第58話 沢山のイベント。
結局デートを出来る訳もなく、この後も用事があるというソニアさん達と別れて僕は1人露店街を歩いていた。
ぼ、僕だって転職の為のレベル上げとか、露店をどうしようとか忙しいから仕方ないっ! 仕方ないよねっ!!
うん、正直やっぱり残念だ……最近ソニアさんとも冒険者ギルド以外じゃお話出来てなかったし……。
でも露店の方はともかく、レベル上げは何とかしないといけないしなぁ……。
そう思いつつ、何気なくステータスウィンドウを開く。
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ユウ 人族/男 16歳 侍祭Lv16
HP166/AP262
筋力:1(0)
体力:1(0)
速力:1(0)
器用:1(0)
知力:6(+5)
魔力:15(+10)
<通常スキル>
・神聖魔法(初級) ・調理(上級) ・歌唱(中級)
<固有スキル>
・美女神の祝福 ・愛天使の微笑 ・妖精女王の囁き ・精霊后の芳香
・聖獣姫の柔肌 ・魔皇女の雫
<装備>
・Lv17治癒の杖
・Lv5純白のローブ
・猫耳フード
・無病息災の指輪
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この一週間、それに昨日のダンジョンクリアで僕はレベル16になった。
未だに知力と魔力以外の能力値は伸びないし、スキルに至ってはとうとう『調理』が上級になってしまったけど……レベルが上がった分、HPとAPが増えた程度には強くなってる筈……。
支援職としてパーティに参加していただけで、実際にモンスターと戦ったりダメージを受けたりって事は一度もなかったからヒモっぽくてなんだか申し訳ない感じはどうしても拭えないけど……。
殆ど1日1レベルアップというスピードだ。ソロで頑張っていた時とは明らかに経験値の入り方がおかしい。
これがパーティの力なんだろうか?
でもあと一週間で更にプラス4レベルというのは結構ギリギリな気がする。
やっぱりクラン狩りだけじゃなくて自分でも何とか経験値を稼がないとダメかなぁ……でも1人で狩りに行くのは禁止されてるしなぁ……。
どこかに美味しい経験値は落ちてないものか……。
「おや、ユウ様ではありませんか。今日は如何されましたかな?」
経験値が落ちてないか地面を見て歩いていると、聞き覚えのある声が頭の上から聞こえてきた。
顔を上げると想像通りのにこやかな笑顔をした男性が立っている。
「あ、アンクルさん、こんにちわー。ただ散歩してただけですよ」
「なるほど……しかしユウ様。街中とはいえ危険もあるかも知れません、フードは被られた方が良いかもしれませんな」
あ、そういえば今日はフードをしてなかった。それでタニアちゃんも僕を発見出来たのかな?
知り合いに見つけて貰えるのは嬉しいけど……勧誘とかは面倒臭いし、今後は気をつけよう、うん。
と、ふと見るとアンクルさんの後ろに数人の騎士さんが居た。
基本いつも1人のアンクルさんなのに珍しいなぁ……と思っていると、その中の1人の女性騎士さんが物凄く目をキラキラさせて僕を見ている。
確かあの人は東の森のマヤ捜索をお願いした時も頑張ってくれてた人だ。名前は……なんだっけ……? 多分聞いてないと思うけど……あの時は必死だったからちょっと自信がない……。
そう思いつつ目があったのか、女性騎士さんは嬉しそうにアンクルさんの後ろから前に出てきた。
「巫女姫様っ! こんにちわっ!!」
元気に頭を下げる女性騎士さん。元気溌剌としていて見てて心地良い。
けど……
「あ、えっと、ユウです。先日は僕の我が儘で夜中の探索に手伝って貰ってありがとうございます。あとその……『巫女姫』じゃなくて、ユウと呼んで貰えれば嬉しいです」
そう言って僕も頭を下げた。
誰が言い出したのか知らないけどそもそも僕は『巫女』でも『姫』でもないし、そう呼ばれるのは正直恥ずかしい。
「よ、宜しいんですかっ!? で、では、その……ゆゆゆゆゆ、ユウ様っ!」
「は、はい」
何故かぷるぷると身体を震わせている女性騎士さん。
何が宜しかったのかもよくわからないけど……あ、そうだ。このタイミングなら……。
「えっと、僕は貴女を何て呼んだら良い……でしょうか?」
「私をですかっ!?」
震えていた女性騎士さんは驚愕に目を見開く。
「ゆ、ユウ様の良いように何でも構いませんっ! ゴミでも、クズでもっ!!」
「いや、その……そういう訳には……出来ればお名前を……」
「あ、はいっ! あのっ、し、白薔薇騎士団所属、騎士リリンですっ!」
びしっと敬礼のポーズで名乗りを上げる女性騎士……のリリンさん。
さっきまでの挙動不審な態度と違って、その名乗りは格好いい。やっぱり騎士って良いなぁ……。
「えっと、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします、リリンさん」
「はひぃっ! い、命にかえれもっ!!」
頭を下げた僕に、リリンさんは顔を真っ赤にして何故か又挙動不審に震えていた。
ついでに他の騎士団の方にも挨拶をして頭を下げる。
「丁寧な挨拶ありがとうございます。私は白薔薇騎士団所属、副団長ユキノです。宜しくお願いします」
「白薔薇騎士団所属、騎士ダムッス。そこのリリンと同チームに配属されてるっス」
ボブカットの落ち着いた雰囲気の大人の女性は副団長さんだった。
そういえばマヤ捜索の時もアンクルさんの隣でてきぱき指示を出していたような気がする。
最後の男性はリリンさんとチームメイトっぽい。チームってパーティの事なのかな?
「ユウ様、そこの男の名前は脳細胞の無駄ですので覚えなくて結構です」
「何突然言ってるのっ!? むしろそんな事言うお前の好感度が下がってねっ!?」
うん、やっぱり2人は仲が良いっぽい。
「それで……皆さんは何をされてたんですか?」
挨拶も終わり、やっと本題をアンクルさんに尋ねた。
「ええ。ユウ様は来週行われる冒険者ギルド主催イベント『転職祭』はご存じですかな?」
「は、はい、勿論!」
さっき聞いたばかりだけど、知ってるというのは嘘ではないよね、うん。
「そのイベントの中、に3対3のPVPトーナメントが開催されるという事で、こちらの2名と私で参加をしようかと思いまして」
リリンさんとダムさんに目をやりながら説明してくれた。
「という事はユキノさんは参加しないんですか?」
「私は人前に出るのは苦手ですので」
他の騎士団の方とも参加はしないらしい。
同じ騎士団でもやっぱり考え方とかは違うのかな?
確かにイベントのトーナメントともなれば観客も多くなるだろうし、そういうのが嫌って人も居るんだろうなぁ。
「ユウ様も良かったら参加なさいますか?」
と、ぽつりと飛んでもない事をアンクルさんが言い出した。
「むむむ、無理ですよっ! 侍祭じゃ他の2人に迷惑かけるだけですっ! それに当日は忙しいしっ!!」
「そうですよ団長! ユウ様の美しい白い柔肌に傷でもついたらどうするんですかっ!!」
慌てて断る僕に何故か加勢してくれたリリンさん。
別に怪我は治癒で治るから良いんだけど……。
「そうですか? ユウ様なら結構良い所まで行けると思いますが……まぁ無理強いする事でもありませんな、失礼!」
それでも少し残念そうにしているアンクルさん。そりゃ僕も興味はあるけど……痛い思いしたくないし、やっぱり無理だ。
でも……アンクルさんの僕への評価の高さは一体何処から来てるんだろう?
正直まともに戦って他のプレイヤーの人に勝てる気がしない。
「観戦には行くと思うのでアンクルさん達もがんばってくださいね」
「お任せあれっ! 我等白薔薇騎士団一同、ユウ様に恥ずかしくない戦いを致しますよ!」
「絶対見に来てくださいねっ!!」
やる気に燃えるアンクルさんとリリンさん。でもせっかく大会に出るんならやる気がある方が良いよね。
よーし、当日の楽しみも出来たし、僕もレベル上げと露店を頑張らなきゃ!
「おーっほっほっほっほっ! ついに見つけましたわっ! 貴女が『白き薔薇の巫女姫』ですわねっ!?」
アンクルさんのやる気に煽られて僕もやる気に燃えていると、突然の高笑いと僕を呼ぶ声がした。
いや、僕が『白き薔薇の巫女姫』だ、とは正直認めたくはないんだけど……でもそう呼ばれているらしい事は認めないといけない。不本意だけど。
リリンさんやユキノさんみたいに名前で呼んで貰えるように地道に広めていけばいいんだ、うん。
それはさておき、声がした方を見ると、そこには見た事のない女性が立っていた。
漫画でしか見た事がないような金髪縦ロールで、同じく金色のドレスのようなデザインの鎧を身に纏い、羽根扇子を持っている。美人は美人なんだけど……なんというか迫力がすごい。絵に描いたような『お姫様』って感じだ。
「あ、えっと……はい。多分、『巫女姫』は僕で……出来れば『ユウ』って呼んで欲しいんだけど……どちら様でしょうか?」
「あら、そうでしたわね。はじめまして、私の名前はシェンカ。『黄金の歌姫』シェンカと言えば、貴女もご存じでしょう?」
「ごめんなさい、知らないです」
「な、な、な、なんですってー!? こ、これだから田舎者は困りますわっ」
だ、だって知らないものは知らないんだから仕方ないじゃないか……。
もしかしたら掲示板とかで有名な人とかなのかな? だとしたら悪い事をしただろうか?
「やぁ、シェンカ殿、ごきげんよう」
怒りに震えて今にも羽根扇子を折らんとしていたシェンカさんを見たアンクルさんが優雅に頭を下げた。
「こ、ここここ、これは、アンクル様、ご、ご機嫌麗しゅうっ! きょ、今日は何をされてらしたんですの?」
「来週の『転職祭』に向けて準備等を……」
さっきまでの怒りで真っ赤になっていたのとは全く別の意味で顔を赤らめ、もじもじと羽根扇子を弄るシェンカさん。
これってもしかして……。
「あの、ユキノさん。シェンカさんってアンクルさんと知り合いなんですか?」
気になって小声でユキノさんに尋ねてみる。
「はい、シェンカさんがモンスターに襲われピンチの所を団長がお助けになられ、それ以後シェンカさんが団長に好意を抱いていらっしゃるようです」
あ、やっぱり好きなんだ。まぁ僕がわかる位だし、誰が見ても丸わかりなんだろうなぁ。
何事もないように会話してるアンクルさんが気付いてるのかはわからないけど……。
「騎士団でシェンカさんの好意に気付いてないのは団長だけですね」
僕の疑問は顔に出ていたのか、ユキノさんがそう付け足してくれた。
やっぱりそうなんだ。そんな気がしてた。
「あそこまでわかりやすい好意を気付いて貰えないなんて、ちょっとシェンカさんが可哀想になるなぁ……アンクルさんってそういう事に鈍いんだね」
「ええ。……ユウ様も人の事は言えないと思いますが」
「僕もっ!?」
ユキノさんの何気ない言葉がかなりショックだった。
僕ってそんな鈍いだろうか……? というかそもそも女の子にモテた事すらないんだけどなぁ……。
「それで……シェンカ殿は何をなさってらしたので?」
「あ、そ、そうでしたわっ! 貴女っ! ちゃんと居ましたわねっ!! 『白き薔薇の巫女姫』っ! 貴女に勝負を挑みますわっ!!」
僕が落ち込んでる間に会話が一段落したのか、シェンカさんは改めて僕の方を羽根扇子で指さした。
「勝負……? でも、僕は侍祭だから、戦闘とかは……」
それに女の子に手をあげるとか出来ないし。
「あら、それなら大丈夫ですわ。聞いた話によると貴女も『歌唱』スキルを持っているのだとか」
「あ、うん。一応……」
何で知ってるんだろう? と思ったけど、一時期酒場で歌ってたからそれでなのかな?
『歌唱』スキルなんて持ってる方が珍しいだろうし。
「来週のギルド主催イベント『転職祭』で『歌唱コンクール』が開催されますわ。その場で私と貴女、どちらが高得点をだせるかで勝負ですわっ!!」
ビシっと僕を指さして高らかに宣言するシェンカさん。
「あ、ごめんなさい。イベント当日は露店を出したり忙しいから無理です」
そう言って僕は頭を下げた。
 




