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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第四章 転職祭
66/211

第64話 夢の中へ。

 皆が手伝ってくれたお陰もあってついにソーセージが完成した。

 次はパン作りだ。


 生地を捏ね、寝かし、寝かしてる間に次を捏ね、寝かし、寝かし終わった物を成形し、寝かし、寝かせてる間に次を捏ね、寝かし、焼き、焼いてる間に寝かし終わった物を成形し、寝かし、次を捏ね、寝かし、成形し、焼き、捏ね、捏ね、捏ね……。


 どんどん自分が何をしているのかわからなくなってくる。


 誰かが『料理人に必要なのは体力』って言っていた気がするけど本当だなぁ……。

 両腕がぱんぱんになっちゃう……治癒(ヒール)のお陰でなんとかまだ動いてるけど……何か料理中に治癒(ヒール)使う事多いなぁ……『セカンドアース』の料理人って皆治癒(ヒール)使えたりするのかなぁ……。


「ユウちゃん、この焼き上がったパンはどうする?」

「……」

「……ユウちゃん?」

「……あ、はい、あ、えっと……それは保存庫の方に」

「う、うん……」


 心配そうな顔で、でもパンを保存庫に移し始めるソニアさん。

 いけない、一瞬意識が飛んでたかも……さすがに3日連続でほぼ徹夜というのは初めてだし、気をつけなきゃ……。

 折角こんな夜中に手伝ってくれているソニアさんにも申し訳な……ん……ん……。


「……ウちゃん……ユウちゃんっ!」

「ひゃいっ!……ふぇ?」


 突然名前を呼ばれて辺りを見回す。そこには変わらずソニアさんが居た。

 あれ? 何だっけ? あ、そっか、パンを作ってたんだ。


「ご、ごめんなさい、ちょっと寝ぼけてたみたい。次のパンを捏ねるね」

「? もう終わったんじゃ……?」

「ふぇ……?」


 言われてテーブルを見ると生地が何処にも見あたらない。それどころか掃除まで終わってる?

 慌ててアイテムウィンドウと保存庫を見ると綺麗に焼き上がったパンが並んでいた。


「えっと……これは……誰が?」

「誰って……ユウちゃんが1人黙々とずっと作り続けてたから、何を言っても返事がないし邪魔しちゃ悪いのかな……って思ってたけど……もしかして覚えてない?」


 僕が? これを?

 …………半分位辺りから全く記憶がない。

 そういえばさっきより頭がすっきりしているような……?


 自分の状態を確認していると、物凄く心配そうな顔をしているソニアさんが見えた。


「あ、うん、だ、大丈夫! 手伝ってくれてありがとう、ソニアさんっ! お陰で助かったよ」

 慌てて取り繕って笑顔を向ける。

「……本当に大丈夫? 無理してない?」

「うん、平気平気! 無理してないよ?」

「そう……? 頼んだのは私だけど……それでユウちゃんが無理しちゃダメだからね?」

「うんっ! 大丈夫っ!」


 なんとか笑顔で押し切ってソニアさんを納得して貰った。

 まだ何か言いたそうだったけど……別に倒れた訳でもないし大丈夫、うん。お陰で頭もスッキリしたし!




防護印(プロテクション)っ! 防護印(プロテクション)っ! 治癒(ヒール)っ!!」


 向かってくるモンスターの群れに対して、岩肌を背にして迎え撃つ体勢で臨む『銀の翼』。

 巨大な波のように押し寄せるモンスターに僕は支援アーツを連射する。


 夜が明けて一息ついた僕達は、レベルアップ強化狩りに出かけていた。

 安定的に多くの経験値を稼ぐ近道はモンスターを数多く倒す事。

 その為に僕達は北の荒野に来ているのだ。


 目標のモンスターはこの荒野に生息する岩石狼(ロックウルフ)。レベル18の強敵だ。

 名前の通り体毛が岩のように硬くて、生半可な攻撃は通用しない。また爪や牙だけでなく、その硬い身体で突進してくる攻撃の破壊力も侮れない。

 更に体毛を岩の針のようにして雨あられのように飛ばして来たりもする。こればかりは回避自体が難しい。

 針に毒とかがないのが幸いなのだけど。


 そして狼系モンスターの特徴である『群れ』や『仲間を喚ぶ』と言った特性も健在だ。

 はっきり言って僕だけだったら、出会った瞬間死を覚悟しなきゃいけない相手。

 僕だけだったら大抵のモンスター相手で覚悟するけど……。


 でも、今回の目的は『レベル上げ』だからむしろわざわざ岩石狼(ロックウルフ)を選んで来ていた。

 素早く、硬く、力が強く、範囲攻撃持ちとはいえ、物理攻撃のみで、しかも『おかわりを喚んでくれる』。という事で、情報掲示板等で、今一番『美味しいモンスター』が岩石狼(ロックウルフ)なのだとか。


 勿論普通に戦ってもその数に押し潰されたり、避ける事が出来ない体毛の雨でHPを削られてジリ貧になったりするのだけど。


 そこで『侍祭(アコライト)』の出番という事らしい。

 そう、僕が今日のキーパーソンなのだ。


 マヤとコテツさん前衛で岩石狼(ロックウルフ)を押さえ込み、サラサラさんとルルイエさんがその隙間を埋める。そうして後ろからノワールさんとホノカちゃんがトドメを刺していく。

 でも、それだけだと少しづつHPを削られてこっちが押し潰される。

 だから侍祭(アコライト)の僕が前衛のマヤとコテツさんに常時治癒(ヒール)防護印(プロテクション)をかけ続ける事で戦線を維持し、経験値を稼ぎ続ける。

 僕のAPが切れるまでこの狩りを続ける事が可能になるらしい。


「今日のユウは何だか絶好調だなっ!」

 目の前の岩石狼(ロックウルフ)を吹き飛ばしてコテツさんが笑った。

「うんっ! 朝から何かゼッコーチョーみたいっ!……っと、防護印(プロテクション)っ!!」


 自分自身なんだか変な所にテンションが入っちゃってる気もするけど、正直仕方ない部分もある。

 だって、『セカンドアース』での狩りで初めて『ちゃんとパーティの役に立っている』って実感出来る狩りなんだもん。


 今までは役立ってると言われても、マヤはダメージ受けないし、コテツさんは攻撃全部躱すし、後衛までは滅多にモンスター来ないし……いや、その方が良いのは自分でもわかってるし、皆怪我しろ、とは思わないんだけど……。

 誰も怪我も、防護印(プロテクション)が割れる事も無いと、やっぱり『僕って必要なんだろうか?』と思えてしまう。


 でも今日は違うっ! 避けきれない攻撃、受けきれないダメージ、それを即座に回復していく!

 その合間に祝福(ブレス)加速(アジリティアップ)をかけ直していく。

 まさに『支援役』として全力運転。テンションが上がっても仕方ないのだ。


 それにいつもみたいに見てるだけじゃなく、ちゃんとパーティ戦に支援として参加してるとよくわかる。

 アンクルさんとやった多対一の戦闘特訓が凄く役に立ってる。


 あの時は複数のモンスターの動きを把握して自分がどう動くかを考えていたけど、それがそのままパーティの動きに繋がっていた。

 モンスターは勿論、パーティメンバーの動きが把握出来、次にどう動くかが見えれば、どういう攻撃を受けそうか予想が立つ。

 結果1テンポ早く治癒(ヒール)防護印(プロテクション)をかける事が出来た。


 コテツさんの動きは常軌を逸してるから時々予想を裏切られるけど……。


 ふはははは、それでも今日の僕はひと味違うっ! いつもがココアだとしたら今日はホットチョコレートだっ!


「ユウ……?」

 困ったような顔をして横目で僕を見るマヤ。 

「ん? 何? マヤ……っと、防護印(プロテクション)っ!」


 僕の方を見た為に一瞬岩石狼(ロックウルフ)の攻撃への対応が遅れたマヤに防護印(プロテクション)をかける。


「油断しちゃダメだよ、マヤ」

「そ、そうね……ありがとう、ユウ」


 そう言って再び目の前の岩石狼(ロックウルフ)に切り込むマヤ。

 何だったんだろう?


 結局夕方近くまで岩石狼(ロックウルフ)を狩り続けて僕は18レベルになり、僕以外の全員は20レベルを突破した。




 そして夜。

 流石に昼間ずっと狩りをしてた為か瞼が重い。

 でも今日パンを仕上げないと間に合わない。だから頑張らなきゃ……だけど……それはさておき……。


「どうしてマヤが居るの?」

「……居ちゃ悪い?」


 何処か不機嫌そうな顔で厨房の隅に座るマヤ。


「別に悪くはないけど……」

「安心して、手伝うつもりはないから。ただ読書をしにきただけよ」


 そう言ってマヤはアイテムウィンドウから本を取り出し、読み始める。

 厨房で読書?


 そう思ったけど、時間も惜しいし僕は僕で作業を始める。


 生地を捏ね、寝かし、捏ね、成形し、寝かし、捏ね、焼き、寝かし、仕舞い、捏ね、寝かし、捏ね、成形し、寝かし、捏ね、焼き、捏ね、捏ね……。


 あぁまた開いちゃいけない扉の向こう側に行っちゃいそうになる。

 でも今日は大丈夫。ちゃんと準備もしてきた。


 その名も対睡眠用ポーションっ!


 睡眠系の状態異常を打ち消す練金アイテム! これがあれば徹夜だってなんのその! しかも後遺症なんかは一切なし。ゲーム世界万歳っ!


「ユウ、それ……」

 さぁ飲むぞっ! と気合いを入れていると、マヤが本から目を離してこっちを見ていた。

「あ、うん。露店で買った眠気覚まし。流石に連日連夜だと辛いから買ってみたんだ」

「そう、わかってるなら良いわ」

 そう言って本に目を戻すマヤ。よくわからない。


 と、マヤに構ってたら時間がなくなる。僕は一気にポーションを飲み干した。


「ひきゅんっ!?」


 な、何この味……例えるなら砂糖をたっぷり入れたハッカ味の味噌汁みたいな……この味だけでも眠気が吹っ飛んだ気がする。

 でももう二度と飲みたくないな……練金ポーションって初めて飲んだけど全部こんな味なんだろうか?

 高かったのになぁ……うぅ……。


 と、いけない、時間はないんだ。続きをしなきゃ。


 ポーションのお陰か眠気も治まって又パンを捏ねる。捏ねる。捏ねる……。


 あれ?なんだかふわふわしてきたような……パンってふわふわしてて柔らかいよね……なんだか楽しくなってきたかも、ふふふ……。


 何故か笑顔が止まらないままパンを捏ねて焼き続ける。

 別にパン作りが嫌な訳じゃないけど、流石に飽きてきてた筈なのに楽しくて仕方ない。

 あはははは、もうこのまま何処までもパンを作り続けていたいかもー……。


「ユウ、それが最後のパン?」

 又突然マヤに声をかけられた。

 目の前には焼き上がったパン。もう小麦粉はなかった。


「うんー……最後みひゃい……」

 もう無いのかな、残念だな。もっとずっと作っていたい……。

「じゃあもう休みなさい。今必要なのは眠る事よ」

「れも……もうしゅこしらけ……」

 せっかく調子が良いんだから、余分に作っておいても……。

 そう思っていたらマヤに抱き寄せられ、無理矢理膝枕されてしまった。


「いいから寝なさい。副作用が出すぎよ」

「ふくしゃよう……?」

「あの薬は後遺症はないけど少し副作用があるのよ。……おやすみ、ユウ」

「ひぅ……おにゃすみ……まにゃ……」


 膝枕も気持ちいいから、このまま寝ちゃっていいや。ソーセージもパンも完成したし……明日の事は……明日やろう……。


 そうして僕は深い眠りの中へ落ちていった。

 夢の中でも僕はパンを捏ねて、ソーセージを作っていたような気がした。




 


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