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初めてのお呼ばれ。

 恵里佳たちは学舎にも慣れてきて、クラスメイトと楽しく学ぶ日々が続いていました。

 初めの方の授業は、文字や数字の読み書きからだったこともあって、恵里佳には少々退屈だったようです。

 ですが、クリスハイトは文字の読み書きが少し苦手だったせいもあって、恵里佳が教えることができたたため、楽しい授業の時間を過ごすことができていました。

 授業も進むと、この国の成り立ちや、国の外にある『深き森』のことについてなどが授業に出てきました。

 不思議に思ったことは率先して手を上げてアリステラに質問攻めをします。

 恵里佳もクリスハイトも、負けじとクラスメイトも好奇心旺盛に、授業を受けるものですから、授業の進みも思ったよりも良かったらしいです。

 理解に苦しむことがあれば、友達同士助け合って教え合おう。

 そんな構図ができ上がっていて、後戻りして前のことを教える必要がなかったからでしょうね。


 クラスメイトと話す機会が増えたことで、恵里佳もクリスハイトも少し活舌が良くなってきていました。

 ボキャブラリーも増えてきているため、恵里佳はかなりのおしゃべりになってきていましたね。


 ▼▽


 今日は学舎に入学してから二月ほど過ぎたお休みの日。

 もうすぐ年を越す行事の近づいている、日本でいえば師走の時期。

 今日は午後からクリスハイトとデリラにお呼ばれすることになっていたのです。

 初めてのお友達の家。

 恵里佳は楽しみで仕方がありません。


「ママ、このお洋服、可愛いかなぁ?」

「大丈夫よ。でも寒いのだからコートは着ていかないと駄目ですからね?」

「なんかこれ、もこもこしてて可愛くないよぉ」


 今恵里佳が羽織っているのは、恵里佳の可愛らしさを引き立たせるために志津恵が作った純白のダッフルコート。

 ただ、志津恵視点での可愛らしさなので、恵里佳はちょっと納得いっていないようですね。

 コートの下に着せているのは、これまた志津恵特製。

 純白の生地に黒のアクセントの入ったメイド服をアレンジしたワンピースドレスなのです。

 ヘッドドレスを黒にして、黒い暖かなタイツを穿かせています。

 このワンピースドレスは恵里佳もお気に入りで、学舎に着ていきたいと言っていましたが、一応お呼ばれした際などのおめかし用なので、志津恵は許可していないのでした。


 コンコン


「はいはい、どちら様でしょうか?」

「おはようございます。クリスハイトです。エリカちゃんを迎えにきました」


 カチャッ


「あらあら、クリスハイトちゃん。おはよう。ごめんなさいね、わざわざ迎えに来てもらってしまって」

「いえ、僕の方がエリカちゃんを迎えに来るって言ったんです。お姉ちゃんも家で待ってますので」


 たった二ヶ月しか経っていないのに、ほんの少し大きくなったような、大人になったような感じのクリスハイトを見て、志津恵は恵里佳の成長も頷けてしまうと思っていました。

 志津恵の背中からひょこっと顔を出した恵里佳。


「クリスハイトちゃん、おはよっ」

「お、おはよっ。エリカちゃん」

「エリカ、忘れ物はない?」

「うん。大丈夫だよ。『あれ』も持ったし」

「そう。クリスハイトちゃん、恵里佳をお願いね」

「はい。い、命に代えてもっ」


 クリスハイトは両拳を握って、目を瞑りちょっと顔を赤くして宣言しました。

 きっと『王子様』を演じたかったのでしょう。

 えぇ、かっこいいですよ、クリスハイト。

 ですが、そんなクリスハイトに気持ちを知らずして、恵里佳は一蹴してしまいます。


「あははは。クリスハイトちゃん、大げさなんだからっ」

「(恵里佳、そこは笑っちゃいけないところなのよ……。きっとデリラちゃんにそう言えと言われたのでしょうね……)」


 元気に育っている娘に嬉しさを感じる反面、女の子らしさの欠けている恵里佳に心配して、苦笑いをする志津恵でした。


 ▼▽


 馬車に揺られてクリスハイトの家へ向かう恵里佳たち。

 馬車で通学するのには理由があるのでしょう。

 前にデリラとクリスハイトの様子を見に行ったので、私は場所は知っていました。

 防犯上ということもあるのでしょうが、思ったよりも長い距離を移動していますね。

 こんなに長い時間飛んだかしら?

 恵里佳のように歩いて通学するには、子供の足では少々きついのかもしれないわ。

 その距離を護衛しながら進むくらいなら、馬車が適切なのでしょうね。

 見知った学舎への道を通り過ぎると、更に進んでいくのが恵里佳にも解かったみたいね。

 馬車に揺られること十数分。

 慣れた町中から遠ざかり、田園風景が目に入るようになってきました。

 徒歩なら学舎への距離の優に倍以上あったでしょうね。

 ただただ、恵里佳には知らない土地が新鮮であったが、ちょっと不安な気持ちにもなってしまったようです。

 ですが、横に座っているクリスハイトの手をきゅっと握ると、ちょっとだけその不安な気持ちが消えていきます。

 恵里佳にはまだ解らない感情だろうが、なんとなくクリスハイトの手を握っていると落ち着くのでしょう。

 恵里佳、それがね、安らぎというものなのよ、きっと。


 恵里佳やクリスハイトの『大好き』はライクであってそれ以上の感情はまだ生まれていないでしょう。

 恵里佳にとっては『男の子と女の子』と違いもまだ曖昧な歳なのでしょうから。

 それは何故かというと、恵里佳はクリスハイトを『可愛い』と思っているあたりで解っていただけるでしょうね。


 馬車の速度が落ちてきて、ややあって大きな屋敷の敷地へ入っていくのが恵里佳にも解った。

 大きな庭とその中央にあるこれまた大きな屋敷。

 白い壁でできている綺麗な家でした。

 前に来たときは夜だったので、あまり気にしてなかったわね……。


「ほぇええええ……。おっきいお家《うち》だぁ……」


 それもそのはず、志津恵の推察通り、クランドール家はこの国の伯爵家だったのです。

 これでも比較的小さな屋敷。

 ただ敷地だけなら学舎とほぼ同じくらいあるでしょうね。

 デリラとクリスハイト二人だけの姉弟。

 ということは、クリスハイトは嫡男なのでしょう。

 ただクリスハイトも恵里佳も貴族のことはよく解かっていないはずです。

 クリスハイトにとって、今日は大好きなお友達の恵里佳を家に招くこと。

 それだけだったのです。


 庭の敷地をくるっと遠回りする感じに敷かれている石畳の道を通ると、屋敷の玄関前で馬車は停まります。

 クリスハイトが先に降りて、恵里佳に手を差し出しました。

 小さくても貴族の教えをされているクリスハイト。

 恵里佳をエスコートしようとしているのが、また可愛らしいわね。

 その手を握り、恵里佳は慌てないで馬車を降りました。

 膝丈のスカートだったため、足元を気にする必要はありませんでしたが、馬車の足場はちょっと高めでした。

 降り切った恵里佳はクリスハイトに笑顔を向けます。


「ありがと。クリスハイトちゃん」

「う、うん……」

 『ボッ』という効果音を背負ったような速さでクリスハイトの顔が赤く染まっていきます。

 この世界で育った恵里佳たちは、志津恵と違って幼少期に絵本やそういう物語を読むことができません。

 それ故に、そのような知識が全くないのです。

 クリスハイトに手を引かれながら扉に向かって歩き始めると、その扉は内開きにゆっくりと開いていきました。


 「「「「「「いらっしゃいませ、エリカ様。お帰りなさいませクリスハイト坊ちゃま」」」」」」


 びっくりするようなことがありました。

 両側に並んだ侍女たちの出迎えです。

 一礼の終わった侍女たちが恵里佳とクリスハイトに歩み寄ってきます。


「エリカ様、上着をお預かりしますね」

「は、はい。お願いしますっ」


 恵里佳はダッフルコートを脱ぐと、侍女のひとりに預けます。

 すると、侍女たちの口々から『まぁっ』という感嘆の声が漏れてしまいました。


「す、すみません。あまりにも可愛らしいもので……」


 恵里佳のコートを預かった侍女が謝罪してきます。


「そ、そうですか? 可愛いって、嬉しいね、クリスハイトちゃん」


 後ろを振り向いてクリスハイトを見ると、彼はぽかーんと口を開けたまま恵里佳に見惚れてしまっていたのです。


「……う、うん。すっごく、すっごく可愛いよ、エリカちゃん」

「そう? えへへへ。クリスハイトちゃんも可愛いよっ」

「あ、ありがとう……」


 クリスハイトは恵里佳に可愛いと言われて、嬉しいようなちょっと複雑な気持ちになってしまいます。

 恵里佳、もう少しお勉強しましょうね……。


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