表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

第十五話 遠吠えの正体へようこそ

 睨み合う一匹の獣と冒険者。

 両者は互いの隙を窺い、必殺の一撃を叩き込もうとしていた――


「はいはい、馬鹿なことやってないで、話を進めるよ」

 フリムは、またかと言いたげな呆れ顔でエルを嗜める。


「ルミも、咬んじゃダメって言ったでしょ」

 カナンに注意されてしゅんと小さくなるルミ。


「ガルーガの問題も、カナンとルミに頼ることになりそうだけど、十分対処できそうだね」

「癪だけどな……」

「もう、エル。話が進まないからいい加減にして」

 フリムの顔は笑顔のまま、鍛えられた腕の筋肉に青筋を浮かべていた。


「そういえば、保管庫にあった食料が半分以上なくなっていたんだよね。しかも、齧りついた跡のある食材まであった」

 これまで使ってきた保管庫は十分に補充され、綺麗に整理されていたという。


「前に小屋を使った冒険者か?扉も開いたままだったし」 

「バッカスみたいな、粗暴な輩が使ったんだろ」

「まあ、そうだろうけど」


「バッカスって誰?」

「カナンには、縁の無い輩だから気にするな」

「機会があれば、今度紹介するよ」


「それはさておき、何もないとは言い切れないな。冒険者崩れが盗賊になることもあるし、用心はしておこう」


「他に気になったことはないか?」

「無いよ」

「うん、大丈夫」

「じゃあ、明日に備えてしっかり休もう」


 三人は、食事と話し合いを終え、明日の準備を始めた。

 エルは装備の手入れ、フリムは手持ちのハーブの整理、カナンは回復した魔力を魔法石に込める。


 その時――


「ワオオォォーーーン」


 遠吠えが聞こえた。

 戦闘中に聞いた時よりも明らかにはっきりと聞こえる。


「近いな……」

 エルは立ち上がり、手入れの終わった装備を着け直す。


「まさか、今から行くの?」

 もうすぐ夕暮れだ。

 フリムは危険だと止める。


「様子を見てくるだけだ。二人は休んでいてくれ」


 周辺を見回り、遠吠えの正体を探る。予想通りガルーガなら数を把握しておきたかった。


「そんなに遠くには行くつもりもないし、日が落ちる前には戻ってくるよ」


 それでも危険に変わりはない、二人は一緒に行くと訴えたが、偵察なら一人の方が融通が利くと言って聞かない。


「それなら、せめてこれを持っていって」

 カナンは、先程魔力を込めたばかりの魔法石を渡した。

 光と風の魔法石を、それぞれ二つ。


「ありがとう」

 エルは魔法石を受け取り、外へ出る。


「ワオオォォーーーン」

 再度、響く遠吠え。

 森の方からはっきりと聞こえた。


「よし、行ってみるか!」

 受け取った魔法石を握り締めて、森へと入っていった。



 森に入ると空気は少しひんやりとしていた。

 街道から続く道があるとはいえ、落ち葉や木の枝が邪魔をして、注意していないと迷子になりそうだ。

 来た道を見失わないよう、所々、木に印を付けて進んだ。


 その間も遠吠えは続き、何か連絡を取り合っているように聞こえた。


「最後に聞こえたのはこっちのほうだったな……」

 道を外れ、生い茂る草木を掻き分けて進んでいると、その先に複数体のガルーガがいた。やはり、遠吠えの正体はガルーガ。


 エルは、気付かれないように息をひそめ、様子を窺う。

 どうやら、ガルーガの群れは、獲物を追い詰めているらしい。群れの先に何かの影が見える。


「ここからだとよく見えないな」

 場所を変えようとした時――


 パキン


 乾いた音が響いた。

 足元を見ると木の枝を踏んでいた。


「まずい……気付かれたか?!」

 祈るように息を殺し、草木に身を潜める。


 一瞬の沈黙の後、最後尾にいた一体のガルーガがこちらを振り向いた。

 警戒するようにこちらに近付いてくる。


 エルはゆっくりと後ずさりながら、剣の柄を握る。

「騒がれる前に、一撃で仕留める!」

 できるできないの話ではない……やらなければ群れに囲まれて終わり。


 草木の隙間越しに、ガルーガと目があった……その瞬間、ガルーガが飛びかかってきた。


 眼前に迫り来るガルーガの牙に、エルはあえて腕を咬ませ、そのままガルーガの突進の勢いを利用して、巻き込むように後方に転がる。


 すぐさま体勢を立て直し、ガルーガの追撃を警戒しつつも、群れの気配を窺う。

 群れが動く気配はなく、草木を隔てて、エルはさらに距離を取る。


 咬ませた腕を守っていた鉄製アームガードの一部が凹んでいた。


 騒がれれば終わり、群れに合図を送られる前に、今度はエルがしかける。


 腰を落として両手で剣を握り、剣先をガルーガの喉元へ向ける。後ろへ引いた右足でこれでもかと地面を踏み締め、一気に距離を詰める。

 エルの動きに合わせるように、ガルーガも牙を剥いて飛びかかってきた。


 お互いが真正面からぶつかった結果、喉元へ狙いを定めていたエルの剣先は、ガルーガの大きく開いた口から侵入し、体内から背中を貫く。


 口から侵入した剣に邪魔されて、助けを呼ぶ鳴き声を上げることもできないガルーガは、剣が刺さったまま絶命するまで、鋭く伸びた前足の爪で抵抗を試みるも、エルの凹んだアームガードを切り裂くことはできず、そのまま力尽きた。


「ふぅ、危なかった……群れには気付かれていないな」

 エルはガルーガから剣を引き抜き、群れのいた方へ意識を向ける。どうやら気付かれずにすんだようだ。


 再び、足元に注意しながら移動を始めた。

その時――


 左側の草木が揺れ、一体のガルーガが姿を現した。


「なんであっち側から……周囲を偵察してたやつか?!」

 先程のようにすぐに倒すには距離がありすぎる。


 異変を察知したガルーガは、仲間に知らせようと肺に空気を送り込む。


 遠吠えをあげようとした時――


 エルの目の前を、ガルーガへ向かって物凄い早さで一直線に光の玉が飛んでいく。


 光の玉は、仲間に向けて吠えようとするガルーガよりも一瞬早く、ガルーガの胸を貫いた。

 胸に開いた穴から、肺に送り込んだ空気がそのまま漏れ出す。

 ガルーガは、自分に起こったこともわからないまま絶命していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ