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第十六話 銀狼と少年へようこそ

「助かった……が、いったい何が起きたんだ?!」

 エルが目の前で起こった現象に唖然としていると、先程ガルーガを貫いた光の玉がゆっくりと近付いてくる。


 どこか見覚えのある光に触れようと手を伸ばす。


 ガブリ!!


「いっ…………!?」

 叫んだらまずい。

 声にならない悲鳴を上げる。


 この痛みには覚えがある……ルミだ。


「なんだお前……ついて来てたのか」

 エルは噛まれた痛みに耐えながら小声で話す。

「毎度毎度噛みつきやがって、オレに恨みでもあるのか?!」

 聞いているのかいないのか、ルミは前足を使って器用に顔を洗っている。

「まぁ、今回は助かった……ありがとう」

 エルの感謝の言葉に、ルミは得意げに頷いた。


「ところで、あいつらに気付かれるとまずいんだ。体の発光を抑えられるか?」

 日も暮れ始め、薄暗い森は闇を濃くしている。

「この暗闇の中では、お前の光は目立ちすぎる」

 エルの言葉を聞き入れたのか、ルミの体の発光は次第に収まり、ぼんやりとした柔らかい光となった。


 二体目のガルーガを相手にしているうちに、いつの間にか群れのいる方が騒がしくなっている。


「まずいな……気付かれたか?」

 ルミの淡い光を隠すように、両手で胸に抱き寄せ、身を低くしてその場から動かずに聞き耳を立てる。


 聞こえてくるのは、こちらに近付いてくる足音……ではなく、獲物を前にしたガルーガが発する唸り声と「ぎゃん……」という甲高い悲鳴。


「誰か襲われている?!」

 悲鳴を聞いたエルは、ルミを胸に抱いたまま、再び状況が一望できる場所へ慎重に移動する。

 移動している間も唸り声と悲鳴は続いていた。


「ここからならガルーガとその相手の両方を確認できそうだな」

 ガルーガの群れを真横に捉えられる位置まで来たところで、草木のわずかな隙間から、身を隠しながら向こう側が見えそうな場所を見つけた。


 見つからないよう慎重にのぞき込んでみると、そこには予想だにしない光景が広がっていた。


 横たわる十数体のガルーガ。すでに息絶えているように見える。

 群れは犠牲を出しながらも獲物を囲んで次々と飛びかかっているが、その度に悲鳴と共に返り討ちに遭っている。悲鳴は襲われている者ではなく、ガルーガの悲鳴だった。


「なんだ?いったい何を相手にしているんだ」

 エルは目を凝らして、ガルーガの群れを相手取っている存在の姿を確認した。

 そこには、銀色に輝く美しい毛並みのオオカミがいた。


 その姿は、薄暗い森に溶け込む黒い毛並みのガルーガとは違い、どこか神々しささえ感じさせる。


「おっと、魅入ってる場合じゃなさそうだな」

 よく見ると、その銀色の体は傷だらけで息も上がっている。今も途切れることなく襲いかかってくるガルーガを迎え撃っているが、銀狼の反撃で倒れるガルーガはいなくなっていた。


(あの銀狼、このままだともたないよ)

 突然、エルの頭に声が響く。

「誰だ?!」

 慌てて周囲を見渡すが誰もいない。


(ボクだよ、エル)

 再び、響く声……幻聴ではない。

(いつものように指を噛まないと分からないかい?)

「指を噛む……って、ルミか!」

 エルは慌てて胸に抱いているルミを見る。


「おまえ、喋れたのか」

(そうだよ、ボクだよ。けど、喋れる訳じゃない、君の頭に直接話しかけてる)

「頭に直接って、魔法か何かか?」

(そのようなものだよ。そんなことより、あの銀狼を助けよう。早くしないとやられちゃうよ)

「そうだな……ルミと会話ができるなら細かい指示が出せるし、あの数もなんとかなりそうだ」


 ガルーガの数は残り七体、うち一体は群れのリーダーであろう、一際大きい体躯をしている。


(ボクはどう動けばいい?)

「ちょっと待ってくれ、すぐ考える」


 手持ちのアイテムで使えそうな物は、小屋を出る時にカナンから受け取った魔法石が光と風それぞれ二つ。

 ガルーガの群れは銀狼を相手にしているから、直前まで気付かれずに不意を突ける。


「ルミ、あのデカイやついけるか?」

(ボクを誰だと思っているんだい?楽勝だよ)

「それなら、残りの奴らは光の魔法石で目を眩ませて……」

(エル、20点……早くしないとって言っただろう。こういう時はこうするんだ!!)


 ルミはエルの懐から飛び出し、一直線にデカイやつに向かって光の矢となって飛んでいく。不意を突かれたガルーガは気付く間もなく体を貫かれ崩れ落ちた。


 一瞬の出来事にエルもガルーガの群れも固まる。ルミはその隙をついて勢いそのままに二体のガルーガを葬り、銀狼とガルーガの群れの間に着地し、体を大きくしてガルーガを威嚇する。

 残り四体となったガルーガは突然の襲撃に驚いたのか、尻尾を巻いて逃げていった。


 まさに一瞬の出来事だった。

 エルは草木を掻き分けようやくルミの元へ駆けつけた。


(遅かったね、もう終わったよ)

「もう終わったって、残りが逃げて行ったからよかったけど……いや、ルミの強さなら全部一人でやれたか」

(それもあるけど、群れと戦う時はリーダーを狙うんだ。リーダーを失った群れはパニックに陥り動きも悪くなる)

「……そうか……」

(ただ、むちゃくちゃに暴れ出すこともあるから、状況判断はしっかりね)

「……わかった……」

(これからもしっかりカナンを守ってもらわないといけないんだから、ちゃんと覚えておいて)


「……お前って、凄いやつなんだな」

(こんなのは知っていて当たり前だよ)

「群れとの戦い方は分かるけど、その……お前自身の強さが凄いなと」

(急に素直で気持ち悪いな……そうだ!そんなことより銀狼は)

「そうだ、急いで手当てしないとな」


 エルとルミが振り向くと、そこには銀狼の姿はなく、代わりに傷だらけの少年が倒れていた……。

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