第77話 ベスト8。
円形の直径50メートル程の巨大なリングとそれをぐるっと囲む観客席。その客席は外に人が溢れていた事でもわかるように満員御礼で、まだ誰もリングの上に居ないのに熱気と歓声に包まれている。
と、不意に雄々しい音楽が流れてスモークと共にリングに1人の男性がマイクを持って現れた。
「皆様っ! お待たせしましたぁー! 私、司会兼実況兼をさせて頂きます『マイクマン』でございますっ! それではーっ只今よりっPVPトーナメント本戦を開始致しますっ!!」
魔法なのか装置なのか不明だけどマイクによって? 拡声された声がコロシアムに響き、それに応えるように地響きのような歓声が上がる。
正直少しうるさいけど、否が応でも熱気と期待が高まってくる。
「それではっ! 栄えある本戦出場の8組の選手を紹介致しましょう! こちらをご覧下さいっ!!」
マイクマンが手をかざすとリング中央に昼間見た石碑が出現した。
そこには昼間見たのと同じように予選のデータが記されていた。
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<PVPトーナメント 予選結果>
1位 『悠久』 21戦21勝
2位 『エルフルズ』 10戦10勝
3位 『白薔薇騎士団』 30戦24勝
4位 『神羅万将』 25戦20勝
5位 『まおまお』 50戦39勝
6位 『ゆずっちNo1』 22戦17勝
7位 『銀の翼』 15戦11勝
8位 『スターダスター』 39戦28勝
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良かった、マヤもアンクルさん達も無事予選を通過してた!
それに白薔薇騎士団はベスト3にも入ってるなんてすごいや。……マヤ達が7位なのは正直少し意外だしマヤやコテツさんが負けてる姿ってあんまり想像できないけど……やっぱり強い人達が多かったのかな?
それでも皆予選突破出来て良かった。
「なんとかマヤの試合が見る事出来そう……」
「ん? ユウの知り合いが参加してるのかい?」
僕の呟きを聞いてシルフィードさんが問いかけてきた。
「うん。えっと……3位と7位のチームに」
「2チームも! それはすごいな」
「えへへ……すごい人達だよ」
シルフィードさんにマヤやアンクルさんの事を褒められて、やはり自分の事のように嬉しくなってしまう。
「シルフィードさんは知ってるチームとかって居ないの?」
「そうだね。知り合いという訳じゃないが……冒険者ギルドのマスターの話によるとやはり1位の『悠久』が頭1つ飛び抜けて強いらしい。『神羅万将』と『スターダスター』は普段ダンジョン攻略をメインに活動してるクランだが今回は商品のアイテム目当てに参加していて、個人の力量もだが連携が素晴らしいと聞いた。あとは『エルフルズ』が女性のみのチームだとか。
私の知ってるのはその程度かな」
そう言って照れたように笑うシルフィードさん。
というか、『その程度』という割りに物凄く詳しかった。
やっぱりシルフィードさんもこういうトーナメントが好きなんだろうか?
そんな風に考えていたら、再びリングの
「さて皆様っ! 本戦はトーナメントですので、どのチームと当たるかで結果が大きく変わります! そこで今回は予選順位を参考にトーナメントを組ませて頂きましたっ! 上位陣が初戦でつぶし合わないよう配慮した次第でございます!」
そう言ってリングの男は芝居がかった調子で再び石碑に手をかざす。
と、今まで書かれていた予選結果の文字が消え、新しい文字が浮かび上がってきた。
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<PVPトーナメント対戦表>
第一試合 1位 『悠久』 VS 8位 『スターダスター』
第二試合 4位 『神羅万将』 VS 5位 『まおまお』
第三試合 3位 『白薔薇騎士団』 VS 6位 『ゆずっちNo1』
第四試合 2位 『エルフルズ』 VS 7位 『銀の翼』
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「そして2回戦は第一、第二試合の勝者と、第三、第四試合の勝者の組み合わせで戦って頂き、その2戦に勝ち上がった2チームが決勝となりますっ! 全7試合、皆様存分にお楽しみくださいっ!!」
リングのマイクマンの声に観客が歓声で応えた。
そして少なくともマヤとアンクルさん達が一回戦で当たる事はなくて僕は少し安心していた。
せっかくの初戦が知り合い同士とかだと少し哀しい。
2チームとも勝った場合、その次の試合では当たってしまうけど、全8チームしか居ないんだから、それは仕方ないか。
「よかったね、ユウ。知り合い同士がすぐに戦わなくて」
「うん。僕もどっちを応援したらいいか悩まなくて済んで良かった」
「それはまぁ……どっちもがんばれ、で良いんじゃないかな?」
「そういうものなの?」
「別に殺し合いをする訳じゃないからね」
「そう……なのかな?」
まぁゲームなんだし気楽に応援すればいいのかな。
「それではまず第一試合! チーム『悠久』VSチーム『スターダスター』!! 両者ぁ入場ぉぉぉ!」
マイクマンの叫びに合わせて再び猛々しい音楽とスモークが焚かれ、歓声の中、2チームがリング上へ姿を現した。
スターダスターは男性3人組のチームだった。それぞれが軽装鎧と長剣を持っているから速度重視の戦士型なのかもしれない。
そして対戦相手の1位『悠久』の人達は……。
それを見て僕の目が点になる。
そこに立っていたのは眼鏡をかけた笑顔の青年と扇情的な格好の女性、そしてフルフェイスの兜まで被った全身黒ずくめの戦士だった。
「ユウ? どうしたんだい?」
「…………あ、うん。えっと……『悠久』の人達も、その……知り合い? だったから驚いて」
なんとか再起動して、シルフィードさんの質問に答える。
「何とも歯切れの悪い表現だね」
「知り合いと言っても……お昼に露店をしてて怖いお客さんに絡まれた時に助けて貰っただけだから、『悠久』の人達は僕の事は覚えてないかもだから」
「いや、それはないだろう」
「即答っ!?」
シルフィードさんはリング上のクロノさん達を見つめたまま、
「でもユウを助けてくれた人達というのなら、第一試合は『悠久』を応援しようか」
と言った。
勿論僕に異論がある訳がない。
「クロノさんっ! グラスさんっ! シャーリーさんっ! がんばれーっ!!」
歓声にかき消される事はわかっているけど、それでも精一杯の声で僕は応援を始めた。
……んだけど……第一試合は僅か1分で終了した。
『悠久』の勝利である。……いや、クロノさんの勝利というべきか。
昼間僕達を助けてくれた時と同じように、クロノさんが1人で真っ黒いオーラを吹き出して突撃して『スターダスター』の3人を吹き飛ばし戦闘不能にしてしまった。
あまりの強さに一瞬闘技場が静まりかえってしまった位だ。
直後にマイクマンさんが勝利宣言を行い、それに伴って大歓声に包まれたけど。
「ギルドマスターに別格だとは聞いていたが、此程とは……」
シルフィードさんも今の試合に驚いているようだ。
「すごいですよねー」
「ああ。あの『スターダスター』の3人も弱い訳じゃないが、スピードもパワーも桁が違ったな。アレでは並大抵の人間には対応する事すら難しいだろう。」
そっか、『スターダスター』の人達も強かったんだ。そりゃベスト8に残ってるんだからそうかも。
でも本当にクロノさんは格好いいなぁ。僕もあんな風に戦えたら良いのに……転職出来るようになったら、あんな風に戦えるのかな? なれるといいなぁ……。
「これは優勝はもう決まったかな?」
「そ、そんな事ないよっ?! 『銀の翼』も『白薔薇騎士団』もすごく強いからっ!」
慌てて僕はシルフィードさんにそう言った。
クロノさんには助けて貰ったしその強さには憧れるけど、それでもマヤやアンクルさん達を応援したいし、シルフィードさんにも期待してほしい。
そんな僕の熱意を感じてくれたのか、シルフィードさんは僕を見てにやりと笑う。
「それじゃあ……賭けをしよう」
「……賭け?」
「私は『悠久』が優勝する方に賭ける。ユウは『銀の翼』か『白薔薇騎士団』が優勝する方に賭ける。負けた方が勝った方の言う事を1つ聞く」
「でも、賭け事とかそういうのは良くないような……」
「自信ないかい? ユウは2チームどちらでも良いんだから有利だと思うけど?」
くすくす笑うシルフィードさん。
「っ! い、いいですよっ! マヤもアンクルさんも絶対勝ってくれますからっ!」
「よし、じゃあ賭け成立だ! 試合の楽しみが更に増えたね」
そう言ってシルフィードさんは本当に楽しそうに笑った。
その笑顔を見ていてなんだかシルフィードさんに乗せられてしまったような気がしないでもない。
…………だ、大丈夫だよね?
 




