KYの有難み
なんとか店員が来るまでに内山を引きはがし、あらぬ誤解を受けずに済んだ。
内山には水を与え、おしぼりを首の後ろに当てさせたまま端へ追いやった。
「はぁ…まじどうなるかと思ったわ。てかお前ら協力すんの遅ぇよ!」
「柴田はシャツぐしゃぐしゃだわ、俺なんて引っかかれたっつーの。」
ぶつぶつと文句を言う柴田と小宮に4人は「お疲れさん」とだけ声をかける。
「まぁ、とりあえず内山は端に追いやったし、食おうぜ。」
翔の言葉をきっかけに全員が届いた料理に箸を伸ばす。
「あー、やっぱたこ唐うまっ!!ビール飲みてー!!」
「そんなお前を尻目に俺はたこ唐をビールと合わせて食う!!」
「紀仁お前嫌な奴だなー!!」
「うるせぇ!!こっちが絡まれてんのに知らん顔しやがって。」
「根に持つなよー(笑)」
席替えをして隣り合わせになった伏見と柴田のやり取りを見て、
(完全に大学時代のノリだな~)と翔は思った。
「そういえばさ、」
小宮の言葉に全員が注目する。
「皆今何の仕事してんだっけか?」
「え?俺お前に言わなかったっけ?」
緒方の言葉に、
「いや、俺皆より先に研修とか入って話聞けてないから。把握してない。」
と返す。
「じゃあ、現状報告も含めて改めて一人ずつ今自分がやってることについて話すか!!」
「柴田、それなんか合コンみたい…。」
「うるせ!!じゃあ吉村からいくか?」
「いや、俺は後に回して。」
「よし、じゃあ石田からで。」
柴田のしきりに合わせて各自の現状報告が始まる。
「俺は今教員やってるよ。」
「えっ!誠教員免許持ってたの?」
「いやいや、伏見も1年の時同じ教職の授業取ってただろ?」
「あ~、そうだったな。俺すぐさま授業量の多さに挫折して辞めたけど。」
「お前6月には授業からいなくなったもんな(苦笑)まぁそんなわけで、今は高校で教員やってるよ。」
「んで、誠はそこで女子高生と浮気してんだよな?(笑)」
「えっ!?緒方それまじ?」
「信じるなよ吉村。まったく…。男子校だっつぅの。残念ながら女子高生はいねぇよ。いたとしても俺は…彩名一筋だからな!!」
「はいはい、ごちそう様~。じゃあ次、小宮は?」
「俺?俺は今雑誌の編集やってる。」
「何だそのおしゃれな仕事は!?」
「おしゃれだと思うだろ伏見?だけど、実際は常に締切を意識しながら仕事しないといけねぇから精神的に余裕なかったりすんだよ。」
「へぇ…やっぱ華のある仕事はそれなりに見えない苦労があんだな。」
「そういうお前はどうなの?」
「ん?俺?俺は証券会社で働いてるよー。堅い仕事だと思ってたし、まあ忙しいは忙しいけど、上司にも今のところ恵まれてるし、仕事に苦はないかな。」
「へぇ、お前が証券マンとか似合わねぇのな(笑)」
「確かに、お前が原因で株価暴落すんじゃねぇの(笑)」
「柴田も緒方もひどすぎ(笑)」
「翔!お前も笑ってんじゃねぇよ!」
「緒方は?」
「俺も先生やってる。誠とは違って中学校の教員だけどな。」
「幼馴染揃って学校の先生かよ。お前ら本当仲良いのな。」
微笑みながら言う小宮に照れくさくなった緒方は
「俺は元々教員志望だったからな!!小学校ん時からの夢だからな!!誠が真似してきたんだよ!!」
と声を荒げた。
「でも勗さ、さっき誠に言ってたけど、中学校だったら共学でしょ?生のJCはどう?やっぱり萌える?」
「伏見死ね。そんな目で見てねぇよ。純粋に教え子としては好きだけど、それ以上の感情もそれ以下の感情もねぇから。」
「まぁ緒方はなんやかんや真面目だからな。お前みたいな不浄の目で見てねぇよ。」
「何それ紀仁ひどくねぇ!?」
「(スルー)俺は、商社で企画営業してる。んで、吉村は?」
「んー?」
「いや、んー?じゃなくて?お前は今何やってんの?」
「俺は大学ん時にバイトしてたとこでそのまま世話になってる。」
「えっ!!翔まだバイトなの?」
「伏見うるせぇ。」
「だからこないだ会った時私服だったんか!!しかもwithもやし袋(笑)」
「なんだよもやし袋って。」
「聞けよ勗、こないだたまたま翔に会った時にさ…。」
「あーもううっせ。俺の話は良いだろ?それに俺別に正社員ていう響きにこだわりねぇし。」
「でも吉村今も一人暮らしだろ?仕送りもらってんのか?」
「石田まで…。もらってねぇよ。ちゃんと自分の稼ぎだけで生活してるっつうの。」
「まじでか?でも、そしたらバイト掛け持ちか?1個だけだと生活できねぇだろ?」
「いや、一応毎月貯金できる位はあるぞ?」
「は?何だよその仕事?激務?」
「全く。週4だし9~5時で残業なし。ボーナスも出る。」
「まじでか!?社会保険とかは?」
「完備だし、退職金も出るらしい。」
「なんだよその仕事めっちゃ良いじゃん!!俺にも紹介してくれよ!!」
「いや、なんか完全スカウト制らしくて、紹介制度ないんだよな。」
「というよりもそれだけの待遇あるんだったら吉村は正社員なんじゃねぇの?」
「んー、でもバイト君て呼ばれてる。」
「そこまで好条件だと怪しくないか?どんな仕事してんだよ?」
訝しげに緒方が聞く。
「うーん。詳しくは社則で口外禁止だし、言うとクビになるらしいから言えないけど、まぁプログラミング系?なのかな?」
「へぇ…。なんにしても、やばいって思ったら早急に辞めろよ?なんかあってからじゃ遅いからな?」
「おう…。てか、皆俺の話聞き過ぎ。内山復活したし。」
翔の声に端に目を向ければ、内山がこちらの話には一切耳を傾けずに必死にピザを食べていた。
「お前何一人で食ってるんだよ!?」
「んだよ紀仁。気が付いたら俺のこと全員グルになって放置しやがって。温かいものは温かい内に食う!!それが俺のばあちゃんの教えだ!!」
胸を張って言う内山に全員何も言えず、とりあえず目の前の料理に改めて向き合った。
(あんまり聞かれなくて助かった…。内山にまじ感謝。)




