第87話 南の海の砂浜へ。
翌日目覚めると足の痺れはすっかり治っていた。
さすがに僕もこう何度も正座させられれば慣れる事が出来るのさっ! 人間は環境に適応する生き物だからねっ!
ちょっと哀しい事だけど。
そして元気になった僕達は朝早くから南へと進んでいた。
目的地は海!
今回のアップデートで実装された新MAPの1つである。
昨日少々のトラブルがあったとはいえ、修練場での新スキルのチェックが終わって今度はモンスターを相手にしてみよう、という事になったのだ。
メンバーは用事があってログイン出来ないというサラサラさんを除いた、マヤ、コテツさん、ルルイエさん、ノワールさん、ホノカちゃん、僕の6名だ。
折角の新MAPだし夏に海に行くという事でソニアさんやアンクルさん達も誘ってみたのだけど、ソニアさんは冒険者ギルドのお仕事で忙しいそうで、アンクルさん達も『転職祭』の後大量の入団希望者がやってきたとかで大変なのだそうだ。
やはり引き分けとはいえPVPトーナメント優勝チームというのはそれだけ影響が大きいのだろう。
白薔薇騎士団って基本的に揃いの白い甲冑を身に纏ってて、並ぶ姿が荘厳で格好いいから少し羨ましい。
あ、アンクルさんは今回の転職で無事『騎士』になれたそうだ。本当に良かった。
「なぁなぁ、海行くんやろ? 水着用意せんでええの?」
不意にルルイエさんが皆に尋ねる。
確かに僕も水着の用意はしてないけど……必要だったのかな?
「これから行くMAPのモンスターは砂浜に表れるタイプだから必要ないわ」
答えたのはマヤだった。
必要ないらしい。ちょっと残念。
「そっか~。ユウっち、残念やった?」
「そっ、そんな事ないよ?!」
心を読まれてしまった。
いや、ルルイエさんのニヤニヤした顔を見るに最初からそう言う為に水着の話題を振ったのかもしれない。ルルイエさんはそういう人だ。
「水着姿の私達が見たいとか、やっぱりユウも男ねっ! 最低っ!!」
「いや誤解だよ!?」
そしてルルイエさんの言葉に一番反応したのはやっぱりホノカちゃんだった。
慌てて弁明するも聞いて貰えず、ホノカちゃんは顔を真っ赤にして僕に罵声を浴びせてくる。
見たいという事は誤解じゃないから弁明も難しい。
……けど……正直出来ればコテツさんやノワールさんのが見たいかもだけど……ホノカちゃんの水着姿を見ても子供の水遊びにしか見えないかも……。
「ダメやよ、ユウっち。いくらホノっちのロリボディに興味ないからって、そんなつれない事言うたら、女として傷ついてまうよ」
「ななななな、なんですってー!? ユウっ! それどういう意味よっ!!」
「僕が言った言葉じゃないよね!? 言ったのルルイエさんだよねっ!?」
「そんな事は関係ないわっ! 私の何処が魅力がないって言うのよっ!!」
何故かさっき以上に怒気を孕んだ声と顔で詰め寄ってくるホノカちゃん。
全く話しが通じてない気がする。
水着を見たくても、見たくなくてもダメって、僕はどうしたらいいんだろう?
「いやぁ若いってええなぁ」
そして諸悪の根源は楽しそうに僕とホノカちゃんを他人事のように眺めていた。
「まぁこれから行く砂浜は新MAPだけあって相応にモンスターも手強いらしいし、流石に水着で戦うってのは危ないから今回は通常装備で良いんだよ」
しばらくホノカちゃんの怒りが爆裂し続けた後、やっと落ち着いた頃にコテツさんが説明をしてくれた。
「そんな手強いの?」
「レベル20以上の転職プレイヤーを想定したMAPだから、モンスター側のレベルも20以上ね」
僕の呟きにマヤが答える。
レベル20以上というと岩石狼より強いって事かぁ……まぁ岩石狼はハメ狩りみたいな戦い方だったからあんまり強い印象ないけど……まともに戦えば結構苦戦するモンスターだった気がする。
そもそも僕1人じゃ逆立ちしても倒せないし。
「でもそんな手強いモンスターって何が出るの? 砂浜に居そうなのだと……ワニとかかな?」
「何で海にワニが居るのよ」
呆れたようにホノカちゃんが否定してきた。
こ、古事記にだって確か海にワニが居てどうこうってあった筈じゃないかっ!
「これから行く砂浜に居るモンスターは、半魚人よっ!」
「……半魚人? えっと……二足歩行の魚みたいなモンスター?」
「そうよっ! それを退治しに行くの」
胸を張って答えるホノカちゃん。
「でも半魚人って魚なんだし水棲のモンスターじゃないの? なんで砂浜なんかにやってきてるの?」
「え? えーっと……それは……や、やってきたんだから仕方ないでしょっ! モンスターがやってきたら倒す! そう決まってるじゃないっ!!」
わからないではないけど釈然としない論理を展開して捲し立てるホノカちゃん。
詳しくは知らないけど半魚人だって知能があるなら何かしら目的があって来てるんだと思うんだけどなぁ……。
「半魚人の目的、ゴブリンやオークと同じ」
今まで黙っていたノワールさんがぼそりと答えを告げた。
固まる僕とホノカちゃん。
「……そ、それってつまり……」
想像通りでない事を祈りつつ、おそるおそる確認する。
「繁殖の為」
想像通りだった。
「おっそろしい事に半魚人言うんは攫ってきた人間の女性に雌が卵を植え付けて、牡が受精させて、そのまま孵化器として利用するらしいんやよね。そんなん放置出来へんから近隣の村々から冒険者ギルドに早期討伐の依頼クエストが来たっちゅー事やね」
想像以上だった。何その恐ろしいモンスター。
そんな怖い話をホノカちゃんに聞かせていいのか? とホノカちゃんを見るとよく分かってないようだった。良かった……のか?
「でも、そんな危険なモンスターの所にって皆も危険なんじゃ……」
もし皆の誰かが半魚人に襲われたりでもしたら、そう考えたら正直恐怖で足が竦む。
「ユウ、心配してくれたありがとよ。でも大丈夫だって。あたし等にとっちゃゲームなんだし実際にどうこうされる訳でもないしな。それにユウの事はあたし等が絶対に守るから安心しろって」
僕の頭をガシガシ撫でながらコテツさんが微笑む。
男の僕が捕まる訳ないし、僕の事じゃなくて皆が心配なんだけど……でも、そういう話を聞くと心配になってしまうのは僕がログアウト出来ず、痛みを感じて『セカンドアース』をより『リアル』に感じてしまうからだろうか?
「それに、ゲームとはいえそんなモンスターに同じ女性である漁村の女性が襲われるかもって考えたら、放置もできないでしょ?」
マヤが僕を見つめながら問いかける。
確かに……それを放置する事も僕は出来ない。
僕の表情の変化を見てマヤが何故か苦笑する。
「だからちゃっちゃと退治しちゃいましょ」
「そうそう! 運が良ければボスモンスターにも出逢えるかも知れんし、張り切ってレアアイテムをゲットしまひょー!」
最後に楽しそうにルルイエさんが声を上げた。
ボスモンスターと出逢うのは運が悪い方がじゃないだろうか?
そうしてお昼前に僕達は目的の南の海へ到着した。
そこは晴れ渡る青空と太陽の下、青く透き通った海と、白く輝く砂浜が広がる、申し分ないビーチだった。
そこに溢れんばかりの半魚人が居る事を除いては。
なんというかその……。
「キモいわね」
「うん……」
ホノカちゃんの感想に僕も同意する。
半魚人と聞いて何となく魚の顔の人間を想像してたけど、実際に見ると物凄く気持ち悪い。
顔は魚だし、目も魚だし、身体は鱗だし、ヌメヌメしてるみたいだし、手には三つ叉の槍を持ってるし。
正直お近づきにはなりたくない……。
「ま、こうして見ててもはじまらねーし、ちゃっちゃと始めようぜっ!」
あまり外見に拘らないのかコテツさんがアイテムウィンドウから取り出した大斧を振り上げて叫んだ。
「おっけー! キモいのを見続ける趣味はないし、私が先制するわねっ!」
そう言ってホノカちゃんが呪文を詠唱し始める。
慌てて僕も支援を唱えた。
「高位……魔力活性!」
ホノカちゃんに魔力活性をかけて魔力を引き上げる。
と同時にホノカちゃんの詠唱が完了した。
「雷撃槍雨っ!!」
ホノカちゃんの叫びと共に巨大な魔法陣から雨のように大量の雷の槍が半魚人の軍団に降り注ぐ。
「おいおい、ホノカっ! あたし等の分も残しておいてくれよなっ!」
あまりの惨劇にコテツさんが苦笑しながら冗談半分でホノカちゃんに愚痴る。
「え、わっ、私もここまでだなんて……い、今のはユウのせいでしょっ!?」
「僕のせい!?」
「だって、こんなに魔力が溢れてるなんて初めてだもんっ! ユウの魔法のせいじゃないっ!」
「それはそうだけど……」
「謝りなさいっ!」
「ご、ごめんなさい……?」
よくわからないまま謝らされてしまった。
よくわからないけど、ホノカちゃんはずるいと思う。
「まぁまぁ、まだまだ半魚人は一杯おるようやし、こっからはウチ等が活躍しよか!」
ルルイエさんがニヤっと笑っていつもの短剣と、もう一本いつもより長めの短剣を抜き出す。
同時にマヤも剣を構え、ノワールさんも矢をつがえた。
傷つきながらも生き残った半魚人と、未だ無傷の多くの半魚人が僕達を敵と見定め、怒りに満ちた瞳……かどうかは魚だからわからないけど、なんとなくそんな気がする瞳でこちらに群がってきた。
「んじゃっ! 仕切り直しと行くぜぇっっ!!」
コテツさんの叫びと共に、2回戦が始まった。
感想で提言頂いた部分と、自分で気になってた部分を少し修正。




