夜は西風に恋をする。
双子の姉を持つ少女がいた。
彼女はごく普通の少女として生まれ、ごく普通の人生を歩むはずだった。
けれど―—。
「運がなかったらしい」
少女は、満天の星空に囲まれていた。
ちかちかと瞬く無数の星々。
その夜空を見上げながら、彼女は手首を額に乗せ、ぼんやりとした表情で仰向けに横たわっていた。
なんとも奇妙な状況である。
泥まみれになった制服には、ところどころに皺が寄っている。少女が身に付けるには、あまりにも惨めな姿だった。
一体、何があったのだろうか。
事の始まりは、いつだったか。
そうだ。あの日から―—
* * *
昔々、貴族社会であった日本に、大手企業である「夜西財閥」が存在していました。
その社長には三人の娘がおりました。
——まぁ、一人は養子だけど。
......双子の姉たちは、養子である少女の手を引いて遊び、少女もまた、二人の後ろをついて歩いていました。
誕生日には三人でケーキを食べ、休日には一緒に出かけたりもしていました。
養子である少女にとって、双子の姉たちは憧れの存在でした。
本当に、三人の令嬢たちは本当に仲が良かったのでありました。
そう、表向きは―—
「お嬢様、そろそろお支度のお時間です。早く起きてください」
不躾なメイドの声に、私はゆっくりと瞼を開けた。
「......分かったわ」
短く返事をして、身体を起こす。
ここは夜西家の屋敷。日本でも有数の大企業、夜西財閥の社長が暮らす邸宅である。
そして私は、その家の三女。もっとも、血のつながりはない。
養子としてこの家に迎えられた私は、双子の姉たちと共に育った。
昔は仲が良かった。本当に、昔は。
「お嬢様、早くしてください。お姉さま方をお待たせしてしまいます」
「......分かったわ。今支度する」
急かすような声に、私はベッドから降りた。
朝から随分とせっかちなことで。こちらの都合などお構いないらしい。
もちろん、そんなことを口にするつもりはない。
私は夜西家の令嬢なのだから。
今日も、いつもと変わらない一日が始まる。
もっとも、私にとっては少しも愉快ではない一日なのだけれど。
*
朝食の席には、すでに二人の姉が座っていた。
「あら、蘭。随分と遅かったのね」
「ごめんなさい、お姉さま」
「養子なんだから、せめて時間くらい守ってちょうだい?」
二人は顔を見合わせてクスクスと笑った。
私は何も言わず、静かに席へ着く。
(朝からよく喋ること。そんなに暇なら、少しはその性格を見直したらどうなのかしら)
もちろん、声には出さない。
こうした日々が始まってから、もう何年になるだろう。
家では姉達に嫌味を言われ、学校では二人の友人たちから避けられる。
姉たちは周囲の前では優しい姉を演じていた。
私が何を言っても、誰も信じてはくれない。
両親に相談したこともある。
けれど、返ってくるのは決まって同じ言葉だった。
「姉妹なんだから、仲良くしなさい」
その一言で、全てが終わる。
そんな生活を続けるうちに、私はいつしか誰かに期待することをやめていた。
そしてあの日。
最後まで信じていた姉達に、私は裏切られた。
昔のように笑い合える日が来るかもしれない。
そんな淡い期待さえ、もう残っていなかった。
誰も味方ではない。誰も私を見ていない。
もう、疲れてしまった。
* * *
少女は、満天の星空に囲まれていた。
ちかちかと瞬く無数の星々。その夜空を見上げながら、彼女は手首を額に乗せ、ぼんやりとした表情で仰向けに横たわっていた。
泥まみれになった制服はひどく汚れ、ところどころに皺が寄っている。
「運がなかったらしい」
少女はぽつりと呟いた。涙一つ流さずに。
彼女の名は、夜西蘭。
これは、彼女の一度目の人生の終わりだった。




