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第20夜 ある少女の決起

前回のあらすじ


フローレンスの危機。












私はずっとその背中ばかり見ていた。

無力さばかり思い知るようなその背中ばかり。












私は米本明音。



大人気トップアイドルグループ『FortuneLuV』の1人だ。

訂正。

大人気トップアイドル恋茉莉まこの引き立て役その1だ。



最初はそうじゃなかった。でも、いつの間にか‥‥そうなってしまった。。

まことの出会いはまだ私達が地下アイドルとか言われていた時代だった。その時のまこはただ人懐っこい明るい、めげない女の子で、トップアイドルというより、ちょっと人より可愛い、普通に近所にいそうな女の子だった。実際、ファンの間で行われる人気投票でも、あの子は下から数えた方が早くて、『何処にでもいる子だから。』と当時のファンは辛辣なコメントを言っていた。

だから、まこに人気は無かったし、持ち上げられる機会も無かった。ずっと最後列の端で彼女は踊っていた。彼女自身もセンターとかフロントに興味が無さそうだった。



でも、私は当時から彼女を警戒していた。



容姿だけならば、あの子より可愛い子はこのグループにいる。

でも、あの子はやけに“目を惹いた”。

どんな人でもまこに目が行く。私達が並んだら、真っ先に他のメンバーのファンもまこを見る。

この妙にみんなの目を惹く彼女に危機感を抱いた。もしかしたら、私達を食ってファン全員を自分のものにするんじゃないか?そんな懸念が私にはあって、正直怯えていた。

そしてこの後、それが懸念通り、とんでもなく爆発することになるとは思わなかった‥‥。



新しいプロデューサーはまこを酷く推していた。



私達を蔑ろにしているんじゃないか、というぐらい、異常にまこを好いていた。あの子がそれを知っていたか分からないけど、少なくとも私達には分かった。異常なのだ。彼はまこだけしか見ていなかったし、まこ以外の私達の話はいつも右から左。私達にとっては最低なプロデューサーだった。

何であんな最後列の端で踊っているような子が好きなのか分からない。でも‥‥それが私が初めて見た、まこ中毒者だった。


「メジャーデビュー曲のセンターは、まこちーで行くよ。」


プロデューサーは事も無げにそう言った。

だろうな、と私は思った。まこ贔屓のその人がまこをセンターにしないはずが無かった。だが、それに猛反対したのは他ならぬまこだったのを覚えている。

それに地下アイドル時代から、グループの顔はもうある。柊美結という私達の中の絶対的センターが。


しかし、結局、プロデューサーは強制断行し、私達はまこをセンターにメジャーデビューをした。







そうして、待っていたのはいきなりの爆発的ヒット。



世界が変わったようだった。



地下アイドル時代とは比べ物にならないほどの世界が私達を待っていたのだ。



でも、私達にとって地獄の時代の始まりでもあった。

ドームツアー中、メンバーの1人がぽつりと言った。

「私の名前が‥‥ドームのどこを探してもいなかった。」

そう、それがきっかけだった。

地下アイドル時代はまこちーの名前を探すのが大変だったのに、今や私達の名前を探すのが大変になっていた。どこを見てもまこちー、まこちー‥‥私達も踊っているのに、ファンはまるで私達を見ていなかった。


全員、目を惹くあの子、まこばかり見ていた。


私は気づいた。

彼女は呪われているんだって。

人がまこだけしか見なくなる、見えなくなる呪いをあの子は持っていて、あの子が何もしなくても、人はあの子を見てしまい、終いには好きになるのだ。

でも、呪いは弱い。だって、私達がまこに惹かれることは無いし、国中の人がまこを好きなわけでも無い。それに強かったら、地下アイドル時代には既に注目されていたはずだ。

じゃあ何故、まこはここまでになったのか。


全てプロデューサーが仕組んだことだ。


まこをセンターにして、私達を周りに並べる。すると、まこはセンターで、しかも、私達がセンターを引き立てるように踊るから、誰よりも目立ち、誰の印象にも残った。

そう、まこは“集団の中で目立つこそ最も呪いが強くなる”。

プロデューサーは分かってた。

分かってて、センターにしていた。

まこをセンターにして、彼はさぞや儲かっただろう。国中がまこに惹かれ、まこの呪いから逃れなくなっていったのだから。



一方で、私達はどうなったか?



完全に引き立て役で、その上、干された。

まこの注目度が高すぎて、私達を知る人がまずいなかった。だから、どこに売り出そうにも無名すぎて仕事が無かった。それでもグループとして売り出していた分、収入はあった。だから生活は出来る。でも、やり甲斐は無かった。


だからと言って、私は腐らなかった。


まこの背中を見続けながら、そのまこに食わしてもらう気はなかった。

せめて、まこの背中を見続けることになっても、ライブ中に自分の名前が書かれた団扇を一つでも増やしたかった。私がここに、このグループにいることを世界に知らしめたかった。

だから、何でもした。

小さい仕事も、エキストラみたいな仕事も何でも‥‥!


そうして、ある時、あるゲームの宣伝大使になった。


『Fortune love 8』


中身は全く私達とは関係の無いストーリーだけど、私達のグループ名をあやかって付けられた名前の乙女ゲーム。

凄くファン層を選ぶストーリーをした乙女ゲームだったそれの宣伝大使に、私はなったのだ。

正直、この時までゲームとかした事がなかった。でも、やっと掴んだ仕事である以上、手を抜かなかった。攻略対象は全コンプ、設定資料集を読み漁り、開発者の裏話や裏設定もインタビューし、このゲームに関して、私は説明出来ないところは無くなった。

それに新鮮だった。

アイドルなのにファンにちやほやされることが無く、まこの日陰にいるしかない私には、乙女ゲームなんていう誰でもちやほやされるゲームは実に‥‥楽しかった。登場人物全てが自分を認めて、愛してくれるのだ。

こんな世界、まこだけしか味わえないものだと思っていた。

だから、どっぷりハマっていった自身がいた。


しかも、この仕事が評価されて、私はゲーム関係の仕事が急増した。



Fortune love 8は私の仕事も作ってくれたゲームだった。


中身が凄く人を選ぶ内容だとしても、私は好きになった。










そう、だから。







スフィア・カルマンとしてFortune love 8の世界に転生した時は驚いた。

スフィアは公爵子息ルートに置いて、悪役令嬢になるキャラだけど、今は、私だもの。悪役にはならない。それより、悪役でもこの世界に転生したのは嬉しかった。

あの世界で生きられるなら、どんなに幸せだろう、とは思っていたけどまさか叶うなんてね。


でも、何だかこの世界のフローレンスは色んなルートがごちゃ混ぜになって未来が悪い方向に行っている。


それはダメ。


フローレンスは幸せでなくてはならないの。


このままだとフローレンスは××××××ルートに入ってしまう。


だから、私が変えなくちゃ!

ヒロインの出番を待っている時間はもう無い。私を幸せにしたこの世界を私が救おう。


それに私1人だけじゃない。






‥‥柊美結が、私達の絶対のセンターが味方にいるのだから。



こんなに心強いことはない。



まこがいないこの世界では私達が一番になれる。



この世界で私はフローレンスを幸せにして、自分の名前を世界に知らしめて見せる!







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