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ようこそ冒険学部へ  作者: 嶋森智也
第8章:クエスト「迷走!オリエンテーリング!」
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8-17

 獰猛な獅子、俊敏で死角のない大蛇、そして魔術を操る山羊。たった1匹で魔物の軍勢に匹敵する力を持ったこの化け物を相手に、マナは臆することなく突撃する。

 マナの始原魔術は威力だけなら逆転の秘策となり得るポテンシャルを持っている。あの光線の直撃を食らえばいくらキマイラとて一たまりもなかろう。

 ただ1つの問題は、果たして命中させることができるのかということだ。

 マナは魔術を制御できない。前回のように手当たり次第に撃ち出すだけではキマイラに避けられる可能性が高い。

 彼女もそれを分かっているからこそ、できるだけ近付いて命中精度を高めようとしているのだ。

 失敗は許されない。切り札の正体がバレてしまえば、キマイラは距離を取って魔術でマナを片付けようとするだろう。


「牙を折られて血迷ったか。それともまだ奥の手があるのか?どうあれ、好きにはさせん」


 獅子は用心深い視線でマナの全身を観察しつつ、背中の山羊に「やれ」と合図を送る。

 山羊の口元が赤く光ったその瞬間、俺は捨て身の勢いでキマイラに体当たりを仕掛けた。


「おおおおおっ!」

「チッ、うぜえんだよっ!」


 全身全霊のぶちかましだったが、攻撃を予期していた大蛇の足払いを受けてバランスを崩し、頭から地面にダイブしてしまう。

 急いで顔を上げた俺の視界いっぱいにキマイラの足裏が見えていた。……踏み潰される。


「ソウタっ!」


 足を強引に引っ張られる感覚。紙一重ならぬ髪一重で俺の頭はトマトソースの憂き目を逃れた。

 ジャンヌは俺を助けたついでに剣を振り、キマイラに一太刀浴びせようとする。当然のようにこれを防ぐ大蛇。

 だが、いくら反応が速くとも大蛇は1匹なのだ。フリーになった俺はその場でキマイラの胴体に正拳突きを食らわせる。

 立ち上がったばかりで体勢も不安定、腰も入っていない一撃だったがキマイラの体を僅かに揺らすことには成功した。お蔭で山羊の照準がブレて、火球はマナを素通りしていった。


「ええい、邪魔っけじゃのう。先に死にたいのなら素直にそう言わんか」


 しめた。山羊がマナから気を逸らした。これで彼女を止めるものは何もない。後は俺が囮となって山羊の火球を避け続ければいいだけだ。

 ただ……最初の1発だけはまともに受けることになりそうだ。


「『炎』、ホイっと」


 極限まで簡略化された詠唱。キマイラを殴った直後の俺は山羊から数メートルと離れていない。俺は仕方なく、右腕を捨てた。

 握り拳を前に突き出し、火球の爆発から少しでも体を遠ざける。反射的に利き腕を出したが、左腕を犠牲にした方が後々の生活で苦労しないんじゃないか?と気付いた時にはもう時間切れだった。

 爆発。視界が真っ赤に染まる。

 不思議と痛みは感じなかった。熱さもまた。それどころか、寒気が全身を襲っていた。

 当然だろう。なぜなら、周囲にはひんやりとした氷の壁が俺を守るように屹立(きつりつ)していたのだから。


「──この人は、殺させない」


 俺とキマイラの間に割って入ったジャンヌの手には、鈍い光を放つ魔法剣が握られていた。

 火事場の馬鹿力だったのだろう、あの一瞬で火球に耐えうるほど大量の氷を作り出したジャンヌは、最後の力を出し尽くしてよろめいた。


「ジャンヌ!?」

「だいじょう、ぶ……少し、疲れただけだから」


 地面に頭を打つ寸前だった彼女を抱き留め、首筋にそっと手をやる。脈は少し不安定だったが、幸い命に別状はなさそうだった。

 魔力が尽きた状態で無理矢理魔術を使おうとするなんて、いくら俺を助けるためでも無鉄砲がすぎる。今になって気付いたが、他人の無茶はこんなにも心臓に悪いのか……。

 俺は自分がしでかしてきた危険行為の数々を密かに反省した。


「存外に粘るな、ニンゲンよ。だが気付いているのか?その壁が分断したのは我々だけではない」


 獅子は壁越しに俺たちを一瞥(いちべつ)すると興味をなくしたように背を向けた。血に飢えた獅子の瞳が次に映すのは、マナだ。


「悪手だったな。窮地を逃れるためとはいえ、厚い氷で自らを覆ってしまえばお前たちもまた我々に手を出せん。これで3匹が1匹と2匹になった」


 キマイラの体が猫の"伏せ"のような姿勢でゆっくりと沈み込み、4本の足に力が溜め込まれていく。

 獅子博兎(ししはくと)。ちっぽけな少女の命を刈り取るために、キマイラは最大級の力と殺意をもって向かう。


「バラバラの群れが、常に三位一体の我々に敵うはずがない。自分たちの仲間が哀れな肉塊に成り果てる様をそこで見ているがいい!」


 これまで人語を口にしていた獅子が本能を爆発させ、獣じみた吠声(ほえごえ)を上げて猛り狂う。

 木々までが恐怖するように葉を散らす中、マナはただキマイラの姿だけを見据えていた。


「大きなお世話でっすよーだ!バラバラでもグダグダでも、これが私たちのチームなんです!だったら、やるしかないじゃないですか!」


 巨体を唸らせて飛び掛かるキマイラの爪がマナの体を引き裂かんとするまさにその時、マナの手元が白く輝いた。


「『(なんじ)に命ず、撃滅せよ』──!」


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