紫陽花
梅雨の休日、伊織編。
「……う〜っ」
急に暑さを感じて、がばっと体を起こした。
「……蒸し暑い」
エアコン、切れてるのか。
そうか、タイマーにしたんだっけ。
まだ頭はぼんやりとしてるが、手は無意識にサイドテーブルの上に伸びている。
手探りで目当てのものを探し出し、ボタンを押すと『ピピッ』と電子音がきこえた。
起きたついでに枕元のスマホを手に取ると、10時23分。
6月中旬。
もう、この時間なら明るいはずなんだけど、薄暗いって……。
この、どんよりとした空のせいだな。
窓の外はグレーの分厚い雲が空一面に広がっていて、なんとなく空気が重苦しい。
ようやくエアコンが仕事をしだしたのか、涼しい風が吹いてきた。
「珍しく週末休みだっていうのに、雨って……」
このままベッドでゴロゴロするのももったいないし、とりあえず起きるか。
この前、番組で「梅雨入りみたいだよ」って言ったけど、まぁ、よくあるよね。晴れが続いて、梅雨どこに行った?ってやつ。
でも、ここ数日は『ザ・梅雨』って感じだ。
こうも雨が毎日続くと、気分もじめ〜っとしてくる。
洗いたてのTシャツに着替え、『ピーッ』という音を背に部屋を出た。
キッチンを覗くが、当然、ハチの姿はない。
この時間ならもう、店だろう。
……ぺたっ。……ぺたっ。……ぺたっ。……
自分が歩く足音に音が付いてたら、絶対にこんな音だろうな。
足が床に張り付く。
「あ〜っ。この湿気、もう梅雨おわんないかな」
髪なんて、この時期は多分二倍だぜ。
自分のくせっ毛は気に入ってるけど、この時期だけはちょっと面倒。
大きな溜息を吐きながら、ソファーにダイブ。
「今日は何にもしたくない。どうすっ……」
ゴロンとソファーの上で寝返りを打った瞬間、バランスを崩した。
咄嗟にローテーブルに手を付き、なんとか体を支える。
「はぁ〜。セーフ……」
ん?
思わず口元が緩んだ。
「……ハチか」
テーブルの上には一本の紫陽花。
さっきまで、やる気0だったんだけどな。
「よし、ハチが帰ってくるまでに家のこと終わらせよう」
大きく伸びをして、もう一度紫陽花に視線を向けてから立ち上がった。




