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ようこそ冒険学部へ  作者: 嶋森智也
第5章:クエスト「採石場の死闘!」
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5-3

 ギルドのカウンターから離れ、再び食堂の席に着いた俺たちはまず情報の整理から始めることにした。

 前もって現地に偵察に向かっていたグロムによると、かなり大規模な群れが採石場付近に居座っているようだ。


「昨日ボクが見に行った時は魔物が多すぎて採石場まで辿り着くことすらできなかったんだ。少なく見積もっても全部で30匹以上はいると見たね」

「どんな魔物がいたんだ?群れっていったらやっぱりゴブリンとか?」

「色んな魔物の混成だよ。ゴブリンとかガルムとか、あとスライムもいたかな?

 奥の方にはもっと他の魔物もいるかもしれないけど、メインはその3種類だと思うよ」

「そいつらが仲良く採石場を占拠してるのか?共食いしないのか、それ」


 "悪魔の胃袋"ではスライムが他の魔物たちを食い尽くしていたのだから、別種の魔物同士が容易く友好関係を築けるとは思えない。連中の信望を一手に集めるような親玉でもいれば別だが。あるいは、何者かが魔物を操っているとか。


「するよ。普通ならね。でも、あいつが近くにいる限り魔物たちはみんな仲良しこよしさ」

「あいつ?」

「デビルアイ。羽の生えた大きな目玉だよ。あいつの瞳は知能の低い魔物を魅了できるんだ。

 自分1人じゃ何もできないくせに、そうやって手下を増やして人間に嫌がらせをするのが大好きっていう性根の曲がった奴さ。美しくない」


 グロムは苦虫を噛み潰したような表情で語る。どうやら、そのデビルアイに彼自身も辛酸を舐めさせられた記憶があるようだ。


「羽ってことはやっぱり空を飛んでるんだろうな。親父の言う通り、俺たち以外にも遠距離攻撃ができる魔術師は必須か……」


 武闘家の俺では敵が上空に逃げた場合の対処方法が限られてしまう。グロムも男なら前衛と言っていたし近接主体の戦闘スタイルだろう。

 どちらにせよもう少し頭数が欲しいものだが、アキュートとナギアはついさっき珍しく一緒にダンジョンに向かったばかりだし、リンはどこにいるのか分からない。というか、俺は未だにリンの私生活を何一つ知らない。

 プリムラは午後から黒魔術学科で授業を受けると言っていたが、俺の頼みとあれば協力してくれるかもしれない。危険なクエストに彼女を連れていくのは正直気が引けるのだが、どうしたものか。

 俺が指折り数えながらパーティ候補を考えていると、グロムが何かを閃いたのか、軽快に指を鳴らした。


「なんだ、いるじゃないか。魔術が使えて実力も折り紙付きな女性が」


 グロムの視線の先には1人の少女が座っていた。少女は窓際に設置された個人用の小テーブルで、手のひらサイズの文庫本を黙々と読んでいた。

 年齢は俺と同じくらいで、腰に届くほど長い金色の髪と、切れ長の青い目が特徴の少女だった。

 彼女が着用している黒のリーファージャケットはダブルボタンのしっかりとした作りで、冒険者というよりどこかの軍人か役人のような雰囲気を醸し出していた。

 同じく黒色のスカートとニーソックスの隙間からは細いながらも引き締まった太ももがわずかに顔を覗かせていて、女性的な魅力と洗練された機能美を密やかに主張していた。


「あれは確か……ジャンヌっていったっけ」

「そう。アストラン家のお嬢様さ。剣も魔術も人並み以上にこなす優等生」


 アストラン家とかいうのは知らないが、"子鬼の巣穴"で先生たちに混じって3つ首のケルベロスと戦い、その討伐に大きく貢献したと目される彼女のことははっきりと覚えていた。

 ジャンヌはその後のダンジョン実習においても目覚ましい活躍を見せていた。同じチームを組む機会こそなかったが、彼女の実力が他の生徒と比べて頭一つ抜けていることは遠目にも明らかだった。

 魔法戦士として遠近問わず高いポテンシャルを発揮していたジャンヌ。そんな彼女がパーティに入ってくれるのならこれほど心強いことはない。

 ただ、あのジャンヌが果たして俺たちの誘いを受けてくれるのかという不安はあった。

 俺はジャンヌが他の生徒たちと一緒にいるところを滅多に見たことがない。たまにリンが話しかけている程度だ。それも受動的なもので、ジャンヌ自身が誰かと積極的に関わりを持とうとしているようには思えなかった。

 ダンジョンの探索もたった1人でこなしているとさえ噂されている彼女が、おいそれと協力してくれるものだろうか?


「ジャンヌを誘うことに異存はないけど、面識はあるのか?彼女、あまり社交的なタイプじゃなさそうだから、初対面の人とクエストに行くのは嫌がるんじゃないかな」

「安心しなよ。何度か話したことがあるから名前は覚えてもらえてるはずさ」

「……それ、ちゃんと会話は弾んだんだよな?」


 一連の言動からグロムの人となりは何となく理解していた。彼がもしジャンヌに粉をかけて彼女の不興を買っていたとすれば望みは薄い。

 まあ、上手くいっていれば俺なんかに声をかける前にジャンヌのところに行っていただろうし、予想はついているのだが。


「……拒絶や嫌悪は慣れっこなんだけどさ、『何を言ってるのか分からない』って真顔で返された時はさすがに堪えたよ」

「それは……。たぶんグロムが悪いな」


 残念だが彼の語りを聞いた大半の人間が同じ感想を抱くだろう。これは期待できなくなってきた。


「ま、いいさ。重要なのは結果じゃない。行動したという事実が人間を成長させるんだ。それじゃあ早速行ってみようじゃないか」


 何やらカッコいいことを言って自分を納得させたグロムに続いて俺は席を立った。今回こそは結果が伴うことを祈りながら。

 ジャンヌはテーブルの傍までやってきた俺たちに気付くと、本のページに指を挟んで一旦閉じてから顔を上げた。ページの隙間からチラリと見えた内容は何かの戦術論のようだった。


「……何か用?」


 特に明確な感情を映していない、透き通った目が俺たちを見据える。とりあえず、疎ましがられているわけではないようだ。

 まずは第一関門突破だ。俺はグロムに目配せして話を促した。

 グロムの交渉力は未知数だったが、まず最初にクエストを受領した責任者である彼の口から説明するのが筋だろう。


「すまないね、読書中に邪魔をしてしまって。しかし今ここで切なる想いを伝えなければボクは夜毎後悔の念に苛まれ続けることになる……そう思って声をかけたんだ。どうかキミの時間をほんの少しだけボクに分けてくれないか?」

「ちょっと待て。なんで口説いてるんだ。肝心の用件はどうした」

「えっ……、今のはただの挨拶なんだけど、何かマズかったかな」

「ノイズが多すぎるだろ……」


 話にならなかった。これでは確かに何を言ってるのか分からない。

 このままではせっかく得られたチャンスをふいにするどころか俺にまで変なイメージが付きかねない。俺はグロムから選手交代して事情を話すことにした。


「手短に話すよ。俺はソウタ。厄介な討伐クエストを受けて手間取ってる。だから君の力を借りたい」


 かなり省略したが、必要最低限の情報は提示できた。どうか興味を持ってくれるといいのだが。

 ジャンヌの表情は動かなかった。まったくの無関心というより、どちらかといえば態度を決めかねているように見えた。

 てっきりにべもなく断られるとばかり思っていたのでこの展開は嬉しい誤算だった。


「あなたたちの置かれている立場は分かったわ。でもどうして私に?生徒なら他にもいると思うのだけど」

「それはもちろんキミの実力を買っているからさ。1期生でキミより強い生徒なんてそうはいないしね。

 何より今回はかなり危険なクエストなんだ。腕の確かな仲間がいてくれるとボクたちも非常に助かる」

「かなり危険……」

「グロムに聞いた話だとデビルアイってやつが魔物の群れを率いてるらしい。群れの正確な規模も不明だから何が起こるか分からないし、無理にとは言わないけど」


 ジャンヌは先ほどまで読んでいた本の表紙に目を移してしばらく考え込んでいたが、最終的には本に挟んでいた指を抜いて完全に閉じた。俺はそれを承諾のサインだと受け取った。


「分かった、受けるわ。難度の高いクエストは私も望むところよ。むしろ簡単なクエストなら断っていたぐらい」


 知り合ったばかりの面子で通常より危ないクエストに向かうのは実力者のジャンヌとて躊躇(ちゅうちょ)するだろうかと思っていたが、その心配は杞憂に終わった。

 その後、俺たちは何人かの知り合いを当たってみたが、皆何かしらの用事や事情があったためこれ以上の増員を得ることは叶わず、俺、グロム、ジャンヌの急造パーティは3人で採石場へと向かうことになった。


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