8 未来にて
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この日、僕は王宮の中にある書庫に来ていた。
理由は、レポートを書くための資料を探すためだ。
本当は、学園内の図書館で借りようと思っていたのだけれど、色々邪魔が入ってできなかったのだ。
……あの令嬢はなぜあんなにも僕に迫ってくるのだろう?
僕にはすでに、心から愛する婚約者がいるのに……
まあ、どうでもいい令嬢のことはいい。
王宮の書庫なら、誰にも邪魔されずにレポートを仕上げられるだろう。
今回のレポートのテーマは、我が国アウローラ王国の歴史。
それは王族の歴史でもある。
正直、我が家の歴史を調べることになるので気恥ずかしいのだが、逆を言えば王宮に関する資料など、腐るほどあるので資料集めは楽だ。
後はどういった側面からレポートの裏テーマを決めるかだけど……
ふと、一冊の本の背表紙が目に入る。
深い赤色の表紙のそれは、恐らくこの国の歴史本の中で、最も人気がある書籍だ。
誰かが持ち出していていつも貸し出し中なのに、この日は残っていた。
僕はその本を手に取り、パラパラとページを捲る。
内容は二代前の国王と王妃の話。
僕からすると、曾祖父と曾祖母に当たる。
この二人には、壮絶な苦難を乗り越えて結ばれたという話をよく聞くが、僕は詳しくは知らなかった。
本の内容が面白そうなので、椅子に座って本格的に読み始める。
王族の恋愛事情に焦点を当ててレポートを書くのも面白いかもしれない。
全部読む時間はないので、面白そうな箇所を読み始める。
◇
──先々代の国王と王妃は最初から婚約者ではなかった。
アレクシアの最初の婚約者は、当時の王太子だったジェフリーという人物らしい。
しかし、彼の心変わりで二人の仲は冷え切ってしまう。
婚約を解消しようにも、ジェフリーの心変わりの相手が見つからないため、婚約は継続。
学園に入学してからはジェフリーはあからさまにアレクシアを中傷するようになる。
それでも、婚約解消にいたらなかったのは、彼の母親である当時の王妃の采配らしい。
しかし、ジェフリーはとうとう初恋の相手、リタを見つける。
二人の仲は急速に進展し、学園を卒業する頃には子供を作っていたらしい。
そうなってもジェフリーはアレクシアを解放せず、そのまま結婚した。
リタのことは愛妾とし、アレクシアには仕事を押し付けた。
しかし、アレクシアを犠牲にした彼ら二人の幸せは一年と続かなかった。
秋のガーデンパーティーで魔獣が乱入するという事件が起こり、そこからジェフリーの初恋の相手がアレクシアだったことが判明する。この魔獣を倒したのはアレクシアらしい。
そこから、すべては当時の王妃が息子であるジェフリーのために偽りの初恋の相手を彼にあてがい、権力を望んだリタの養父が魔獣事件を起こしたらしいことが分かった。
そして、アレクシアの希望もありジェフリーとの婚姻は無効化され、彼女が本当に愛していたエドワードと結婚した。
エドワードは当時の先王妃の子供らしく、命の危険があるからと別の貴族の家に引き取られていたそうだ。
アレクシアの護衛として、幼い頃から彼女のそばにいたらしい。
それから、エドワードが王位を継ぎ、王妃のアレクシアとこの国を治めた。
その後、二人の間には三人の子供ができた。
彼らはとても仲睦まじかったという。
エドワード王の三人の姉との仲も良好で、彼女たちの子供に王位を継がせようとしたが、結局はエドワード王が長く王位につき、彼の子供が次期王となった。
ジェフリー元王子はカルミア伯爵となったが、様々な手段を用いてアレクシアに接触しようとしたので、その度に厳重に注意を受けた。
そのせいで彼が初恋の相手を間違えた上、本当の初恋の相手を冷遇していたことが国中に広がってしまった。
それにもめげずに王都に行こうとし、その途中で乗っていた馬車が魔獣に襲われてしまい、命を落とした。
奇しくも、彼が『初恋の君』に助けられた時と同じ状態だったそうだ。
彼の名は初恋を失敗した元王子として、寓話となりこの国だけでなく近隣国で語り継がれることになった。
内容を子供向けにした絵本もあるらしい。
彼と結婚したリタ嬢は産んだ子供を懸命に育てた。
夫となったジェフリーとの仲は冷え切っていたが、彼が放り出した領地経営も代理として懸命にこなした。
ジェフリーの死後も、再婚はせず自分の息子が成人すると、彼に爵位を継がせるまで懸命に働いた。
ジェフリーとリタの息子は、両親の所業を知りつつも懸命に領地経営に励んだ。
しかし、生涯結婚せず親戚の子供に後を継がせると、領地で静かに余生を過ごしたという──
◇
読み終わり、僕はなんとも言えない気持ちになる。
この本に出てくる関係者は、すでにほとんどの人たちが亡くなっている。
だから、今更何を言っても仕方がないのだけど……
「たとえ心変わりをしても、相手には真摯に対応しなければいけないな……」
「なんの話ですか?」
「え? ああ、君か。来てたんだ」
愛しの婚約者がそこにいた。
「もうすぐ提出期限だというのに、課題が一向に進んでいないと聞いて手伝いにきました」
「ありがとう! 助かる」
過去の王族たちの恋と失敗を胸に刻みながら、僕は婚約者と共にレポートに取り掛かる。
そして、僕のレポートはその日の内に完成し、なんとか提出期限には間に合ったのだった。




