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第43夜(学園編) 商人に御厄介

前回のあらすじ


プロデューサーと再会する。

 














 そこにいた人物。








「‥‥人影があると思えば‥‥こんな夜分にどうされましたか?姫様。」






 こんな夜の、それも浜辺で、人気(ひとけ)のないここでその人に会うなんて、シヴァリエは思わなかった。

 黒髪に差す鴇色のメッシュ、性別が分からないその雰囲気、魔法で光るランタンをその右手に持ったその人は、8年前、王に謁見する為に港に来た時、船に案内した‥‥ジュリオだった。

「こんばんは。」

「‥‥こんばんは。」

 意外な人物に出会ったと思う。

 シヴァリエはあの出来事からこの8年、数える程しかこの人物と関わっていない。兄繋がりの顔見知りというレベルだろう。特に関わったことは無い。領主と商人だからそんなレベルだろうとも思うが。

 ジュリオは戸惑うシヴァリエに歩を進めると、親しげに声をかけた。

「姫様独りでこんなところまで‥‥。何かありましたか?」

「‥‥えっと‥‥。」

 その質問にシヴァリエは窮する。前述の通り、ジュリオとは顔見知り程度の付き合いしかないのだ。どう対応したものか困る。しかし、ジュリオは距離感が掴めないシヴァリエに踏み込むように近づいた。

「不審者かと思えば、貴方とは‥‥申し訳ありません。」

 ジュリオ曰く、家の近くに人影があったので不審者かと思って出てきたら、シヴァリエがいたということだった。

 ジュリオはそんなシヴァリエに、さらに言葉を続けた。

「帰路が分からないなら御領主に連絡して迎えを寄越すようにしますよ?今から事務所に戻ってから、ですけど。」

「!?」

 その言葉にシヴァリエは思わず首を振った。

「だ、ダメです!」

「?」

 まさか拒否の返答が来るとは思わなかったのか、ジュリオはやや驚きの表情を浮かべた。

「姫様‥‥?」

 ジュリオは首を傾げる。ふとその時、シヴァリエの頬に涙が流れた跡があることに気づく。‥‥それにジュリオは凡その出来事を察した。

「‥‥兄弟喧嘩でもしましたか?」

 そうジュリオが聞けば、シヴァリエは目に見えて俯いて落ち込んだ。路頭に迷った小さな子供のように縮こまる彼女は無言だが、確かにジュリオの言葉を肯定していた。

「‥‥‥‥‥‥。」

「‥‥困りましたね‥‥。」

 シヴァリエは一層の事、ジュリオに放って置いて欲しかったが、顔見知り程度の付き合いしかないが故に、ジュリオがそんなシヴァリエの気持ちを汲んでくれる気配は無い。

「夜分に未成年を独りにするなんてボクには無理ですし‥‥。」

 そこでふとジュリオは魔法で時刻を調べ始めた。午後11時‥‥その表示された時刻にシヴァリエはびっくりした。それ程シヴァリエは眠っていたらしかった。目の前の夜が深いはずだ。

 シヴァリエと目を合わせたジュリオは困ったようにその唇に指を当てた。

「‥‥喧嘩して合わせる顔がないって顔してますね‥‥。」

「‥‥うっ。」

 その心を言い当てられたことに、シヴァリエは驚く。ジュリオはしばし考え。



「‥‥とりあえず、ボクの家に来ませんか?」




 そう、シヴァリエに提案した。











 ジュリオの家は、シヴァリエがいた場所から5メートルも離れてないかなり近いところにあった。

 防潮林が茂る林の中に、ペンションのような小さな家がぽつんとあり、黒い馬車が近くに停めてあるだけで他には無い。辺境伯領の全ての港を支配する商会の長が住むには些か簡素で小さすぎる家だ。

 そうシヴァリエが思うと、ジュリオがタイミング良く。

「ボク、家、5件持っているんです。王都に一つ、辺境伯領の中心部に一つ、あとはよく泊りがけの取引で使う家が2件‥‥ここはオフの日用です。ああ、別荘はまた別にあるので勘違いしないでくださいね。」

「‥‥‥‥すごいですね。」

 辺境伯領の領主であるハルトでさえもあの屋敷と王都にある屋敷しか持っていないのに。ジュリオは得意げにはにかんだ。

「ええ、これも御領主が辺境伯領をフローレンス1栄える街にしてくれた為です。今や辺境伯領の品はどこでも高値で売れるんですよ。8年前の被害を全く被ってませんから。おかげでアーズワース商会の連中を見下し‥‥いえ、聞かなかったことにしてください。」

 笑顔でジュリオはそうシヴァリエに説明し、空気を変えるように咳払いした。こんなに持ち家があるジュリオは事実辺境伯領1の大富豪だろう。領主より持ってる財は多そうだ。ただ話を聞くと商人は商人で色々あるよう。

 ふと、そこでジュリオは今思い出したように言った。

「来客がいますが、構わないでいいですからね。」

「来客‥‥?あのお邪魔していいんですか?」

「ええ、気を遣う事無く。気を遣っただけ無駄な人間ですよ。姫様は堂々となさってください。」

「‥‥本当に厄介になっていいのかな‥‥。」

 来客‥‥。

 気を遣うな、ということはジュリオの友人なのかもしれない。

 帰った方が良いのでは?とシヴァリエは思うが、ジュリオがそんな顔で帰るのはやめなさいとやんわりと言った。

「‥‥そんな状態で帰ったら、喧嘩が激化しますよ。」

「え?」

「カンです。」

 そう言って、ジュリオが家の扉を開いた。

 アンティーク調のシックな内装、焦げ茶色と白を貴重とした趣ある部屋がシヴァリエを出迎えた。

 ジュリオは慣れた足取りで部屋に入ると、部屋の奥、暖炉の前に置かれたソファに腰掛けたその人に声をかけた。

「ただいま、戻りました。そして、未成年は女子1人保護しました。」

 その言葉にソファにいたその人が顔を上げる。

 その上げられた顔に‥‥シヴァリエは思わず口を手で押さえた。

 この驚きを何と評せばいいのだろうか?

「‥‥はあ?」

 ソファにいたその人は訝しげに目を細めて表情を変えたが‥‥その人は正しく。


「ルーク宰相様‥‥!?」


 シヴァリエは思わずぽかんとし、金髪に青い目をしたルークはシヴァリエの姿を見るとぎょっとした表情になり。

「ジュリー‥‥怨むぞ。」

 そう言って恨めしげにジュリオを見た。






 辺境伯領、国に差別されしその土地の、ただ一介の商人の家、そこに何故か国の王に次ぐ最高行政官、宰相の任を任されている人間がいた。


 シヴァリエは気が動転しそうになった。








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