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全属性の魔女。  作者: 月城羽蘭
プロローグ
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2/2

夜は西風に恋をする。


 双子の姉を持つ少女がいた。

彼女はごく普通の少女として生まれ、ごく普通の人生を歩むはずだった。


 けれど―—。


「運がなかったらしい」


 少女は、満天の星空に囲まれていた。

 ちかちかと瞬く無数の星々。

 その夜空を見上げながら、彼女は手首を額に乗せ、ぼんやりとした表情で仰向けに横たわっていた。


 なんとも奇妙な状況である。


 泥まみれになった制服には、ところどころに皺が寄っている。少女が身に付けるには、あまりにも惨めな姿だった。


 一体、何があったのだろうか。

 事の始まりは、いつだったか。


 そうだ。あの日から―—



 *   *   *




 昔々、貴族社会であった日本に、大手企業である「夜西財閥」が存在していました。

 その社長には三人の娘がおりました。

 ——まぁ、一人は養子だけど。


 ......双子の姉たちは、養子である少女の手を引いて遊び、少女もまた、二人の後ろをついて歩いていました。

 誕生日には三人でケーキを食べ、休日には一緒に出かけたりもしていました。

 養子である少女にとって、双子の姉たちは憧れの存在でした。

 本当に、三人の令嬢たちは本当に仲が良かったのでありました。


 そう、表向きは―—




 「お嬢様、そろそろお支度のお時間です。早く起きてください」


 不躾なメイドの声に、私はゆっくりと瞼を開けた。


 「......分かったわ」


 短く返事をして、身体を起こす。


 ここは夜西家の屋敷。日本でも有数の大企業、夜西財閥の社長が暮らす邸宅である。


 そして私は、その家の三女。もっとも、血のつながりはない。

 養子としてこの家に迎えられた私は、双子の姉たちと共に育った。


 昔は仲が良かった。本当に、昔は。


 「お嬢様、早くしてください。お姉さま方をお待たせしてしまいます」

 「......分かったわ。今支度する」


 急かすような声に、私はベッドから降りた。

 

 朝から随分とせっかちなことで。こちらの都合などお構いないらしい。

 もちろん、そんなことを口にするつもりはない。

 私は夜西家の令嬢なのだから。


 今日も、いつもと変わらない一日が始まる。

 もっとも、私にとっては少しも愉快ではない一日なのだけれど。


   *



 朝食の席には、すでに二人の姉が座っていた。


 「あら、蘭。随分と遅かったのね」

 「ごめんなさい、お姉さま」

 「養子なんだから、せめて時間くらい守ってちょうだい?」

 

 二人は顔を見合わせてクスクスと笑った。

 私は何も言わず、静かに席へ着く。


 (朝からよく喋ること。そんなに暇なら、少しはその性格を見直したらどうなのかしら)


 もちろん、声には出さない。


 こうした日々が始まってから、もう何年になるだろう。

 家では姉達に嫌味を言われ、学校では二人の友人たちから避けられる。


 姉たちは周囲の前では優しい姉を演じていた。

 私が何を言っても、誰も信じてはくれない。


 両親に相談したこともある。

 けれど、返ってくるのは決まって同じ言葉だった。


 「姉妹なんだから、仲良くしなさい」


 その一言で、全てが終わる。

 そんな生活を続けるうちに、私はいつしか誰かに期待することをやめていた。




 そしてあの日。

 最後まで信じていた姉達に、私は裏切られた。

 昔のように笑い合える日が来るかもしれない。

 そんな淡い期待さえ、もう残っていなかった。

 

 誰も味方ではない。誰も私を見ていない。


 もう、疲れてしまった。




   *   *   *




 少女は、満天の星空に囲まれていた。


 ちかちかと瞬く無数の星々。その夜空を見上げながら、彼女は手首を額に乗せ、ぼんやりとした表情で仰向けに横たわっていた。


 泥まみれになった制服はひどく汚れ、ところどころに皺が寄っている。


 「運がなかったらしい」


 少女はぽつりと呟いた。涙一つ流さずに。


 彼女の名は、夜西蘭。

 これは、彼女の一度目の人生の終わりだった。




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