鈴
サッカーは、足でボールを蹴る。
蹴る時に片足で立つ瞬間があり、体幹が大事になる。
でも、
でも、ボール1個を地面に転がせば、サッカーは始められる。
ルールをプレイヤーに合わせて作ることで、多くのカテゴリーで、パラプレイヤーがサッカーをしている。
初めて、生でブラインドサッカーを見たのは、日本代表vsブラジル代表の試合だった。
「研ぎ澄まされる」
人の感覚は、自身が持っているものの何を使うか、必要とするかで、こんなにも美しく磨かれるものなのだと知った。
ボールの音。ボールの中にある鈴の音。
サイドフェンスをバウンドする音。
位置を知らせるDF。
ゴール裏からビジョンを届けるガイド。
声を出さずに観戦するサポーター。
逆に「見えてはいけない」ためのゴーグル。
正確にボールの場所を感じ取り、ゴールに繋ぐ。
ルールによってその美しいプレイは成り立つ。
止める、蹴る。
パス、ドリブル、シュート。
ボールを運ぶドリブルの美しさ。今の私には敵わない。
鍛え方で人はこんなことができるのだ。
ハンデという人もいる。
でも、私はそうは思わなかった。
誰にだって、できることとできないことがある。
ただ、その「違い」に合わせてサッカーをしている。
それでも、こんなにサッカーを好きで、上手くなりたいんだ。
そして、やりたいと言う気持ちがあれば、ボールがあれば、サッカーはできる。
だから、まだ、「おばさんがサッカーをすることを笑う国」でも、私はサッカーをやりたい。諦めない。まだ、自分の持っているものを「研ぎ澄ます」ことはできると信じたい。
何よりもまだ、楽しみたいんだ。
サッカーには、いろんな「サッカーを続ける場所」がある。
・・・とはいえ、
サッカーはチームスポーツだ。
チームとしてサッカーを楽しむために、パラスポーツにカテゴリーがあり、代表クラスを育てるための育成カテゴリーもあるけど、経験や年齢でもカテゴリーは存在する。
「鈴、こんなんあるけど参加してみる?」
律にタブレットの画面を見せられた。
O40の大会だった。
「俺も参加しようと思ってる」
へ?律も参加するの?
「なんだよ。俺だってまだ、プレイヤーだぜ?」
ゲームプレイヤーでしょ?
「俺だって、『膝を壊して断念』だったら控えるけどさ。ぐずぐずしてんだよーこの辺りが・・・」
と、胸の辺りを押さえて、カッコつけて言ってるけど、ぐずぐずじゃなくて、うずうずでしょ。
「どっちだっていいんだよ!お前見てたらサッカーしたくなったんだよ!
やらせろー!サッカーしてぇー!」
子どもか・・・
ってな流れで、大会に参加することになったわけで。
集まって練習して、練習試合して、修正して。
その辺りのスケジュールは、律に任せるとして。
でも、参加するにはチームを作らなくちゃいけないんだよね。
私と律。
最低あと9人。年齢を考えると・・・あと13人は欲しい。
あと、ゴールキーパーができる人が必要だ。
人を集めなきゃ。
サッカー教室にはシニアクラスが10人いる。
とりあえず、参加希望の意思を聞いてみよう。
さて、あとはどこから人を探そうか・・・
「蒼?久しぶり。相談があるんだけど」
「わぁ!りん!久しぶりー!どうしたんですか?ロングキックの蹴り方ですか?!」
うるさいわ・・・それも相談したいけどね。
「実はさ、40歳以上のサッカー経験者を探してるのよ」
「40歳以上をかぁ・・・澤さんとか?」
「え!澤さん知ってるの?!」
「日本中が知ってるよー」
・・・そーゆーことじゃないんだわ・・・
「40歳以上のチームを作るので、チームに入ってくれそうな人を探してるってこと!特にゴールキーパー探してるのよ」
「そーゆーことかー。知ってるよ。そんなに背は高くないけど」
「また、山郷さんとかいうんじゃないでしょうね」
「誰その人?」
「・・・時代が違ったか・・・で、誰?」
「うちのパパ」
「へ?パパ?」
蒼のパパは大学までサッカーをやっていて、ポジションはゴールキーパー。サッカー特待でもなく、ただ好きだから、難関大学の体育会系サッカー部に入部、蒼の祖父の会社に入るとともにサッカーから離れたらしい。
チームに入ってくれるなら心強い。が、
「蒼のパパ、入ってくれるかな?」
「喜んでやるんじゃないかな。私のサッカー見ていつも『いいなー』って、いつも言ってたもの。鈴とサッカーできるなら、喜んでやるよー」
「私とサッカー?」
「うん。私の試合見にきてる時、ほら、パパって瑠さんのファンだから、私が入る前から鈴さんも見てて。『面白いなー鈴』って言ってた」
呼び捨てかい。ま、いいや。距離が縮まった。
「じゃ、アポ取ってもらっていい?」
「めんどいから、スマホの番号教える」
「え?知らない番号からかかってきたら出ないでしょ」
「私が鈴の番号をLINEしとく」
「助かるわ」
どうなん?今時の子って、こんな感じ?w
そんなこんなで、パパから直電が来た。
いやいや、蒼、どんな繋ぎ方してんのよ。順番が違うだろー。
「蒼がいつもお世話になっております。蒼の父です」
まともだ。蒼からは想像できない。まともなパパだ。
「こちらこそ。お世話してます」
あー!違う!私がまともじゃない人みたいだ。
「あはは。お世話してもらってます。蒼から話を聞きました。いてもたってもいられなくて、こちらから電話しちゃいました。今、大丈夫ですか?」
あ、ちょっと蒼の父らしくなってきた。
「大丈夫です。すいません。お忙しいのに」
「いえいえ。練習はいつからですか?スケジュールを送っていただきたくお電話させていただきました」
「え?参加・・・でよろしいんでしょうか?」
「もちろんです。私もしばらく観る側でしたけど、久しぶりにワクワクしてますよ。蒼から話を聞いてから走ってます。」
「ありがたいです!」
それから、うちの社に私の大学時代のチームメイトがいます。FWとDF。2人、入れてもらえますか?」
「うわぁ!嬉しいです!スケジュール、送りますので、よろしくお願いします」
「楽しみだなー鈴と・・あ、鈴さんとサッカーできるの!いや、以前から瑠を見に行ってたんですけど、途中から鈴が気になってw・・あ!」
「いいですよ。鈴でw」
「では!よろしく。鈴!」
距離の詰め方が、蒼だ。
でも!ゴールキーパーが決まった!それも経験者が3人!
早く練習を始めたい!




