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旅立ち



 ベルナルドはクラウディアに恋をしている。

惹かれているから欲したのかもしれない。

惹かれているから、与えたいのだろう。

クラウディアにかけがいないものを。


「君が納得できない不純な動機だろうか……。君に恋をしているのは、変だろうか?」


 周りの反応にベルナルドは首を傾げた。

トマスはこれでもかと目を見開いている。


「まだ恋だと言う確証はないじゃないですかっ!! ほら、こう……レアなものを手に入れたい物質欲からくるものでしょう!? 彼女は稀な才能の持ち主ですし…………いくら可愛い容姿をしていても……十歳も年下の未成年ですよっ?」


 ベルナルドの執着は恋ではなく、物質欲からくるものだとトマスは説得した。

天才のクラウディアなら手に入れたくもなる。

それは恋なのではない。

「年齢は関係ないだろう?」とベルナルド。


「ありますよ、ありますよ!! 同い年の陛下とジェルと違い、ベルナルド様には悪い噂が流れますよ!!」


 トマスはそれを危惧した。

ベルナルドとクラウディアの婚約はあくまで保証と認識している。

双方の利益のための結婚はありふれている世界だ。十歳も離れている婚約者は不思議ではない。

しかし恋人となれば別だ。

勇者ベルナルドの性的趣向が疑われてしまう。


「ベルナルド様、私に性的魅力を感じますか?」


 クラウディアが歳に似合わない質問をするものだから、トマス達はギョッとした。

問われたベルナルドは、首を傾げる。


「正直言って感じない。……感じるべきだろうか?」

「いえ。それなら問題ないです。貴方は正常です」


 ベルナルドが幼い少女を好むと言うあらぬ誤解は解いた。

クラウディアに恋をしている。正常で不純ではない。

それならば問題ない。

トマス以外の傍観者は胸を撫で下ろした。


「ベルナルド様が、恋だと思うならそれでいいと思います」

「君は……納得できるのかい?」

「はい。ベルナルド様が私に恋をしてくださっていると言うなら、納得です」


 そばにいたいという願望は、恋の症状。

しかし難しい。

クラウディアは顎に手を添えてから俯き考えた。

想いが合わさってクラウディアに執着することはわかったが、そのせいで魔物討伐の旅が中断されるのはよろしくない。

だからと言ってクラウディアが首を縦に振る理由がないのだ。


「こうしませんか? 期限をつけましょう。一週間以内に私を説得できなければ、旅を再開してください。勇者様達の助けを必要としている方がいるのですから」


 互いに譲らないなら妥協案として期限をつけることを提案した。

ベルナルドは少し考えてみたが、一週間でクラウディアを説得させるのは難しいと思える。


「一ヶ月欲しい」

「長すぎます。一週間」

「いや、一ヶ月」

「では二週間」

「いや、五週間」

「三週間」

「三週間だ」

「……では三週間です」


 交渉により、一週間から三週間に延びて決定した。

大人しい雰囲気とは対称的で強情すぎる。

 クラウディアはベルナルドを観察した。

もしかしたらベルナルドは意図的に婚約に話を持っていったのかもしれない。

恋心を自覚していたのなら、外堀を埋めた可能性がある。

大嘘つきの策士か、或いはしたたかな天然か。

 クラウディアが見ていたベルナルドの言動と仕草を思い出して見たが、大嘘つきの策士である証拠はない。

だからベルナルドはしたたかな天然の方だ。

全ては無意識。本能的だった。


「早速、魔王の城に行き着くまで旅の話を聞いてくれるかい?」

「……喜んで」


 ベルナルドは柔らかい笑みを浮かべると、クラウディアの説得を始める。

その笑みは自分への想いによるものだと思うと、クラウディアも柔らかい表情になった。




 説得が始まって一週間経つ。

ベルナルドと同行した仲間から、沢山の話を聞いた。

 銀色の目を持つ様々な能力と容姿を持つ魔物達の戦い、そして記憶に残っている人々の話をクラウディアに聞かせた。

ベルナルドは宿とクラウディアの家を往き来して、毎日聞かせたのだ。

街の外に興味を抱かせるため。

 それは、成功していた。

クラウディアは興味を抱いた。

ベルナルドに会う度に、楽しいという感情が込み上げて足元が浮いているように軽くなる。

 だからクラウディアは困っていた。

ベルナルドに応えるつもりはなかったのだ。絶対に自分の意思は変わらないと信じていた。

意思を変えられるとは予想外。

今まで経験がなかったため、どうすればいいかクラウディアにはわからなかった。

素直に旅に行くと、言えなかったのだ。

 昨日はジェルベーラと遊んだ。

風の精霊に愛された彼女は、魔力を使わずとも風を操れた。風で身体を浮かせて、空中を泳いで笑い合ったのだ。

 勇者一行の中で一番仲がいいのは、ジェルベーラ。

打ち解けた彼女は同い年の友人のように明るく接してくる。

 昨日はジェルベーラに、人魚の話を聞いた。

上半身は人間に近く、下半身は魚の姿をした魅惑的で美しい容姿が、人肉を好む狂暴な魔物だそうだ。

見てみたい。クラウディアはそう思った。

 ベルナルドからは国の外の話までしてもらえた。

隣の国には妖精がいるそうだ。

最も普段は視認できず、体温が三十八度だと見えるらしい。普通は家のリビングや廊下に住み着く物らしく、普段は見えないからと住人達は気にしていないのだとか。

 隣の国は、魔法使いと呼ぶそうだ。主に薬草を使った魔術を使う。

昔から魔物被害が少ないため、精霊の力を借りる魔術をほとんど使ってこなかったせいだろうとベルナルドは言った。

そんな国の違いが、クラウディアにとって面白かった。

 ベルナルドは、異世界から現れた怪物との戦いを話もしてくれた。

隣の国では若者の度胸試しで、地獄へ行くことが定番化されているらしい。

魔物の出身とも言われている魔界だ。

その魔界から迷いこんだ怪物は、魔界者と呼んでいる。

魔界者は、獰猛で常に腹を空かせているかのような食欲であらゆる生き物を喰らう。魔物より凶暴だそうだ。

 ベルナルドが遭遇した魔界者は、五メートルの巨体で下から大きな二つの牙を付き出した一つ目の怪物。

なかなか手強かったそうだ。

 ベルナルド達の話は尽きないようだった。

いくら話しても足りないほど。三週間で話終えるか疑問だった。

 全てを見てみたい。

隣の国の妖精も、人魚も、魔界者も、話に聞いたもの全てをこの目で見てみたい。

 ベルナルドの元へ向かうクラウディアの足取りは、とても軽かった。

決断を変えることは苦手だ。

でもあと二週間ある。それまでもう一度考えて、意思が変わったことを伝える方法を考えてみよう。


「ちょっと、貴女!」


 ベルナルドが滞在する寮に向かおうとしていたクラウディアを、いつかの娘達が呼び止めた。

振り返ったクラウディアは、きょとんと首を傾げる。


「私ですか?」

「貴女よ、貴女! 来なさい!」


 クラウディアの腕を掴み、三人の娘達は連行した。

街外れの森の中。

人気がなく不気味な静寂がある森をクラウディアにが見回せば、仁王立ちする市長の娘が口火を切る。


「貴女! 勇者様と婚約とは一体どういうことなの!?」

「その話、一体誰から聞いたのですか?」


 クラウディアは首を傾げた。

クラウディアが旅に出ると答えを出してから、婚約が決まる。その前に婚約の件が部外者に知られるとは、一体誰が漏らしたのだろうか。

勇者一行も、クラウディアの家族も漏らさない。なら盗み聞きでもしたのだろう。


「一体どんな悪どい手段で、無理矢理勇者様と婚約したのよ!?」

「無理矢理? 何を勘違いしているかはわかりませんが、婚約を提案したのは勇者様の方です」


 外堀を埋められて婚約まで話を持っていかれたのはクラウディアの方だ。

ベルナルドが婚約の話を持ち込んだわけで、クラウディアが目論んだわけではない。


「なにをぬけぬけと!! 貴女みたいな奇人な小娘と、勇者様が婚約するはずないでしょ!!」

「そうよそうよ! 若ければいいってものではないのよ!」

「勇者様の人がいいからって、それに漬け込んだのでしょう!?」


 声を上げる娘達の話がイマイチ理解できないクラウディアは困った顔をする。

どんな勘違いをしているのだろうか。

 確かこの娘達は、ベルナルドの目に留まろうと着飾っていた。

ああなるほど、嫉妬か。

クラウディアは納得した。

ベルナルドと婚約したクラウディアに嫉妬しているのだ。

見抜けたクラウディアは笑みを浮かべた。場違いな笑みだ。


「ベルナルド様は、私の才能を買ってくださったのです」


 ベルナルドが自分に好意を抱いてくれている。

それを話すことは止めておいた。悪い方に捉えられてベルナルドの評判が悪くなる噂を広められては、クラウディアも気分が悪い。

嬉しいからこそ話したかったが、堪えた。


「なにが才能よ! 貴女なんてただの奇人よ、変人よ! ひねくれた哀れな娘よ!!」

「妾の子なんて、なんて汚らわしい!」

「そうよそうよ! 勇者様に近付いていい身分だと思っているの!?」


 小さな少女に寄ってたかって、醜く蔑み貶す娘達。

嫉妬による暴言だと、クラウディアは受け流す。


「ベルナルド様は、私を選んでくださったのです。私に八つ当たりせず、ベルナルド様にアプローチをする努力をなさってみてはいかがでしょうか。最も以前言ったように、ベルナルド様の記憶に残るのも難しいかもしれませんね」


 またもや悪気なく無邪気な笑みで、クラウディアは言った。

 痛くも痒くないと言わんばかりの笑みに見える。

見下して蔑む発言にしか聞こえない。

市長の娘の中で、憎しみが膨れ上がった。


「それより、ここは魔物が出るので」


 森は危険だから街に戻るべきだと提案しようとしたクラウディアは言葉を止める。


  パンッ!!


静寂な森に響いた破裂音。

市長の娘に頬を叩かれたクラウディアは、衝撃で膝をついて地面に座り込んだ。

同時に魔力を押さえ込んでいた枷が外れ、彼女の魔力が露になる。しかし魔力を感じ取れない娘達にはわからない。




「――――――…クラウディア?」


 宿でクラウディアを待っていたベルナルドは、彼女の魔力に気付いて振り返る。

可笑しい。クラウディアの魔力が森に在る。

森で魔力を出していては、魔物を誘き出す餌同然だ。





 クラウディアは生まれて初めて、叩かれた。

家族に遠慮して、あまり会ってくれない実の母親でさえ、その手で優しく頭を撫でてくれる。

家族は皆、誰一人としてクラウディアに手を上げたことがない。

 熱いものを当てられているようにヒリヒリする頬に指だけ当てて、クラウディアは放心する。

初めてで、ショックが隠せない。


「汚ならしい貴女は、誰にも愛されないわよっ!! 歪な貴女なんかっ、彼に愛されるわけないでしょ!!」


 まるで森中に響くかのような怒声が、クラウディアに突き刺さった。

何故彼女はここまで自分に怒りをぶつけてくるのだろうか。

何故彼女はこんなにも憎しみをぶつけてくるのだろうか。

何故彼女は手を上げたのだろうか。

 人に怒鳴ったことも手を上げたこともないクラウディアには、何もわからなかった。

怒鳴りたいと思ったこともない。殴りたいとも思ったことがない。

クラウディアには理解できなかった。

ただ悲しくて胸が痛くて、何も言えずその場から動けずにいる。

生まれて初めてぶつけられたものを、対処する方法をクラウディアは知らなかった。

 そこに轟く猛獣のような咆哮。

クラウディア以外が街の反対側を見る。

ドシンドシンと地面を揺らす足音が近付いてきていた。


「ウソッそんなっ」

「魔物よっ!」

「いやああ! 勇者様!」


 銀色の目を持つサイに似た魔物が、木々を払い除けてこちらに向かってくる。

震え上がる娘達は逃げ出す。

座り込んだ小さな少女のことなど、置き去りにして悲鳴を上げて勇者に助けを乞う。

 クラウディアは、動けなかった。

魔物が真っ直ぐに突進してくるにも関わらず、指一本動けずに俯いている。

魔物は容赦なく向かってきた。

 クラウディアに駆け寄る者がもう一人。

娘達を横切り、魔物よりも先にクラウディアの元へ行くと飛び込んだ。

クラウディアを抱き締めて地面に転がる。次の瞬間、魔物が通り過ぎた。

間一髪だった。


「クラウディア! クラウディア!!」


 受け身を取りクラウディアを守ったベルナルドは、すぐにクラウディアを見る。


「ベルナルド様……」

「クラウディア……」


 小さな唇から溢された声は、あまりにも弱々しい。

クラウディアの顔は青ざめていたが、左頬は赤く腫れていた。

何をされたのか、予想がつく。

ベルナルドは顔を歪ませた。

 魔物は休む暇など与えてはくれない。

再び魔力が強いクラウディアを狙って、ベルナルド達に向かってきた。


「――――…地の神よ、我に炎を与えたまえ!」


 右手を地面に付き、振り返りギロリと睨み付けて唱えた。

地の神は、大地の精霊。

魔物の足元が割れた。そこから炎の柱が沸き上がる。

魔物は炎を浴びたが、それでもベルナルドの元へ突進した。

 ベルナルドは立ち上がり、剣を構える。陣で炎を操り刃に纏わせ、それを魔物に向かって振り落とした。

刃は届かない。

だが纏った炎が伸びて、魔物を真っ二つに切った。

途端に火力が爆発的に上がり、魔物は黒い灰になり消える。


「勇者様! なんて心強いっ、とても、とても、怖かったです!」


 市長の娘達が安全になり、ベルナルドの元へ駆け寄ろうとした。


「この俺に近付くな!」

「えっ!?」

 魔物と同様に睨みベルナルドは拒絶をする。娘達はわけがわからないと困惑した。


「汚らわしいだと? 歪だと? 貴様達が歪で醜いことがわからないのか!!」


 クラウディアに放たれた最後の言葉は、ベルナルドの耳に届いていた。

ベルナルドの怒号に、娘達は青ざめ震え上がる。


「貴様達にはわからない! だからこそ貴様達には微塵も惹かれない! 二度クラウディアに近付くな! 身勝手な嫉妬で他人を傷付けていないで、自分の醜さをどうにかしろっ!!!」

「ひぃっ」


 クラウディアを傷付けられた怒りで剣を振り回したくなる衝動にかられたが、ベルナルドは堪えて追い払う。

娘達はベルナルドの威圧に堪えきれず、魔物の時よりも青ざめて逃げ出した。


「クラウディア、魔力を抑えるんだ。また魔物が来てしまう」


 ベルナルドは膝をついて、先程とは全く違う優しく静かな声をかけて、クラウディアの頬を両手で包んだ。


「ベルナルド、さまっ……」


 クラウディアは顔を歪ませて、大粒の涙を溢し始める。

ベルナルドが拭っても拭っても、涙は溢れて止まらない。


「クラウディア。この街には君を見てくれない人間が多すぎる」


 ベルナルドは、クラウディアを抱き締めた。

あやすように頭を撫でて、小さな身体を腕の中に閉じ込める。


「君は家族に愛されて、そして守られてきた。そのままではきっとだめなんだ、クラウディア。君の才能は時には人の怒りを買うものだが、それは君がまだ未熟だからだ。真実をつつかれて逆上する者は少なくない。だから、君は学ばなければならない」


 ずば抜けて優れた洞察力。足りないのは、感情面の推察。

どんな言葉が相手を傷付けて怒りを買うか、クラウディアにはまだわかっていない。

学ぶべきだ。学ぶべきなのだ。


「街の外には、あらゆる人々がいる。君を受け入れない人達が多いかもしれない、彼女のように手を上げる者かもしれない、そう考えると怖くなってしまうだろう。でも君には無条件で愛し守ってくれる家族がいる。辛くなって耐えられなくなってしまったなら、どんな時でもそこに帰すことを約束しよう」


 いつでもどんな時でも、家族の元へ返す。それを約束する。


「自己愛が強く醜い者達だけではない、あたたかく愉快な人達もいる。たくさんの人達と関わって学ぼう。傷付いて泣いてしまったならば、こうやって俺が抱き締める。いつもそばで君を見守る。だからクラウディア、一緒に旅に行こう」


 あらゆる人々と関わって無傷では済まない。だが手を上げさせることだけは、もう二度とさせない。

ベルナルドは抱き締めて、願うように問う。


「ともに行こう、クラウディア」


 静かな声で、もう一度誘う。

泣きじゃくり抱き締められているクラウディアは、一言しか答えられなかった。


「――――はい」


 それだけで十分だ。

ベルナルドは泣き止むまで抱き締め続けた。

いくつもの魔物が来たが、クラウディアを放すことなく一蹴した。






「先日はお見苦しい姿をお見せして申し訳ありません」


 クラウディアが評価するお店のカウンターに座り、クラウディアはベルナルドに謝罪した。

赤子のように泣いたことを恥じて頬を赤らめている。


「見苦しくない、とても可愛らしかった」

「お世辞はお止めください」


 お勧めのステーキを目の前にしたベルナルドは、クラウディアを向いて無表情のまま言う。

恥じらうクラウディアは俯いた。

お世辞ではなく、本当に可愛らしいと思っているベルナルドは微笑む。

フォークとナイフを置いて、ベルナルドはクラウディアを向く。

紅茶を堪能していたクラウディアは、カップを置いて見上げた。


「共に行くを承諾してくれてありがとう、クラウディア」

「……ベルナルド様達の説得が上手かったからですわ」


 感謝を伝えるベルナルドに、クラウディアは微笑み返す。


「ベルナルド様のおそばで学ばせていただくチャンスをいただき、誠にありがとうございます。ベルナルド様と共に、価値在るものを旅の中で見付けます」

「ああ、一緒に見付けよう。約束通り、君を守り抜く」


 クラウディアが感謝を伝えるべきだ。

慎ましく感謝を伝えたクラウディアの頭を優しく撫でた。

クラウディアは照れて頬を赤らめて、愛らしい無邪気な笑みを溢す。

それを見てベルナルドの胸の中にいとおしさが溢れた。


「勇者一行におともするのですから、魔物や魔王討伐にもお役に立たなければなりませんねっ! 頑張ります」

「……クラウディアは、魔王は何処にいると思う?」


 照れて話題を変えたクラウディアを見つめながら、ベルナルドはカウンターに頬杖をついた。

魔王の居場所を推測するクラウディアは顎に手を当てる。

まるでナゾナゾを解くように、楽しげに床についていない足を振った。


「そうですね、私が魔王ならばと考えると先ず隠れます。人間に目の敵にされていますしね、魔物を統一する能力を持たない或いは人間を滅ぼすつもりがない場合は、絶対に見付からない場所へと隠れます。人の姿になれるのならば、人間達の中に紛れて息を潜めるでしょう。絶対に疑われないのは魔王を捜す勇者一行に紛れることですね! 例えばベルナルド様ならば、確実に疑われないでしょう。出生は謎、焼け落ちた孤児院ならば証拠はありません。魔物に壊滅された孤児院を都合よく自分の出身に仕立てあげることが可能、そして魔王を倒す勇者と成る…………ああ、同じ孤児院出身で書類のあるジェル様が顔見知りでないことが疑いを向けられる点になりえますね。でもジェル様は気になさらない方ですから、魔王が勇者に成るのは簡単で可能です。魔王が城にいないのも当然ですね、だって捜索している一行のリーダーが魔王なのですから。誰も勇者が魔王だと予測もしませんし、疑いもしません。魔王の絶好の隠れ場所は勇者」


 ベラベラと雄弁にクラウディアは、自分の面白い推測を語る。

魔王が存在して人間達から身を守って隠れていると仮定するならば、絶好の隠れ場所は勇者。


「ふふっ、そうだったらベルナルド様は冷徹な大嘘つきですね」


 デタラメが可笑しくて楽しいクラウディアは子どもらしく無邪気に笑う。

 面白可笑しく繋ぎあわせれば、ベルナルドが魔王だと行き着く。

誰も疑わない。焼け落ちた孤児院の唯一の生存者が、魔術の天才で勇者になり、魔王討伐の旅に出たベルナルドが、魔王だなんて誰も思わない。

 そんな発想を出すのは、この国ではただ一人。クラウディアだけだろう。

クラウディアはただ、魔王が絶対に見付からない場所を推測しただけ。

 魔王だなんて言われれば、誰でも怒るだろう。

しかしやはりベルナルドは、クラウディアの言葉で不快にならなかった。


「――――…本当に……君は賢い子だ」


 ベルナルドは、微笑んだ。

クラウディアはきょとんとする。その笑みに違和感を覚えたからだ。

先程とは違う。恋する婚約者をいとおしく想う笑みではない。

満足げで、目論み通りといった風のほくそえんだ顔だ。

そう。それはまるで――――クラウディアの推測を肯定するような笑みだった。

 頭のいいクラウディアは理解して目を見開く。

どこからどこまで正解かはわからないが、的中してしまった。

 ベルナルドのオッドアイが、一瞬だけ銀色の光を帯びた。


「まっ……まおっ――」

「さぁ、クラウディア。旅に行こう、自分探しの旅へ」


 ベルナルドはカウンターにお金を置くと、クラウディアを椅子から下ろして手を引く。

あまりのことにクラウディアは目を瞬かせて混乱する。

 魔王(自分)探しの旅。

なんとも自虐的なジョークだ。

冷徹な大嘘つき。


「……はい、ベルナルド様」


 それでもクラウディアは、悲鳴を上げることも踏み留まることもせずに、ベルナルドに微笑みを向けて隣を歩いた。

 ベルナルドは周りを欺き魔王を倒すと嘯く勇者だ。

しかし全てが嘘ではない。

クラウディアは確信していた。

ベルナルドが旅をする理由は、嘘ではない。偽りなどない真実だ。

"自分探しの旅"は皮肉でもあったが、ベルナルドは捜している。

自分の価値在るものを。

魔物を退治しているならば、クラウディアの推測通り魔王と呼ばれる者に、魔物の統率力もなければ人間を滅ぼす企みも持っていない。

自分を守る嘘が得意な天才だ。

 しかしクラウディアも嘘を見抜く天才。

ベルナルドが口にした言葉は、全てが真実だった。

一言も自分が魔王ではないと口にしていないからこそ、クラウディアは見抜けなかっただけのこと。

魔物から人を助けながら自分を探していると打ち明けたことも、クラウディアに惹かれていることは、紛れもない事実。

だからクラウディアは、共に歩む。

 ベルナルドはそれに安堵をして、嬉しそうな微笑みを溢して、自分探しの旅をクラウディアと共に再開した。







お粗末様でした!


続編は思い付いて機会があれば、書きたいと思います!

気に入っていただけたら幸いです!


ここまで読んでくださりありがとうございました!(*´∇`*)

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