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第8夜 序章の事件

前回のあらすじ


帝国の敵、来たる。

 












 「いやあ、しかし。こんな簡単に人質が捕まるなんざ。思ってなかったで。」

 「親分やりゃしたっす!」

 「これで首都まで連れて行って長のところまで連れて行けりゃ上々よ。」

 そう卑しい笑みを浮かべた男達‥‥3人とも奇抜な容姿をした魔族の男達は小さな金属の檻にシヴァリエを入れ、馬小屋からほど近い森に潜めていた馬車の荷台に押し込めた。

 「きゃあっ!」

 シヴァリエの小さな悲鳴が響くが、気に止める者はここにはいない。そんな卑しい笑みを隠そうともしない3人の男に、あの納屋にいた男の子が言い含めるように確認した。

 「なぁ、きちんと運ぶよな?お前達。」

 見かけは子どもだというのに、その男の子はこの場において誰よりも偉ぶっていた。事実、山賊のような格好をしている3人に対し、その男の子だけが小綺麗な格好をしていた。

 そんな彼に親分と他の男達に呼ばれた男が自信と胡散臭さを持たせた実に信用ならない口調で言った。

 「ええ。領主の嬢ちゃんをちゃんと運びますよ。そのためにここまで来たんですから。」

 「‥‥。」

 男の子はそれに信用ならない、とばかりに男達を睨むが、さっさと馬車の客席に乗った。それを男達は快く見送りつつ、溜息を吐いた。

 「こんなとこまで監視されるとは驚いたぜ。マジ‥‥。」

 「わざわざ人間を象った人形を作って派遣するたぁ、どんだけ俺達は信用無いんだ。」

 「まあ、良い。早いとこ逃げるぞ。」


 だが、そう男達が言った瞬間だった。



 「いたぞ!!!」

 その掛け声とともに無数の矢が火や毒を伴って放たれる。それを男達は即座に避けた。

「なっ。まさか、もう!」

 男達は驚きながらも馬車に飛び乗り走らせる。そうした瞬間、背後から躍り出たのは赤毛の馬に乗り、矢を弓に射掛けるサウスだった。彼の矢は寸分違わず、馬を走らす男の1人の腕を貫通する。

「痛っ!」

 思わず馬の手綱を落とす。すると、いきなり指示をなくした馬は戸惑い、歩みを遅めた。

「何してんだ!てめえら!」

「わああああ!!」

 親分と呼ばれた男が急いで手綱を握るが、既に遅かった。

 射抜かれた男が痛がる横、鬱蒼と茂る森から馬車に向かって飛び上がったのはターザであった。ターザは剣を構え、馬車に飛び乗る。その衝撃によって、馬車は大きく傾き、馬はそれに驚いて暴れ出した。

 御者台にいた彼らはバランスが取れず馬車から投げ出された。それをターザは見極めると、すぐに御者台に乗り移り、馬と馬車を繋ぐ縄を断ち切った。

 暴れた馬は馬車を置いて去り、男達は藪から出てきた他のサウスの仲間によって次々と捕縛していく。

 そう彼らはグラスゴーの緊急収集によって、ちょうど近場にいたサウスの1団が真っ先にシヴァリエを助けに来てくれたのだ。

 「意外に早く終わったな。」

 ターザがそう感慨深くいう中、サウスは馬車の荷台からシヴァリエの入った檻を出した。

 「嬢ちゃん大丈夫か!?」

 シヴァリエは怯えきっている様子でブルブルと震えていたが、そうサウスが声をかけるとほっとしたように笑みを浮かべた。


 だが。





 「‥‥全く、使い物にならない。」



 そんな男の子の声がした。

 ん?と誰もが思った瞬間、馬車を中心に火柱が上がった。それからターザやサウス、他の男達は瞬時に距離を取る。しかし、サウスの手にあった檻はその火柱の中にいる“それ”に奪い取られた。

 「嬢ちゃん!!」

 火の中にいるそれは檻を掴むと火から現れた。あの男の子である。男の子は檻を抱えながら、サウスの1団に捕まる男達を睨みつけた。

 「ここまで馬鹿とは思わなかった。まさか逃げるのが下手とはな。」

 そう男の子が言うと同時に周辺の森に火が放たれる。魔法によって構成されたそれは瞬く間に大火となり山火事となる。

 「いかん、不味い!」

 一気に火に囲まれたサウス達は、いきなり現れた身の危険に冷や汗を流した。このまま居れば、火に巻かれて燻されて死んでしまう。男の子が不敵に笑みを浮かべ、深めた。

 「監視だけのつもりだったが、致し方が無い。何故、お前達が私達を早く見つけることが出来たかはさておき、ここで死んで貰おう。」

 そういうと同時に山火事は業火となって彼らに向かう。その間に男の子は檻を持って、瞬時に移動魔法を展開した。

 「待ちやがれ!」

 「卑怯だぞ!」

 「何が卑怯なものか。目的さえ成せば良いのだ。」

 そう吐き捨てるように男の子は言うと、その瞬間、消えた。










 ++++++








 「‥‥。」


 同時刻。



 サウス達が男の子を逃した直後、執務室にいたハルトは机から立ち上がり、椅子に掛けていた上着を手に取ると、それに袖を通した。そして、外向き用のシンプルな帽子を被ると部屋からやや急ぎ足で出る。

 部屋から彼は出ると玄関までの長い廊下を誰にも声をかけることなく進み、さっさと歩いて行く。しかし。

 「?ハルト様、どちらへ?」

 そこへ先程、燻製作りから帰ってきて、まだシヴァリエが連れ去られたことを知らないシーラがハルトを引き止めた。シーラは彼が外向きの格好をしていることに首を傾げながら、目を瞬かせた。彼がそんな格好をしているのは珍しい。‥‥大体そういう服を着る時というのは“他の貴族に会いに行く”時だ。しかし、今日の予定にそんな予定はなかったとシーラは認知していた。だからこそ、分からない。何故、彼がそんな格好をしているのか。そして、どこに行こうとしているのか?

 だが、この寡黙な主人はただ一言だけしか言わなかった。


 「迎え。」


 むかえ‥‥?

 さっぱり分からないシーラを置いて、ハルトは玄関からさっさと外へ出ていき、玄関の扉を閉める。

 しかし、ほんのコンマ数秒でその玄関は開かれた。

 「ハルト様はどちらに!?」

 グラスゴーである。先程、玄関からハルトは出たというのに鉢合わせしなかったのか、酷く慌てた様子で帰ってきた。シーラはその謎の現象を二度見しながら、かなり焦った様子のグラスゴーに告げた。

「ハルト様は先程、迎えに行くと出ていったよ?本当にこの5秒ぐらい。」

 それにグラスゴーは膝から崩れ落ちて頭を抱えた。






 

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