がやったこともチャラ、プラマイゼロだと言われると無性に貴方がタンスの角に足の小指ぶつけないかなと思ってしまうんです。えぇ、もしくは今すぐ貴方の頭の上に植木鉢が落ちてこないかな?って願ったり?‥‥まあどれも魔法で叶ってしまいますが、私は平和主義なのでしませんけどね?でも、貴方がもしこれ以上訳の分からないフォローなのか、人を苛立たせる天才的発言なのか意味不明な会話を続けるようでしたら、平和主義な私もこのまま堪忍袋‥‥いえ、口を滑らせて魔法を貴方にかけるかも分かりません。というわけで、私に「怒ってるのか?」などと筋違いにも案じるなら御自分の取り巻きのところにお戻りください。そちらの方がお互いの為ですから、ね?
因みにこの瞬間から、騎士団長代理と貴方が私に剣を振り下ろした件は別件とさせていただきます。いつまでも貴方があの場で起こしたことを忘れませんので。あしからず。」
そう言ったシヴァリエにミカエラは青ざめ、逃げるように席を離れて、自分の席に戻った。
シヴァリエの発言は正論だけど完全なるミカエラに対する暴言とも取れるそれだったが、先日の模擬戦を騎士専攻の男子は全員見ていた為、シヴァリエを咎める人間はいなかった。むしろ、同情すらある。ミカエラが席に座ったのを見て、シヴァリエの話を盗み聞きしていたクラスメイト達はすぐさま自分達の日常に戻っていって、何事も無かったかのように振舞った。
フィンはそんな風景を見ながら思う。
シヴァリエとミカエラはどうも相性が悪いようだ。ミカエラの行動一つでシヴァリエは不幸に陥るという因縁めいたものを感じる。特にお互い繋がりはないはずなのだが。
特に今回、ゲームでは鬼畜選択肢として有名なミカエラルートのあの選択肢が出たことに驚いた。5つの選択肢の内一つはハッピーエンドフラグだが、その他は全部バッドエンドフラグになるあれ。
ゲームとは違う状況、あの選択肢が出るルキウスのセリフもタイミングも違うが、シヴァリエはヒロインでもないのに、あの選択肢と全く同じセリフを言った。
結果、ミカエラは逆ギレ。シヴァリエは殺されそうになった。‥‥実はこの展開もゲームと一緒だ。あの選択肢を選ぶとヒロインはミカエラに逆ギレされて死ぬ。
そう、死ぬ。
ゾッとするが、もしあの明連が来なければシヴァリエは死んだかもしれないのだ。一体何故、シヴァリエはあんなセリフを言い、ミカエラはあんなことをしたのか‥‥。
「考えることが多いな‥‥。」
フィンは脳裏に未だに攻略対象の誰とも話さず関わらないゲームのヒロインである筈の同じクラスのユリアを思い出した。




