第59話 スケジュールの大切さ。
「お、お待ちなさいっ! 貴女は、し、『白き薔薇の巫女姫』なのでしょうっ!?」
慌てたように僕の肩を掴んで叫ぶシェンカさん。
「はい、えっと……出来れば『ユウ』と呼んでくれた方が……」
「そして『歌唱』スキルをお持ちなのに、何故コンクールに出られないと言いますのっ!?」
「えっと……だから、露店とかが多分忙しくて……」
「そういう事を言ってるんじゃありませんわっ!!」
ええー……他に何があるんだろう?
何だかシェンカさん、真剣な顔で怒ってる……?
「貴女も『歌唱』スキル持ちならおわかりでしょうっ!? 『セカンドアース』において、プレイヤーが取得出来るスキルは数多くあれど、非戦闘系、しかも日常でも特に効果を及ぼす類ではない趣味系スキルである『歌唱』が如何に不遇な扱いを受けているかっ!」
シェンカさんの迫力に圧されながら、そうなの? とアンクルさん達の方を見ると、副団長のユキノさんが頷いていた。
確かにそうかもしれない。実際僕だって自分でスキルを選んでいたら『歌唱』とか取ってなかったと思うし。
取得出来るスキルの数が10個しかないんだから、わざわざそこに使えないスキルを選んでたらやっぱり掲示板とかでも色々言われちゃうのかなぁ……。
「そんな中、やっと『歌唱』持ち達が表に出る事が出来るハレの場として『歌唱コンクール』が開催されますよのっ!? そこに出なくてなさいますのっ!!」
「う、うん……」
確かに自分の持ってるスキルを悪く言われてるのは残念だし、そう言われると『歌唱』スキル持ちとしては参加した方が良いんだろうか?
でも時間大丈夫かなぁ……露店ってずっと居なきゃいけない物だし……あ、でも作り置きして、途中で抜けても大丈夫な料理にすればなんとかなるのかな?
「シェンカ殿、あまりユウ様に無理を言ってはなりませんよ」
僕がスケジュールについてうんうん唸っていると、見かねたのかアンクルさんが声をかけた。
と、飛び上がるように僕から離れて口元を隠しながらモジモジするシェンカさん。
「わ、私とした事がつい……申し訳ありませんわ。でも……今回の事はどうしても……」
アンクルさんには強く言えないらしく、でも諦められないのかごにょごにょと呟くシェンカさん。
シェンカさんってそんなに歌う事に本気なんだなぁ。
そんながんばってる人が居るなら、同じ『歌唱』持ちとして、力になってあげたくなっちゃうな。
正直僕みたいな素人の歌なんかで参加するのはどうかと思うけど、でもお祭りの『歌唱コンクール』って事は要は『のど自慢コンテスト』みたいな物だろうし、素人が出てきて鐘一つ、というポジションも必要かもしれない。
スケジュールは……ちょっと歌って戻ってくる位なら大丈夫だよね、うん!
「えっと……アンクルさん、シェンカさん。その……時間が大丈夫そうなら、僕、出ても……いい……ですよ?」
「本当ですのっ!?」
シェンカさんは僕の発言を聞いて、再び声量が戻り、勢いで詰め寄ってきた。
「う、うん。多分、大丈夫……かも?」
「それでこそ『白き薔薇の巫女姫』ですわっ! えぇ、不戦勝なんて勝利ではありませんものね。今回のコンクールでどちらが…ァンク…様のハートを射止められるか、正々堂々勝負ですわっ!!」
名前以外の部分を高らかに宣言するシェンカさん。
むしろ名前の部分をちゃんと言った方がアンクルさんに届いたと思うんだけど……ちらりとアンクルさんを見るもやはり自分が呼ばれた事に気付いてないっぽいし。
「えっと……勝負とかは、いいんじゃ……ない……かなぁ?」
「何を言ってますの! 淑女たるもの全力で勝負に挑め、と言いますでしょう?」
「何処の貴族の家訓っ!?」
大体僕もアンクルさんも男なんだから、僕がアンクルさんのハートを射止めても仕方ない。というか困るし。
って、よく考えたらそんな事気にする必要もないのか。シェンカさんって本気で歌に取り組んでる人っぽいし、さっき自分で『黄金の歌姫』とか言ってたし、対して僕は素人なんだから、コンクールでシェンカさんがアンクルさんのハートを射止められるように協力すれば万事めでたしじゃないか!
つまり僕がやるべき事は恋のキューピッドって訳だよねっ!
「わかったよ! シェンカさん! 僕がんばるよっ!!」
「おわかり頂けたらのでしたら宜しいですわ。この一週間、せいぜい無駄な努力をなさる事ねっ! ほーっほっほっほっほっほ」
「そうですな。『白き薔薇の巫女姫』と『黄金の歌姫』の歌声が聞けるとなれば是非我々もそのコンクール、応援に参りますぞ」
「ユウ様の歌声っ! 楽しみにしてますっ!!」
「ありがとうございます」
「あ、アンクル様が来て下さるのでしたら、私も全力の全力で取り組まさせて頂きますわっ!」
アンクルさんもリリンさんも来てくれると約束してくれた。
正直、素人の歌を期待されるのは辛いけど、今回の僕の役目はアンクルさんとシェンカさんの仲を取り持つ愛天使っ! むしろ僕の歌が普通にダメな方がよりシェンカさんの良さが際立つ筈。
こうして考えてみると他の『歌唱』を持つ人達の役に立てて、他のプレイヤーに『歌唱』を知って貰えて、しかもシェンカさんの恋のお手伝いも出来る。
大変かもしれないけど、当日のコンクール参加は悪くないのかもしれないし、楽しみかもっ!
アンクルさん達と別れた後、必要な食材を買い込んでホームに帰った。
時間は午後3時。ちょっと話し込みすぎちゃったかもしれない……。
今から森の方に行ってると夕食を作る時間が無くなっちゃうし、今日は朝食も準備出来なかったら夕食くらいちゃんと作りたいから、狩りは諦めよう。
「ん~、逆に中途半端に時間があるんだから、夕食は普段作れないような時間のかかる料理の方が良いかな?」
そう思いつつ買ってきた食材と保存庫の食材を見比べる。
ふと保存庫の隅に残っていた肉の塊が目に付いた。
「……よし、スジ肉カレーにしよう!」
時間がかかるから普段は作れないけど、手間はあまりかからない。そして美味しい。今日にピッタリだ。
スジ肉を洗って汚れを落とした後、茹でてはアクを取る作業を繰り返す。
綺麗になって来た所で一口大に切って、生姜と青ネギを入れてコトコト煮込む。
その間に時間があるからポテトサラダを作る。
キャベツの千切りも捨てがたいけど、じゃがいもが大量にあるから仕方ない。
そうしてスジ肉が軟らかくなった所で炒めた玉葱と、ジャガイモ、ニンジンを投入して更に煮込んで、最後にカレールゥを入れたら完成!
カレールゥを入れたら何でもカレーになるからルゥは偉大だっ!
なんで『セカンドアース』にもカレールゥがあるのか不思議だけど、きっとプレイヤーの誰かが作ったのかなぁ……ルゥがないとカレー作るのも面倒だし。
「たっだいまー!」
「おおー!なんやエエ匂いが漂っとるね」
そう思っていたら玄関からコテツさんとルルイエさんの声が響いた。
もうカレーは十分出来上がっていたし一端火を止めてリビングに出る。
そこには2人だけでなく、クランメンバー全員が揃っていた。
丁度良いし、まず最初に……
「みんな、お帰りなさい。……あと、えっと朝は寝坊してごめんなさい。それと……昨日の事なんだけど……」
「あぁ、昨日は酔っぱらっちまって無茶してゴメンなユウ」
「ユウ君、ごめんなさいね~」
「……え?」
僕が謝る前に何故かコテツさんとサラサラさんに謝られてしまった。
「2人とも大人なんだから節度を持って飲酒して欲しいわ」
目が点になっている僕を置いて追い打ちをかけるマヤ。
「だから謝ってるだろぉ。今後は気をつけるぜ。なぁサラサラ」
「え、ええ、勿論よ~? 頑張るわよ~?」
見た感じどうやら昨日からずっとコテツさんとサラサラさんはマヤ達に怒られていたっぽい。
でもよかった。この感じだと僕自身はそこまでの醜態を晒さなかったっぽい。
「えっと、ぼ、僕は気にしてないから、大丈夫ですよ」
見かねて助け船を出す僕にコテツさんとサラサラさんの表情が輝いた。
「ありがとうユウ!」
「ユウ君ありがと~」
いや、実際お礼を言うのは僕の方で、あの感触自体は天国だったし……本当に天国に行っちゃう可能性もあったけど……。
「むしろユウがしっかりしてないのが問題なのよっ! ユウも少しは昨日の事を気にして反省するべきでしょっ!! これだから男はイヤなのっ!」
「ゴメンナサイ」
醜態を全く晒さなかった訳ではなかったっぽい。
「それで、ユウ君、来週の事なんだけど~」
夕食のカレーを食べながらサラサラさんが突然切り出した。
カレーは好評で、おひつと鍋を中央に置いて各自自由に盛れるようにしたら誰かしらが常におかわりをしている。
……カレーってそんなハイスピードで食べる料理だっけ……?
「って、ユウ君、聞いてる~?」
「あ、はい、すみません! 来週ですよね、転職実装とそれに合わせたイベントがあるとか」
「あら、知ってるのね~。いいこいいこ」
そう言って空いた手で頭を撫でてくれるサラサラさん。
今日ソニアさんやアンクルさんに出会わなければ知らなかったとは言えない……。
「来週の転職祭だろっ! あたしとマヤとノワールでPVPトーナメントに参加するぜっ!」
頭を撫でられていると、大盛りカレーを口に運びながらコテツさんも会話に入ってきた。
「その話、私は初耳だけど?」
「私も」
カレーを食べながら器用に首を傾げるマヤとノワールさん。
「んだよ、イヤなのか?」
「別にいいけど」
「じゃ、決定なっ!」
にこやかに宣言してカレーをおかわりするコテツさん。……カレーって本当に飲み物らしい。
「アンクルさん達も参加するって言ってたし、僕も応援に行くね」
「おう! ユウの応援があれば千人力だぜっ」
「がんばる」
「ユウなら自分も出たいって言うかと思ったわ」
「さすがに侍祭で参加はチームメイトに迷惑でしょ……」
「そうね、そうかもね」
うぅ、自分でわかっていても肯定されると辛い……。
「でね~、そのイベントの中で『料理コンテスト』があるそうなの~」
「料理コンテスト?」
「そう~、それにユウ君も参加したらどうかな~? って思って」
ちょっと落ち込んだ僕に、サラサラさんが改めて口を開き、とんでもない事を突然言い出した。
「む、無理れすよっ! 僕のってろう見ても素人料理れしょっ!? こんなのでコンテストとか、ダメれしょっ!」
慌てて力説する。料理コンテストに素人が参加とか歌以上に危険すぎる。
「ユウなら大丈夫よ」
「ユウならイケんじゃね? このカレーもすっげー旨いし」
「ユウっちなら優勝狙えるんちゃうかな」
「ユウ、ふぁいと」
「ま、まぁユウは料理だけは結構美味しいし、出れば良いんじゃない」
僕の力説に何故か全員から参加を勧められてしまった。
「大丈夫よ~。仮に最下位でも参加賞は貰えるし、『イベント』だから経験値も入るから~。『イベント』の経験値って大きいからユウ君はそういう所で経験値稼いだ方が良いと思うんだけど~……どうかな~?」
そ、そう言われると返す言葉がない……。
確かに戦闘であまり役に立たない僕がソロで経験値を稼ぐなら『イベント』が効率的だし、基本発生条件がわからないイベントが、前もってわかっているなら参加しない手はない……。
「わ、わかりまひた。参加しましゅ……」
「ありがと~。応援するからがんばってね~」
笑顔で喜ぶサラサラさんや皆を見ながら、一週間後の自分のスケジュールは大丈夫なのか少し気が遠くなっていた。




