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ようこそ冒険学部へ  作者: 嶋森智也
第8章:クエスト「迷走!オリエンテーリング!」
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8-18

「……しくじっちまったな。人間界(こっち)に来れば暴れ放題食い放題だと思ってたんだが」


 始原魔術の余波を受けて綺麗に(たがや)された地面の上で、大蛇がぼやいていた。

 獅子と山羊は、跡形もなく消滅してしまった。残ったのは大蛇の先っぽ、頭の部分が少しだけ。その命も間もなく尽きるだろう。

 自らの死期を悟り戦意を失った大蛇は、どこか達観しているように見えた。


「お前たちは、どうしてこの世界にやってきたんだ?」

「あ?そんなもん好き勝手やるために決まってんだろうが。魔界ってのは俺たちなんぞ鼻息一つで殺せるような化け物どもがわんさといるんだぜ。

 他の世界がどんなもんか知らねえが、少なくとも向こうに比べりゃどこだってイージーモードだろうよ」

「だからって人を襲ってもいい理由にはならないわ」

「知るか。弱い奴が悪いんだよ」


 薄々そうじゃないかとは思っていたが、やはり魔界は弱肉強食の無法地帯だった。俺たちが友好的な魔物にさっぱり出会わないのも魔界という土地柄が深く関係しているのだろう。

 キマイラに同情はしないが、彼らなりの理由があってこの世界に来たということは理解した。

 だが、それよりも気になることを、この大蛇は口にした。


「つまり、お前たち魔物は何らかの手段を使って自発的に世界の壁を越えてきたんだな?偶発的な事故とか他人の思惑なんかじゃなく、自らの意志で」


 俺がそう言うと、大蛇は良く気付いたじゃないかとばかりにニヤリと笑った。蛇の笑顔なんて生まれてはじめて見たが、何とも不気味だった。


「いったいどうやったんだ?召喚術か?それとも魔物を他の世界に飛ばしてくれる道具みたいなものでもあるのか?」

「さーて、どうだかな」


 教える気はないということか。大蛇は歯噛みする俺を見て残された力で精一杯嗤っていた。


「ククク、せいぜい悩めよ。ざまーみろ。……だがまあ、あまり時間は残ってないかもしれないぜ?」

「時間……?」

「アレのお陰で一匹狼の俺たちでも簡単に見つけることができるようになったんだ。群れを作ったり、手下を従えてる連中の噂に上ればあっという間だろうな。覚悟しとけよ?これからはどんどん増えるぜ」

「え?3匹がくっ付いてるのに一匹狼っておかしくないですか?」

「マナ、少し静かにしててくれ。もう少しで何かが分かりそうなんだ」


 しかし、既に大蛇の瞳からは生気が失せていた。

 大蛇の言う"アレ"とは何だったのか、モヤモヤとしたものを抱えながら、俺たちはその場を後にした。




 3人横並びで草原をひた走る俺たちの前方に、懐かしきヴィエッタ学園の正門が見えてくる。

 門の向こうではタルカス先生が参加者名簿らしきバインダーを片手に立っていた。その隣にはバレッタが腰に両手を当てて俺たちを待ち受けていた。

 最後の力を振り絞ってゴールラインを踏み越える。疲労困憊(ひろうこんぱい)で足を止めた俺たちに向かってタルカス先生は無慈悲に宣告した。


「ご苦労だった。冒険学部第3チーム、最下位だ」

「まあ、そうだよな……」


 キマイラを撃破した俺たちは無事に橋を渡ることに成功したものの、増援を引き連れて戻ってきた橋の防衛部隊に捕まっていたのだ。

 彼らは俺たちがキマイラを撃破したと聞いてたいへん喜んでいたが、それはそれとして事情聴取は長時間に及んだ。

 何せキマイラはクリシュカで未だかつて目撃されたことのない新種の魔物、しかも1度はクリシュカ軍を敗走させた大物だ。

 俺たちはキマイラの特徴やら行動パターンやら弱点といったものを洗いざらい吐いた後、詰所から笑顔で送り出された。

 「君たちの英雄的行為は上層部にも伝えておくよ」などと言われたが、欲しいのは感謝状ではなく時間なのだ。

 結局、俺たちが学園に帰還したのはその翌日、4日目の昼過ぎだった。


「お前たちならば上位に入れると思っていたのだが。……何か、あったのか?」

「弁解はしませんよ。大人しく結果を受け入れます」


 先生はいつも通り淡々と「そうか」と言っただけだった。

 初日から勝利の女神に呪われたような展開の連続だったが、慣れない行軍で苦労していたのは皆同じ。これが今の俺たちの実力なのだ。


「それに……何だかんだ言って楽しかったからな」

「ええ。苦しいこともあったけれど、終わってみれば充実した4日間だった」


 ジャンヌの表情は穏やかだった。もはや孤高の花ではない、親しみの感じられる微笑。

 兄をして堅物と言わしめる彼女がこんな顔を見せるなんて、ほんの数日前までは思いもしなかっただろう。


「ふん、楽しかろうと辛かろうと負けは負けよ!これで我々騎士学」

「私、冒険学部(ここ)に来て良かった。入学したばかりの頃は気持ちばかりが焦っていたのに、今はこんなにも心が軽い。全部あなたのおかげ」

「だいたいガウェイン先輩が大目に見ているからっていい気になっ」

「大げさだと思うけどな。俺はただ君と喧嘩して一方的に言いたいこと言っただけだし」

「そんなことないわ。私の夢を応援してくれる人なんてあなたがはじめてだったから、とても嬉しかった。本当に、ありがとう」

「ちょっ……あなたたち聞いてるの!?」


 飾り立てない真っ直ぐな感謝の言葉はいかにもジャンヌらしい。

 ジャンヌのこういう部分をみんなにも知ってもらえれば、きっと彼女の味方はもっと増えるし、彼女の世界も広がっていくはずだ。

 ……なんて、保護者ぶった感想を言うのはよそう。彼女は俺なんかよりずっと強い女性なのだから。


「あの、お2人は何やら満足したような顔をしてますけど……私たち、最下位ですよ?罰ゲームですよ?いい話っぽいノリで誤魔化しても明日からタダ働きの日々なんですよ!?そこのところ分かってます!?」

「今だけは忘れさせてくれ。先のことを考えると憂鬱になる」

「現実逃避ですか!?もうやだー!最悪ですよこのチーム!」


 泣き出すマナになぜか楽しそうなジャンヌ、キーキー声を張り上げるバレッタに温かい目で俺たちを見守るタルカス先生。

 お祭りのような喧騒の中、学部対抗オリエンテーリングは幕を閉じた。

 ……ちなみにバレッタは最後までジャンヌの眼中になかった。少しだけ可哀想だと思った。


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