第63話 真夜中の訪問。
日付が変わる真夜中。
宿屋を兼業している酒場は店仕舞いをする時間。
僕はその厨房をお借りしていた。
『転職祭』まであと5日。売り物を『ホットドッグ』と決めたけど、時間に余裕がある訳じゃない。
とりあえず最初の2日でソーセージを作って、次の2日でパンを作る事にした。
ホットドッグ自体は簡単な……というか挟むだけの料理だし、出来合じゃ期待してくれたソニアさんに申し訳ないし、両方手作りでやってみる事にする。
アイテムウィンドウと保存庫のおかげで、前もって焼いておいたパンでも出来立ての状態で保存出来るから、そういう点では本当に助かった。アイテムウィンドウが無かったら1人で準備なんて出来なかったと思う。ゲーム世界万歳。
……別にホットドッグを作ってしまっても良いのだけど、それじゃ味気ないから、合体は当日注文が入ってからにする予定。
そうしておけば、売れ残ったソーセージとパンを別に食べられるしねっ!
とりあえず買ってきた豚肉を肉挽き機で挽肉にする。
前回みたいに手持ちの熊肉を挽くんじゃないから、最初から挽肉を買ってきても良かったんだけど折角だから荒さを調整して2種類の挽肉を作る。
といっても肉挽き機に入れてハンドルを回すだけだけど。……本当にあって良かった肉挽き機。
ホームにはないから旦那さんに貸して貰えなければ作れなかったと思う。
そうして出来た大量の挽肉をボール一杯分入れて、調味料と氷と一緒に混ぜ合わせる。
この辺は基本的にハンバーグとかと同じだから問題ないけど……。
ゆ、指が悴む……。
さすがにソーセージ自動攪拌機はないからこればかりは手作業でしなきゃダメだしなぁ……。
定期的に指をふーふーしながら治癒をかけるけど、あんまり暖かくはならない。
『冷たい』のも状態異常に分類されるのかなぁ……凍傷まで行ったら治りそうだけど。
それでもなんとなく治癒をかけつつソーセージの素を作っていく。
味付け挽肉の処理が全部終わり、充填機に挽肉と腸をセットした所で不意に厨房の扉をノックする音が聞こえた。振り向くとマヤ、コテツさん、ノワールさんが顔を覗かせている。
どうしたのかな? ホームの方で何かあったのか……と思った矢先、マヤが口を開いた。
「ユウ、やってる?」
「応援来た」
「あ、うん、マヤ、ノワールさん、ありがとう」
「調子はどーよ?」
「今下処理が一段落した所かな」
せっかくだし丁度良いから一息つく事にする。
さすがに何時間も肉をこね続けるのは自分が思っている以上に疲れているようだった。
と、手を洗って椅子に座った僕の前に置かれる紅茶とドーナッツ。
見上げるとマヤが笑顔で立っていた。
「夜遅くまで作業するなら夜食くらい食べた方が良いわ。……といっても、ドーナツは出来合の物だけど」
「んーん、ありがとう、マヤ」
「別にたいした事ないわ」
「ドーナツを買ってきたのはあたしだけどな」
「紅茶を入れたのは私」
「コテツさんもノワールさんも、ありがとう」
皆にお礼お礼を言ってドーナツを囓る。甘くて美味しい。ドーナツは偉大だ。
やっぱり糖分って大事なんだなぁ……それに皆の優しさのお陰で疲れて減っていたやる気が漲ってくる気がする。
「で、次は何をするんだ?」
テーブルの上に置いてある肉挽き機や充填機を物珍しそうに見ながらコテツさんがドーナツを食べている僕に尋ねる。
鍛冶師だし、調理器具とはいえ機械系は気になるんだろうか?
僕も男の子としてはこういう大きな調理器具は結構わくわくする部分でもあるけど。
「えっと、味付け挽肉を作ってセットしたから、あとはそのハンドルを回して腸に挽肉を詰めていく作業をこれからする予定……かな?」
「なるほど、それ位ならあたしでも出来そうだなっ! ユウは休んでて良いから任せとけっ!」
「え、あ、ちょっと待っ……」
僕が慌てて声をかけようとする間も無く、物凄い勢いでハンドルを回し始めたコテツさん。
吹き飛ぶ腸と挽肉。
「…………あれ?」
不思議そうにハンドルと吹き飛んだ挽肉を見比べるコテツさん。
「肉詰めは結構難しいから、僕がや……」
「私もする」
そう言って、やはり僕の話を聞かずにコテツさんからハンドルを奪い、慎重に回し始めるノワールさん。
が、今度は慎重すぎてテンポが悪く、ボコボコとしたいびつなソーセージが生み出されていく。
それを無言で見つめるノワールさんと、大爆笑するコテツさん。
「…………失敗。次は上手くする」
「いや、だから結構難しいから僕が……」
「全く2人ともなってないわね。私に任せ……」
「ま、マヤは絶対に触っちゃだめっ!!」
慌ててマヤを押し戻した。
ソーセージの失敗位はどうでもいいけど、最悪充填機が壊されちゃったら作れなくなっちゃうし、貸してくれた旦那さんに申し訳ない。
「……さすがにそんな必死で止められるとショックだわ」
「ごめん、マヤ。あと皆も……手伝いは大丈夫だから、その気持ちだけで嬉しいよ」
実際ドーナツと紅茶で元気出たし。残りの作業もがんばれる!
僕ががんばらないと売る分のソーセージが無くなっちゃうしっ!
まぁ僕の場合は『調理』スキルによるサポートも大きいとは思うんだけど。
結局3人が見てる中、ソーセージを充填し、適当なサイズに捻り、茹でて、冷やして一定量づつ小分けして仕舞う頃には朝日が昇り始めていた。
途中から静かになったなぁ……とは思っていたけど、見ると3人は寝息を立てている。
寝落ちしちゃう位無理しなくてもいいのに、と思いつつ、そうまでして居てくれた3人の気持ちが正直嬉しかった。
3人の為にこのノワールさんの失敗したソーセージで朝食も作ろうかな?
そう思いつつ、その日の作業は終わった。
ソーセージ作り2日目。
今日も同じ位の時間にルルイエさんとサラサラさんとホノカちゃんが来てくれた。
「えっと……ホノカちゃん、あんまり夜更かししちゃダメだよ?」
「ユウだってしてるじゃないっ! 子供扱いしないでよねっ!?」
怒られた。心配しただけなのに……。
「まぁホノカっちは夜型やし、少し位大丈夫ちゃうかな?」
「そうね~、応援と挑戦に来ただけだから、ユウちゃんには申し訳ないけど、寝落ちするまでは居ない予定だし~」
「あ、はい。勿論です。ちゃんとホームに帰って寝て貰った方が僕も安心です」
実際今朝は厨房で眠ってしまった3人をどうする事も出来ず、起きてきた女将さんと旦那さんに謝って、部屋を取って貰い、女将さんに運んで貰ったりして大変だった……。
せめて女の子を抱きかかえて運べる位の筋力が欲しいなぁ……。全身鎧のマヤと元々体格が大きなコテツさんは仕方ないかもしれないけど。
あ、でもホノカちゃん位なら頑張ればなんとか……。
「……何見てんのよ、ユウ?」
「あ、うん。えっと、なんでもない……よ? ……あ、そだ。サラサラさん! 応援は有り難いですけど、挑戦って……?」
僕の視線に気付いたホノカちゃんに怒られそうな空気がにじみ出ていたから、慌てて話題を変えてみる。
ホノカちゃんはまだ何か言いたそうだったけど、流してくれたようだ。助かった。
「今日の食卓に出たソーセージがアレだったから、ルルイエちゃんが思いっきり笑ったでしょ~? それでノワールちゃんが怒っちゃって、私達もやってみる事になっちゃったの。少しだけ挑戦させて貰って良いかな~?」
たゆんと胸を揺らしてお願いしてくるサラサラさん。
その頼み方は正直ずるいっ!!
そして、その様を物凄く怖い顔で睨んでるホノカちゃんが怖いっ!!
「い、いいです……けど……」
と言いつつ、ルルイエさんとホノカちゃんを見る。勿論サラサラさんを見続けたら、その大きく揺れる二つの膨らみに目が行ってしまうからだけど。
「私はパス。出来ない事はしないし、ソーセージ作りなんて今後もしないと思うから」
「ウチはやらせて貰うよ。完璧なソーセージを明日ノワっちに食べさせなアカンからねっ!」
全くやる気のないホノカちゃんとやる気が漲ってるルルイエさんだった。
とりあえず最初に言ったサラサラさんに任せる。
「んっ……あっ! ……だめっ……ぁんっ! ……もぅ……うぅ~……んっ!」
やはりというかいびつなソーセージが生み出されていく。
というか、何でサラサラさんは失敗する度にそんな色っぽい声をあげてるんだろう……?
そしてその度にどうしてホノカちゃんは僕を睨むんだろう……目が怖い。
「ほんじゃ真打ち登場やねっ!」
サラサラさんと交代して、腕まくりをしながらハンドルの前に立つルルイエさん。
「ん?……ふんふん……んー?……ほほー」
何やら呟きながらハンドルを回していく。
そして最初の数本は歪だったものの、すぐに綺麗なソーセージが出始めた。
「おおっ!!」
「まぁ、ざっとこんなもんやねっ!」
全く問題ないソーセージが次々と生み出されていく。
ルルイエさんって『調理』スキル持ってない筈だし、斥候の技術ってこういう所でも活躍する物なのかな?
「あらあら、ルルイエちゃん上手ね~」
「1回コツを掴んだら余裕やねっ!」
「じゃあ、私達は休憩してお茶を頂きましょうか~。ルルイエちゃんちゃんは充填お願いね~」
「え?! 全部なんっ!?」
「いつもお世話になってるユウ君の為に此処は頑張りましょう~!」
力強く宣言するサラサラさん。でもがんばるのはルルイエさんだけだよね。
流石に全部お願いするのは申し訳ない。そもそもコレはソニアさんから僕が単独で頼まれた露店であって、クランには関係ない……というか迷惑しかかけてないんだし。
「えっと、でも、全部は悪いし、僕、代わります」
「ん~……間をとってお茶の間だけルルイエちゃんがする、ってので良いんじゃないかしら~?」
「それくらいやったら……」
「じゃあルルイエちゃん、お願いね~」
そう言うサラサラさんに手を引かれてお茶を頂く事になってしまった。
今日のお茶請けはどら焼きだった。
申し訳なさからルルイエさんを盗み見ていたけど、何故か楽しそうにハンドルを回し続けるルルイエさん。……ああいう作業好きなんだろうか?
結局お茶が終ってもハンドルを離さないルルイエさんが全てのソーセージを充填し、サラサラさんとホノカちゃんが帰った後も一緒にソーセージをねじり、茹で、小分けまで手伝ってくれた。
「ホンマ、ウチも忙しい時期やのに困るわぁー! 困るわぁー!」
何故かルルイエさんが無茶苦茶楽しそうな笑顔で、ずっとそう繰り返していた。




