心底
見えはしない
聞こえもしない
ただ寒い
そう思ったのも束の間、
すすり泣く声が聞こえた
声のする方向は俺の真っすぐ先のようだ
ゆっくりと歩むと
フェンスが見え、その先にうずくまる彼女。
フェンスを越えて彼女を助けなければ
そう思ってフェンスを越えようと周囲をみると
高さは青黒いオーラで先が見えないほどに果てしなく
横に広がる長さも同様だった
あの時のように越えては通れない
一体どうすれば...
そうして彼女を見ると今は文字が見える
不安、絶望、悔恨、悲哀
周りを取り巻くオーラのように暗く冷たい言葉の数々
彼女は打ちひしがれている。
全くあの時と同じであることが話を交わさずとも、
彼女の心の言葉が今は分かり確信となる
するべきことは...決まっている
「そこは危ないからこっちにおいで」
彼女はだんまりとした、
すすり泣く声は止んだ
見える言葉は疑念、混乱と言った紫の文字に変わる
「俺は君の味方だ」
すると急に彼女を取り巻くオーラと言葉が燃えるような紅蓮となった
周りも明るくなったと感じると
彼女の意志と同調しているのだと気付く
心は怒り、敵意、そして炭になるまで燃え尽きたように黒い言葉には
また疑念の文字があった。
推測に過ぎないが、
過去にこの言葉は誰にでも掛けられていた末にこの反応をするまでに至った気がした
ならば彼女は裏切られたのかもしれない
それも何度も
約束か期待か
そこまでは分からないが気休めの言葉を憎悪しているのかもしれない
しかしそこまでドス黒い色ではない、
赤く激しく反応したなら何かが余計であったか、
何かが足りない...
考えると...彼女は意外にも支配欲が強いと言っていた...
ならば...
「俺は君だけの味方になるよ」
そう優しく伝えると
激しい色は勢いを潜め、また元の寒色に近いものになった。
ただ最初よりは明るい空のような色に包まれて穏やかな風を感じる
彼女の言葉も安堵など落ち着いたものになった
中には興味という明るい言葉が浮かび始める
彼女はゆっくりと顔を上げた
するとその顔がいつも見る相貌よりあどけない、
幼い頃の彼女の姿があった
髪も長いが現在ほどではない。
うずくまっていた時は現在と変わらない大きさに見えたが
立つと自分よりうんと小柄だ
彼女がフェンス越しから手を伸ばす
今の彼女の腕の細さならフェンスから腕が通る
俺も一歩近づきその手に握った
小さな手だ
少しでも力加減を間違えたら壊れてしまいそうなほどに
ただ
初めて彼女と手を繋いで温かいと感じた
生命の熱...というものなのか
彼女に温かいオーラが灯った
まだ明るい夕日、暖炉の炎のように明るく優しい色
幼い彼女が笑った
でも涙が自然と目から流れていた
嬉しさなのか
今までの孤独がこの握られた手によって悲しい色を消し飛ばした
涙は彼女が流しているのか、自分が流しているのか分からなくなった
そしてフェンスは消えて
彼女を抱き寄せた
大きさは元の
あの頃と同じ黒田 奈々さんに戻っていた
でも今は震えは感じない
ただ一言
「また助けに来てね」
そう聞こえて
彼女もその世界も全てが白く
泡と消えた




