第88話 南海の王。
・22レベル半魚人とエンカウントしました。
コテツさん達が突撃し、ホノカちゃんの雷撃槍雨で生き残った、それでもまだまだ大量に居るハサギン達が迎撃の態勢を取る事でウィンドウにエンカウントが表示された。
慌てて僕も再び支援アーツを唱える。
「広域……高位……祝福っ! あと広域……高位……加速っ! ついでに広域……高位……防護印っ!」
個別にかけるよりは格段に早いとはいえ、毎回広域と高位を重ね掛けしていくのはちょっと面倒だけど、これでAP消費合計80なのだから破格のアーツだ。しかもパーティ人数が増える程にコストパフォーマンスは高まる。
この効率の良さなら僧兵とか同じアーツでもAP消費が激しいと言っていたサラサラさんでも全員に支援を回せそうだけど、僧兵じゃ広域を習得出来ない辺り上手くできているというか残念というか。
「うぉぉぉっ! こりゃすげぇぇー!!」
更に自分に高位魔力活性をかけていると、コテツさんが嬉しそうな声が聞こえた。
見ると物凄い勢いで半魚人の群れを殴り飛ばしている。
更にその隣でマヤも同じように突進し、持っている盾で半魚人を吹っ飛ばしている。
「私も、狙い撃つ」
「ウチ等もがんばらにゃー」
そうして飛ばされてまだHPが残っている少数の半魚人をノワールさんとルルイエさんが短剣と弓で撃ち落としていく。
今までも皆強かったけど、今日は更に段違いの強さだ。パワーもスピードも一桁上になっていて、目で追うのも大変だ。
例えるなら今までが怪力の木こりだったのが、チェーンソーを持ち出した位違う。
「すごい……これが皆が転職で得た力?」
「何言ってるのよ、ユウの力でしょ?」
乱戦になっている為魔法を使わずにいつの間にか僕の横に来ていたホノカちゃんが僕の呟きを聞きつけて答えた。
「僕?」
「どう見ても高位祝福と高位加速で強化された動きじゃない」
そう……なのかな? そういえば確かに昨日のマヤとコテツさんの修練場での試合だとあそこまで早くなかったような……?
「いや本当にユウの高位祝福と高位加速すげーよっ! こんな動きが出来るなんてあたし自身思ってなかった!」
楽しそうに人間台風してるコテツさんがこっちに手を振った。
一応手を振り返す。……戦闘中にそんな事してていいのかなぁとも思うけど、なんだか緊張感が無くなるレベルのワンサイドゲームだ。
「ユウ、すごい」
「ホンマ、これはユウっち中毒になりかねんね。一度高位状態の戦いを覚えてまうと、もう司祭抜きの狩りできへんかも」
「身体の隅々までユウを感じるわ」
マヤの言ってる事はよくわからないけど、それでも何だかんだで褒められると嬉しい。
本当は司祭になった事を内心結構残念だったし、というか今でも僧兵なり戦士なりになれたら……と思う。
特に目の前でマヤやコテツさんが前衛で大活躍してる姿や『転職祭』でのアンクルさんやクロノさんの試合を思い出すと本当にそう思う。
それに転職後最初にやったアーツで皆に迷惑をかけてソニアさんに怒られて正直ちょっと凹んでたし。
でも、それでも仕方なく選んだ司祭のアーツでこうしてパーティの役に立てて、更に「僕が居ないと狩りが出来ない」と言って貰えたら、やっぱり司祭で良かったのかなと思う。
「わっ、私だって、さっきはあんな風に言っちゃったけど、ゆ、ユウの高位魔力活性は良かったわよっ! 何だか身体の奥が熱くなって、ちょっと気持ちよかったし」
慌てたようにホノカちゃんも褒めてくれた。
褒められた事もだけど、その気持ちが嬉しくてつい口元がにやけてしまう。
「……ありがと、ホノカちゃん」
「べ、別にお礼を言われるような事……って、何しまりのない顔してんのよっ! ユウのくせにっ!」
ユウのくせにってのは酷いと思うけど、それでも僕の笑顔は変わらなかった。
その後も試合はワンサイドゲームのまま、マヤとコテツさんのブルトーザーは砂浜を半分ほど突き進んでいた。
後ろにも時折半魚人がリポップ……というか海から現れる為、どうしても乱戦気味になっていた。
乱戦と言ってもこちらの戦力が圧倒的な為、治癒はおろか防護印が破られる事もなく、祝福と速度増加をかけ直しながら突き進む。
と、奥の方の波打ち際に居る半魚人が海中に女性? を引き込もうとしている姿が見えた。
他のプレイヤーが居た……とは考えられないから恐らく近くの村の村民だろうか? 皆に伝えるか……と考える間にも女性が連れ去られそうに見えた。
そしてルルイエさんが語ってくれた半魚人の目的がフラッシュバックして、自然と身体が動いてしまっていた。
「ユウッ!?」
後ろからマヤの慌てたような叫び声が聞こえた。
が、高位加速のかかった僕の身体は自分の想像以上に軽く、水しぶきを上げて飛ぶように女性を抱えていた半魚人の目の前まで到達する。
「必殺っ! ユウスペシャルっ!!」
突然目の前に表れた僕に慌てて槍を突き出そうとする半魚人に、突進のスピードのままにカウンターを叩き込んだ。
「ギョォォォッ!!」
その勢いで女性を手放す半魚人。と言っても非力な僕じゃ半魚人にさしてダメージは与えられてないと思う。
でも女性を助けられたんだから十分、と気を失っている女性を抱き留めて離脱しようと手を伸ばす。
と、足首に何かヌルリと気持ち悪い感触が触れる。
「へ?」
何だろうと思った瞬間に物凄い勢いで引っ張られ、同時に小山のような何かが水中から出現した。
真っ赤な身体。滑る身体、8本の触手。
「あっ! あれはっ! 悪魔の触手っ!!」
僕の代わりに倒れた女性を抱き上げ、一瞬で遠くに運びながら叫んだのはルルイエさんだった。
・レベル25悪魔の触手とエンカウントしました。
「いや、タコだよね!? デビルとか言ってタコだよね?!」
ついメッセージウィンドウとルルイエさんにツッコミを入れるも、タコの頭の上に触手で固定され、さらに複数の触手が僕にうねうねとまとわりついてくる。
「って、ちょっ!? なんでこんなっ! ぬめって……とれないしっ……ってっ、ひゃわわわっ!?」
慌てて身をよじるもタコの粘液が純白のローブを濡らして更に触手が活気づく。
「ユウっ! なんてうらやまっ、いやタコの分際でっ!!」
慌てたようにマヤが半魚人を放置して僕の方に突き進んでくる。
いいぞマヤっ! 早く助けてっ!!
「待つんやマヤっち!」
しかしマヤを止めたのはルルイエさんだった。
「悪魔の触手は半魚人が捕らえた獲物を捕まえておく為のモンスターや。『孵化器』にする為にも殺される所か手荒な真似はされへんよ。むしろ立派な孵化器になるよう大事にされる位やからお肌ツルツルになるそうやし」
……確かに見てみるとHPは全然減ってない。減ってないけど……今も身体中をまさぐろうとしてくる触手は気持ち悪いしくすぐったい。
「なんでもいひぃんっ……からっ……たひゅけてぇっ」
「とにかく早くユウを助けなきゃっ!」
「同意っ!」
ホノカちゃんとノワールさんもマヤを押し留めようとするルルイエさんに声をあげ、ノワールさんは素早く数十本の矢を悪魔の触手に撃ち込むもさして効いたようには見えない。
むしろ矢が当たる度に全体が震えてその震動が僕の身体にまでびりびりさせる。
「そやから、半魚人を全滅させれば悪魔の触手から解放されるねんっ、倒すんなら半魚人の方やねんって!! ただ……」
「ただ、何だよっ」
『半魚人を全滅させれば悪魔の触手から解放される』と聞いた瞬間から半魚人殲滅の速度を上げながらコテツさんが叫ぶ。
「『悪魔の触手の出現』、『悪魔の触手に誰かが捕まる』、『半魚人が一定数以下になる』、が出現条件なんよ」
「だから何のっ!」
「この海のボスモンスター」
そこまでルルイエさんが説明した時、不意にメッセージウィンドウに表示された。
・レベル37半魚王とエンカウントしました。
通常の半魚人より一回り大きな体躯に更に一回り太い手足、全身の鱗も不思議な光沢を放っていて硬そうに見える。
手に持つ三つ叉の槍は二回りも大きく、僕なんかが攻撃を食らえば一撃でHPが0になりそうだ。
そうして現れた半魚王はマヤ達を見て好色そうな笑みを浮かべた……ように見えた。
いけない……支援の僕が悪魔の触手に捕まってて動けなくて、まだ半魚人も残っているのにボス戦だなんて。
「み、ひっんんぁっ! にゃげてっぁんっ」
くそうっ悪魔のせいで上手く喋る事もできないっ!?
と、ブチリと何かが切れる音が聞こえた気がした。
「……ユウをいじめていいのは、私だけよっ!!」
怒気溢れる声と共にマヤが今日最高速で半魚王に突進した。
吹き飛ばされて顔を凹ませて鼻血を流す半魚王。その顔にさっきの好色な笑みはもうない。
「まだまだだぜっ」
吹き飛ばされた先に待っていたコテツさんが大斧を嵐のように振り回した。
半魚王はソレを何とか受け止めるも槍をへし折られそのまま身体に何度も大槍の刃を受け、鱗が弾けて血が噴き出す。
「ボスモンスターは美味しゅう頂かなね~」
いつの間にか半魚王の背後に回り込んでいたルルイエさんが半魚王の鱗が剥がれた部分に忍者刀を差し込んでスルリと鱗を切り落とした。
「ユウ、待ってて」
槍を失った半魚王が怒りにまかせてやみくもに両手の爪を振るうも、ノワールさんが2本の矢を放ち、半魚王の両目を射貫き、更に剥き出しになった鱗が無い胴体部分に無数に矢を撃ち込んでいく。
「ギョエィイイイイッっ!?」
半魚王の悲鳴が木霊した。が、まだ終わらない。
「これで終わりよっ! 半魚王っっ!!」
両手を掲げて呪文詠唱をするホノカちゃんの頭上に巨大な電撃の球が見える。
って、見るからにソレはダメなのでは!?
触手に意識を引っ張られながら、慌てて僕もアーツを唱える。
「は……高位ぃんっ……えっ広域あっ……え霊護印ぉんっっ」
「喰らえっ!! 大爆雷球っっ!!」
ホノカちゃんの大爆雷球が半魚王にぶつかる直前になんとか僕のアーツも発動し、半透明の球体の膜のような物で皆が包まれる。
半魚王を電撃が焼き切り、そのまま海水を伝って他の半魚人達、そして悪魔の触手にまで多量の電撃が乱れ飛ぶ。
その雷撃の嵐が止む頃、立っているのはマヤ達だけだった。
・パーティ『銀の翼』は半魚王を討伐完了。
・『ユウ』レアアイテム『虹の鱗』を獲得。
・パーティ『銀の翼』はイベント『南海の恐怖』をクリア。経験値11000点獲得。
・村人救出のボーナス経験値3000点獲得。
・『ユウ』はレベルアップした。Lv22になった。
メッセージが流れ、倒したモンスターが全て光となって消えて、僕達の戦いは終わった。
悪魔の触手から解放されて浜辺に投げ出される僕。
「た、助かった……みんな、ありがと」
今回は危なかった……こんなに危なかったのは『転職祭』でペットモンスターに襲われた時以来だった。
「大丈夫、ちゃんとSSも撮ったわ」
「マヤ、何してんの!? 消してよっ! 残さないでいいよっ!?」
怒ってくれてたと思ったのにあの戦闘中にマヤは何をしてたんだ。
「まぁ触手まみれのユウっちも見物やったけど、今も結構危ういと思うし、何とかした方がええんちゃうかな?」
「え?」
苦笑混じりでルルイエさんが僕を見て言った。
その視線を辿って自分を見下ろしてみる。
と、悪魔の触手の触手の粘液まみれになって透けたローブが身体に張り付き、恥ずかしい状態になっていた。
「っっっっ!?」
男だし半裸とかは別に気にならないとはいえ、服が濡れて張り付いて透けてるというのは恥ずかしい。まさに何処の変態だって格好だ。
「まぁ、アレだ、似合ってるし良いんじゃね?」
「ユウ、大胆」
何のフォローにもならない事を言うコテツさんとノワールさん。
「大丈夫よユウ、今もSSは撮ってるから」
「撮るなよっ! むしろ見ないでよっ!?」
サムズアップするマヤに悲鳴のような抗議をあげる僕。
「どうでもいいから早く着替えなさいよっ!!」
顔を背けながらも真っ赤になっているホノカちゃんの叫びが聞こえて、僕もやっとその事に気付いた。
どうでもいい設定。
通常のイベントだと「村人がタコに捕まる→ボス戦」となる。
ここで村人を救出するとパーティメンバーが欠ける代わりにボーナス経験値を得る。
救出してかつパーティメンバーも捕まらないとボス戦は発生しない。




