第86話 転職の結果。
用事があるというサラサラさん、ルルイエさん、ノワールさんと別れて僕達は冒険者ギルドへと向かった。
「ユウさん、マヤさん、コテツさん、ホノカさん、いらっしゃい」
いつも通り笑顔で出迎えてくれるソニアさん。その笑顔でこっちまで元気になってくる。
「ソニアさん、こんにちわ! 僕達も無事転職してきたよっ!」
見た目的に何か変化があった訳ではないけど、レベル上げが間に合わないかと思っていたし事実昨日の時点でまだ20レベルになれなくて少し諦めていただけに、嬉しくて胸を張って報告する。
「おめでとうございいます。やっぱりユウさんは『司祭』になられたのですか?」
「やっぱり?」
不思議に思って周りを見るも、マヤもコテツさんもホノカちゃんもすっと顔をそらす。
そんなに僕って司祭になりたそうに見えたのだろうか?
っは!? まさか僕の細腕じゃ司祭とかしか無理って事……?
「あ、いえ、えっと。マヤさんやコテツさんからユウさんの神聖魔法の凄さを伺っていたので、侍祭の方の多くが司祭を志望されますし、ユウさんもそうなのかなぁ……って。別に他の職業がダメって訳ではないので、すみません」
目に見えて僕がションボリしていたのか、慌ててフォローをしてくれるソニアさん。なんだか悪い事をしてしまった気がする。
「大丈夫です。ソニアさんの予想通り結局選んだのは司祭でしたから」
勿論今からでも僧兵やそれこそろ戦士になれるのならなりたかったし、残念だけど……残念だけどっ!
でも選択肢が無かったのだから仕方ない。無い物ねだりしてもどうしようもないし、今ある手札で最大限の効果を生み出すのが人類なのだ!
「でも……転職していらしたという事は、今から使用されますか?」
「ええ、お願いします」
「何を?」
ソニアさんの問いにマヤが答え、僕が首を傾げる。
「って、ユウ、あんた知らずに付いてきたの?」
「知らずにって何を? 冒険者ギルドなんだからクエストの受注に来たんだと思ってたんだけど……」
馬鹿にしたように言うホノカちゃんに聞き返す僕。
「マヤさん~、教えてなかったんですか~?」
「ええ、必要なかったし」
可哀想な目で僕を見ながらホノカちゃんがマヤに尋ね、マヤがあっさり答える。
つまり僕は知らなくて当然だったのか。
「えっと、冒険者ギルドの地下に『修練場』というトレーニング施設が設営されていています。そこには射撃場や様々な条件を設定された常設のPVPエリア。又模擬戦用のゴーレム等が用意されていて、安全にトレーニングを行う事が出来るようになっています」
「すごいっ! そんなのあるんだっ」
じゃあ僕もあんな大変な思いしなくても安全に修練場でトレーニングすれば良かったんじゃないだろうか?
「ただし冒険者ギルドが運営している施設ですので当然使用料は頂きますし、ゴーレムとの模擬戦や冒険者同士のPVPで経験値やアイテムを得る事は出来ません」
世の中そんな美味しい話はなかった。まぁ仕方ないか。
「んな感じの場所だから普段はあんま使われないけど、今回みたいな場合は便利なんだよな」
ソニアさんの説明にコテツさんが続く。
「はい、転職された際の新しいスキルやアーツの確認等に利用される冒険者の方は多いですね。実際今日は幾人かが利用されてます」
成る程、それでソニアさんは僕達にも利用するか確認してくれたのか。
「それで……どうされますか?」
「おう! 『修練場』利用、4人よろしくっ!」
「はい。それでは『修練場』利用、4名様で合計4千Eになります」
コテツさんの注文にソニアさんは笑顔で応え、僕達は各々支払いを済ませた。
「ここが『修練場』になります」
「ふわぁ……」
受付の奥の階段を下りてソニアさんに案内された先に最初に降り立ち、僕は自然と声を上げていた。
そこは体育館のような広い空間で、高い天井の上には証明灯り薄暗いながらも全体を照らしている。又空調設備もあるのか息苦しさも全く感じない。
少し薄暗いとはいえ地下だとは思えない広くて快適な空間だった。
「わっ! わっ! アレっ!!」
修練場全体を見ていた僕は目の前の光景に慌ててマヤ達を呼ぶ。
修練場は奥の1/3程が射撃場のようになっていて様々な魔法の光や弓矢が飛び、反対側の半分が闘技場のリングのようなPVPエリアになっているようで対人戦をしてる人や模擬戦用のモンスター型ゴーレムと戦っている人が見える。
中央はフリースペースなのか椅子や机があり、何かの確認や休憩をしてる人。トレーニングマシーンで運動してる人なんかが居る。
見た事のない魔法の輝きや、その連打。本当に目の前で行われている数々のPVP。
そしてそれ等の多くは今日転職してきた人達で見た事もないスキルやアーツ達
これで興奮しなきゃ男じゃないっ!
「普段はこんなに人が居る施設じゃないんだけどね」
僕のはしゃぎ様に苦笑したようにソニアさんが僕の頭を撫でながら説明してくれる。
「一応施設利用の注意点としては、目標物へのアーツを使用する場合はあちらの射撃場エリア内で、模擬戦をしたい場合はこちらのPVPエリアで。休憩や自主トレーニングは中央エリアで出来ます。中央エリアでの攻撃系アーツの使用は危険なので注意してください。
利用時間は今日中ですが一度でも外に出ると再入場できませんのでご注意下さい。又、他の冒険者の方とトラブルを起こさないよう譲り合って利用するようよろしくお願いします」
「はーい」
当然の事だよね。
でもまぁ普段より人が多いと聞くけど、それでも十分な広さのある修練場は自分から絡みに行かない限り他の人と接触する事も無さそうだ。
「じゃあ私は受付に戻らなきゃだけど……ユウちゃん!」
「は、はいっ!」
キリっと真剣な顔になって目の前に近づいてくるソニアさんの迫力にこちらも真面目になる。
「トレーニングでも怪我する事はあるんだから、危ない事しちゃダメだからねっ!?」
「は、はいっ! ……え?」
しなきゃトレーニングにならないんじゃ……ここって模擬戦とかの場所だよね?
「や・く・そ・く・よ?!」
「はひっ……」
結局約束させられてしまった。
まぁ司祭のスキル確認なら大丈夫……なのかな?
約束をして安心したのか笑顔で階段を登っていくソニアさんを見送って、最初に動いたのはホノカちゃんだった。
「じゃあ私は新魔法の試し撃ちしてくるから」
そう言って射撃場の方へ1人歩いていく。
「んじゃあたし等は模擬戦してみっか。マヤ、相手頼む。3分勝負を連続とかでどうだ?」
「了解」
コテツさんにマヤが応えて2人は手近なPVPエリアへと入って行った。
えっと……僕はどうしよう?
言われるままに付いてきて元々目的が無かった僕はなんとなく中央エリアの椅子に腰を下ろした。
「まずは……スキルチェックからだよね」
ステータス画面からスキルウィンドウを開く。
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ユウ 人族/男 16歳 司祭Lv21
HP216/AP422
筋力:1(0)
体力:1(0)
速力:1(+5)
器用:1(+5)
知力:6(+10)
魔力:30(+20)
<通常スキル>
・神聖魔法(中級) ・調理(上級) ・歌唱(中級)
<固有スキル>
・美女神の祝福 ・愛天使の微笑 ・妖精女王の囁き ・精霊后の芳香
・聖獣姫の柔肌 ・魔皇女の雫
<装備>
・Lv17治癒の杖
・Lv5純白のローブ
・猫耳フード
・無病息災の指輪
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うん、ちゃんと『司祭』になってる。
神聖魔法も『中級』に上がってる。
「なら魔法アーツも増えてる筈だよね」
誰に言うともなし呟きながらアーツウィンドウを開く。
もし無かったらどうしようと少し思いつつも、それは杞憂に終った。
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・神聖魔法(中級) :神の加護により様々な回復、補助、破魔のアーツを使用出来る。
<魔法一覧>
・高位(AP消費2倍) ・広域(AP消費2倍) ・魔力活性(AP20)
・霊護印(AP10) ・転移門(AP消費20%)
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ちゃんと中級アーツが表示された事に胸をなで下ろす。
更にアーツの説明を読み進めるに、さすが中級だけあってどれもすごいアーツだった。
『高位』は僕の持っている他の魔法アーツの威力を引き上げてくれる強化用アーツで、それに対して『広域』は同時に複数人を対象に取れるようになるアーツみたいだ。
これを使えば僕の治癒を更に回復力を高める事も、同時にパーティ全員にかける事も出来る。これだけでも支援として段違いに皆の助けになる。
『魔力活性』は『魔力』を高めて魔法系アーツの威力を底上げしてくれる魔法使い用の『祝福』みたいなアーツみたいだし、『霊護印』は魔法や属性攻撃的な効果を減退させてくれる『防護印』の対魔法様防御アーツみたいだ。
そして何より『転移門』!
これがあればダンジョン内とかでなければいつでもホームか大神殿に帰ってこれる瞬間移動アーツみたい。
この手のゲームで移動様魔法はないのかと思ってたけどやっぱりあって良かった!
長い距離歩くのは辛いし今後遠出もする事を考えると本当にあって良かった!!
スキルを確認して改めて周りを見ると、まだマヤとコテツさんは楽しそうに戦っていた。
ホノカちゃんも何やら大声を上げながら見た事のない炎系魔法を撃ち込んでいる。
「とりあえず僕もテストしてみようかな?」
そう思いつつ、僕はアーツを選択する。
「……魔力活性……」
アーツを唱えると共に身体の奥深くがドクンと熱くなったように感じ、それがうねっているのがわかる。……これが魔力が活性した状態なんだろうか?
その熱を感じながら、更に魔法を唱えていく。
「広域……高位……」
高まった魔力が形になっていく途中で気付いた。
最終的に何のアーツを使うか決めてなかったや……。
元々そんな危ない攻撃アーツなんて持ってないし何でも良いけど……と、そういえば此処って少し薄暗いのだけが残念だったと気付き、使うアーツが決まった。
「……聖光!」
その瞬間、巨大な修練場全体が真っ白に染め上げられ、悲鳴と怒号が轟いた。
その後冒険者ギルドの受付横で正座をさせられ、日が沈んでもまだ僕はソニアさんにお説教を受け続ける事になった。
感想でツッコミ頂いた施設利用に付いてを作中に追加。
『転移門』の利用法を考えていたら、別クランの人同士が一緒に冒険に行った時に凄く使いにくい事に気付いたので、
ホーム以外に大神殿にも飛べるように変更。




