一瞬の……
瀬田が感じた、季節の移り変わりの瞬間。
『報道からBスタさん。速報を入れていただきたいので、今から原稿持っていきます』
生放送中のスタジオに、急に飛び込んできた音声。
今から?
番組、あと10分だぞ。
Qシート上の残りは1曲とエンディングだけだ。
もう、いっそのこと、次の番組に回してくれたらいいのに。
……まぁ、放送局の義務だからな。
思わずため息が漏れた。
とりあえず曲繋ぐか。
原稿来ても、IORIさん下読みしたいだろうし。
隣のミキサーにQを出して曲を繋いだ瞬間、タイミングを測ったかのように飛び込んでくる。
「原稿持ってきました。これ、お願いします」
報道から受け取った原稿を見て、赤ペンで線を引いていく。
「……もう、こんな時期か」
曲のリメインを確認してからブースに入った。
IORIさんに原稿を渡して指示を出すと、すぐに副調側に戻る。
「IORIさん、曲終わるんでいきますね。読み終わったらそのままエンディング行っちゃってください。BGは追っかけます」
トークバックで指示をして、Qを出す。
『気象情報をお伝えします。
××県南部に竜巻注意情報が発表されました。××県南部は現在、竜巻などの激しい突風が発生しやすい気象状況になっています。頑丈な建物へ避難するなどの安全を確保してください。
なお、この情報は〇〇時まで有効です。
以上、気象情報をお伝えしました。
さて、今日も2時間お送りしてきました〜……』
はぁ〜。
無事に速報を入れられて、ほっとした。
まだ番組が終わってないのに、背もたれにもたれ、ダラ〜っとする。
何度やっても、生放送中の速報は緊張するんだよ。
そんなことを考えてたら、番組が終わってた。
まぁ、無事に終わってよかった……よな。
空を見上げると、低い位置で黒い雲が蓋をしてるように見えた。
雲のすぐ下は青空。
なんか、変な天気だな。
5月になったのに風は冷たいし。
空気も、どこかひんやりして重い。
さっき竜巻注意情報が出てたから、まぁ、そうか……。
なんとなく、早く家に帰りたくなった。
「ただいま〜」
家に帰ったら「ただいま」って言いたくなるんだよ。もう、癖だな。
『パキッ。パツパツッ』
うん?
雨の音……じゃない?
それよりももっと硬いというか、軽いというか……。
慌ててリビングの窓に近づく。
「え?マジで?」
思わずベランダに飛び出した。
「これ、霰?雹?」
小さな白い塊が降ってくる。
「え?本当に氷なんだ!すごい!なんか面白いんだけど」
落ちている小さな塊を手に取ると、すぐに溶けていく。
初めて見たかも。
「あっ、そうだ」
どうしても霰をキャッチしたくて、Tシャツの裾を両手で持って広げる。
あっという間だったけど、ずっとワクワクしてた。
「ただいま〜」
「久保さん、今日、霰降ったの知ってる?」
向かいで首を傾げてる。
そういえば、今日は気象情報をたくさん入れたな……とかぶつぶつ言ってるけど、どうやら霰は見てないみたいだ。
「久保さんに見せてあげたかったんだけど……」
「動画でも撮ったのか?」
「……頑張ってキャッチしようと思って」
「……うん?キャッチ?」
「……出来なかった」
しょぼんと肩を落とした瞬間、口に手を当てて笑いを堪えてる久保さんが目に入った。
笑うなんて最低だな。
机の下で、ボスッと久保さんの足を蹴った。
「……ごめん、あんまりにも瑞樹がかわいくて」
「かわいくない」
再び机の下で大きな音を出した。




