筆記テスト
私立ダンスカー学園。他の校風とは明らかに特異でありながら最高学府と呼ばれるのには理由がある。
一つ目は在学生徒。この学園にはヒトのみならず、魔族も在籍しており、それも貴族から奴隷までピンキリで、広く開けた学園である。
二つ目は入学方法。最高学府ゆえに、高い能力など入学審査や条件は厳しいものとなっているが、それすらもお金で買うことができる。これらで得た莫大な富を施設に充てているのだから最高純度の勉学環境となるだろう。金は金を生むのである。
三つ目は戦争システム。クラス分けしたクラス間で模擬戦争を行い、生徒間で刺激し合うことで研鑽を磨くシステムがこの学園にはある。
これら特異な校風と、最高学府というブランドによって、今日の私立ダンスカー学園があるのである。
素晴らしいダンスカー!讃えよダンスカー!
((これ、重要なテストの表紙に書くことか?))
時は入学手続きから1週間後。3週間後に控えた入学式及びクラス区分けの為の筆記テスト5分前。全受験者の前に10枚綴りの筆記用紙が渡された。
試験場には100人。受験者は腰掛け試験開始の合図を待つが、開始までの独特な緊張感のなか、皆がテストの表紙にツッコミをいれた。
(入学試験より難しいと聞くが、さて)
神才と呼ばれる女を除いて。
(この試験で高得点を取り、最優秀区のA区に入らなければ。ヘマを侵してB区以下になればつまらない授業を受けるはめになる)
そう。このダンスカー学園では入学前の区分け試験により、A~Fまでの区に分けられる。Aを最優秀。Fを最劣等として、試験の成績優秀者からA区に、順を追って配置していく。授業内容も教室設備もAは優れ、Fは劣るものとなっている。
「始めてくだツィッ!...」
((......))
「始めてください!」
((噛んだな))
一風変わった試験官の開始合図を境に、一斉に文字を書き綴る音が試験場に響く。そして、そそくさと開始の合図をした試験官は退場していく。
(試験官は1人か。総勢100人を1人で監督とは、少々緩いのではないか?)
顔をそらさぬまま、しかして設問に解答を埋めながら試験場の様子を確認していく。幼少より身に付けた、どんな状況でも思考とは別離に周囲を警戒する癖である。
(問題も予想よりも大したものではない。多少難しいものもあるが...なんだこの、スカートは元々男性用衣装である。○か×か...とは。魔法や武術に関係あるのか?)
○と解答しながら脳内で不満を漏らす。
(A区に入らなければと気負いしていたが、杞憂だったな)
すらすらと解答を埋めていき、最後の設問を埋め机から顔を上げると、まだ皆は試験に悪戦苦闘していた。
(やはり、この学園も鈍色に変わるのだろうか)
神才ゆえの苦悩。
それは、苦労を遥か昔に忘れたゆえに、物事が予定調和でしかなくなり、世界が鈍色で見えてしまうことだった。
(最近で感動したことって、なんだったかな...4年前の学校の模擬試け...ん?)
物思いにふけっていると、ふと、視界のなかにピクピクと動いている男を見つけた。机にかぶり付いているため、試験官はおろか周囲には分かりにくいが、他の受験者のすき間をぬってセアの視界に捉えた。
(なにを試験中にピクピクしているのだ?変わったやつも居るのだな。試験時間も半分を過ぎて、そろそろ追い上げる者もいるだろうし、邪魔だけはするんじゃないぞ)
暇をもて余したセアは心の中で注意をするも、特に何もすることがないのでそのまま男を視界の中で観察する。
(ふむ。チラチラと顔を上げ...時計...を見るには顔が上がってないか。と、なると試験官を見ているのか?)
ついつい状況を確認してしまうセア。
(そうか。難問に行き詰まりカンニングをしようとしているのか。それで試験官が邪魔だと。違法も反則も戦の内。試験官相手にどのようにしてバレずにカンニングをするか、見物ではあるな)
例え悪事であろうと、自分と身の回りにに害がなければ許容してしまうセアであった。
(もう少しで終了か。さて、どうするのだ...ん?)
あくまでも観察者として男を見るなか、視界に新たな変化を捉えた。
すっ
観察していた男の1つ前の席にいた女性が手を上げた。
試験官が近付くと、なにやら小声ではなし、試験場を出ていった。
(トイレか。あと7分でトイレを含む外出禁止になるからな。行きたくなる子もいるだろう...ん?あの男、挙動がおさまったぞ...そうか。前の席の答案用紙を見たのか。バレなかったようだが、あの子がトイレに行かなければどうするつもりだったのだろうか)
答案の最終チェックをしつつ他愛のない疑問を浮かべるセアの視界に、また新たな変化が訪れる。
(あの男、徐々にだが、またピクピクしだしたぞ?)
もはや暇の極地である。
(一難去って、また一難とは...たしか極東の島国の言葉だったか)
「筆記具を机に置いて、解答をやめてください!」
試験終了の合図とともに、解答用紙に書き綴る音が消えた。
セアは終始余裕を浮かべ(人間観察すら行い)ながらも歴代最高得点を叩き出した答案を、前の席の人に順に渡していき、それを試験官が回収していく。そしてあの男は死んだように机に伏していた。
(少し哀れだな)
観察者は、そう心のなかでつぶやいて試験場を後にし、実技試験会場へと歩を進めた。




