航(こう)
サッカーに関わっていたくて、トレーナーの道を選んだけど、その道さえもスポーツ好きの大渋滞。
好きなことを職業にするって、現実は厳しいよね。
俺たちの高校は、プロチームの練習場が近くにあったので、登録上高校のサッカー部には入れないユースメンバーが何人かいましてね。授業が終わると練習場に直行してました。
サッカー部には入れないので、サッカー部自体は強くなかった。俺はそれでも、サッカーができれば良かった。顧問の先生も指導はしてくれるけど、「全国大会を目指して優勝する」とか具体的な目標は掲げてなかったかな。
そんな中、面白いヤツがいてね。
まぁ、みなさんご存知の「律」って奴ですけどね。
あいつ、人生、サッカーに全振りなんですよ、高校の頃から。
「勉強したくないから、サッカーに逃げてる」じゃなくて「サッカー、好きすぎて他のことが入ってこない」タイプ。
「テスト勉強しようぜ」ってマックに言っても「やっぱ、俺は、あの時、1度落としてから作り直すべきだった」とか始まっちゃって。熱いって言うんじゃないんですよ。「好き」が他を勝る時。試合で負けた時は特に。怒りとか、悔しさとはちょっと違う。「好き」を好きな形にするにはどうしたら良かったのかを考えてしまう。俺は、そこがちょっと自分に似ているっていうか「好き」と「向上心」がいい具合。一緒にサッカーやってて気持ちいいヤツ。
律が好きなサッカーの形を頭の中で作る時、必ずいたのが、りんだったんです。クラブユースにいたので、部活には怪我のリハビリの時に参加しただけだったけど、昼休みのサッカーに参加してたんです。
あれは、すごかった。
律のやりたいサッカーを現実にしてくれるんですよ。
欲しいところにボールを出してくれるし、出したいところに走ってくれる。
昼休みのサッカーのレベルじゃない。
俺たちのプレイを生かしてくれるから、やってて楽しくて仕方ない。
部活で再現しようとしても、うまくいかないんですよ。
俺たちは、あのサッカーの楽しさを知ってしまったので、部活でも追いかけてしまう。律はずっとそうだったんだよね。
「律、りんはいないよ」
俺がそう言うと、ハッとして大きく息を吐く。
「ごめん。勝手にイメージがどんどん湧いてきちゃってw」
わかるよ、律。みんなそうだ。
りんがいたら、そこにボールが出せるんだよ。
でも、俺たちは部活を楽しくないとは思わなかった。そこは、俺たちがサッカーを楽しむ場でしたから。大会にも参加してましたしね。りんのアドバスでそれも楽しめたんだけど、それはまた後で話すことにして。
あの忘れられないサッカーは卒業してからも探していたけど、みつからなかった。楽しかった時間だったけどね。喪失感も大きかった。
そして、
あの日のことは忘れない。
律から「りんが交通事故に遭った。即死らしい」と電話があった。
もう2度とあのサッカーができない。
電話の向こうで号泣する律。
スマホを握りしめ、俺も涙が止まらなかった。
今回、律からもらった話。やばいって思った。俺たち、40歳過ぎても忘れられないサッカーがあるんだよね。
それ、もう一人の鈴とやるなんてさ。やばいよ。やるに決まってるじゃん。
あの日、律からかかってきた電話に俺たちは、喪失感で何も手がつかなくなった。葬式で小さな子を抱いて呆然としていた彼女が「一緒にサッカーをしよう」と誘ってくれている。
もう、あの頃のようなサッカーはできないだろう。
でもさ「りん」とサッカーをするってだけで、ワクワクするんだよ。
不思議だよな。
俺たち、あの日サッカーを失ったような気がしてたのに。
「律、りんはいないよ」
でも、俺はやるよ。
サッカーに関わる仕事ってなんだよ。
俺はサッカーやりたいんだよ。
明日に続く




