第40話 決して儲からないが弟子が何とかしてくれる
アルゾス共和国の転送魔法で王都バーネル近くの丘に着いた俺は、どこに寄るでもなく自分の店に戻った。
……そこまでは良かったのだが。
「何? 本人確認の手続きが必要? 俺の店なのにか?」
「ここがアクセルさんのお店なのは理解していますが、長らく放置していたので安全の為に必要なことでして。ですので、王宮街区へご同行願います」
――という感じで、悪いことをしたかのような印象で警備兵が俺を待ち構えていたうえ、両脇を固められ王宮街区にある騎士団の詰め所まで連れて来られた。
「ここでお待ちを。これより先は騎士が案内することになっております」
「あぁ、何でもいい」
騎士が連れ添うということは王国にでも連行されるのか?
「レンタル道具屋アクセル・リオットをお連れしました!」
「ご苦労」
「……は」
そう言って警備兵たちは俺から離れ、人民街区へ戻っていく。
王都の警備兵は普段は人民街区にしかいないからな。王宮街区の騎士相手に頼まれて俺を連れてきたわけか。
「で、俺はどこへ行けばいいんだ?」
「…………ここで待て」
「国王に謁見するとかって話じゃないのか?」
「……待て」
騎士に話しかけるも、待てとしか言わず要領を得ない。つまり、この騎士も誰かに頼まれて俺をここに呼んだということになる。
その誰かが近くにいないのはおかしいと思うが。だが俺をここに呼ぶ相手には心当たりがある。
「アクセルさん~! お帰りなさい!」
……やはりな。
「そうだと思ったがミレイか」
「ごめんね、驚かせちゃって。気を悪くした?」
「いや。騎士団の詰め所って時点でそんな気はしてたからな」
俺の予想通り、警備兵を寄越してきたのは傭兵のミレイだった。普段は気さくに声をかけてきたり店に来てたりしていたが、店が閉じてる状態だとそうもいかなかったからこその呼び出しといったところだろう。
「手荒な真似はするなって伝えてたんだけど、何もされてないよね?」
言いながらミレイが俺の腕に触れてくる。ここまで積極的ではなかったと思うが、今日は機嫌がいいってことだな。
「へ、平気だ」
「でも、アクセルさんなら何が来ても平気だよね、きっと」
「大概のことはな」
ミレイとは道中に盗賊関係やら何やらで行動を共にしていた。だが、彼女の場合は任務が優先。アルゾスに行っていた俺と違い、王都に戻ってはどこかに出て行く方が多いだけに、こうして王都で話をするのもある意味貴重な時間と言える。
「そういえば、アクセルさんってあのお店を再開するんだよね?」
「まぁな」
「あ、鍵をお返ししま~す」
長らく預けていた店の鍵を返された。
「時々は掃除とかしてたんだけど、私も任務で忙しくて……だから結局開ける暇もなかったんだよね」
ミレイには一応店の鍵を預けていたが、任務がある彼女には厳しかったようだ。
「気にするな。で、店を開けてもいいんだよな?」
「うんと、えっと……お店がある場所って外れだと思うんだけど、王宮街区でやってみる気はあるかなぁ?」
「そんな余裕はない。王宮街区で店なんかやるのにどれだけの予算が必要が分からんからな」
「だ、だよねぇ」
ミレイの口ぶりだけで判断すると、おそらく国王には俺の功績みたいなものが伝わっている。勲章か何かが貰える可能性があるが、そんなことより商売を繁盛させることが優先だ。
「王から貰えるのは勲章だろ?」
「え? あ。うん。国王はアクセルさんを英雄扱いにして、騎士団御用達のお店として与えるつもりがあるみたい」
やはりな。
「勲章よりも資金が欲しいんだが……。流石にそれは無理なんだろ?」
「う、うん。英雄であっても、個人にお金を与えるのは難しいみたい」
「だろうな」
お金の代わりに王宮街区に店を新たに用意して、常に目を光らせながら俺をいいように扱うつもりがあるってことくらいか。
「ま、鍵を返してもらったし、また地道にレンタル道具屋を再開していくさ」
「……時間がある時にお手伝いに行ってもいい? もちろん、私の部下も」
「大歓迎だ! ミレイのような女性に使われるなら、道具も本来の力を発揮するだろうしな」
「アクセルさんにそんな嬉しすぎることを言われたらどうすればいいの?」
特別なことを言ったつもりはないのに、ミレイは俺の言葉に頬を染めて恥ずかしそうにしている。
「今まで通り、気兼ねなく店に来てくれ」
「は~い! これから凄く大変だと思うけど、アクセルさんならきっと何とかするよね。私もその中に時々でいいから入れてね! じゃあね、アクセルさん」
「うん? またな、ミレイ!」
大変な中に入れてくれという意味か?
その意味までは訊けなかったが、何はともあれようやく王都に戻って来れた。今一度初心に戻って、きちんと見定めてからレンタルするべきだな。
国王に会うことなく俺の店に戻ってくると、誰かが店の扉を開けようとしているのが見えた。
早速嫌がらせか?
そう思いながら注意しようと近づくと、そこにいたのは。
「お帰りなさいませ、アクセルさま」
「――な!? シャンテ!?」
「はい。アクセルさまの一番弟子シャンテでございます」
「一番弟子……。いや、しかし国に帰ったんじゃなかったのか?」
俺の弟子だとかまだそんなことを思っているのか。
「いいえ。アクセルさまがアルゾスから転送される前にわたくしたちは一足先に移動しておりました。ですが、お店の扉に鍵がかかっていて中の掃除が叶わずにいまして。それでやむなくこじ開けようとしていたのです」
あの聖女め、最後まで食わせ者だった。
「そうか。だが、鍵なら俺が持ってるから壊されずに済んだな」
「ええ。とても良いタイミングでした」
「ここに来てしまったのは仕方がないが、繁盛もしない店で働くってことで合ってるか?」
「もちろんです! アクセルさまのおそばにいることこそがわたくしの真の生きる目標でもあるのですから」
随分と大げさなことを言うものだ。
「褒めても何もしてやれないぞ?」
「構いません。いつかアクセルさまの実力に近づけられればいいだけですので……」
そんな実力とっくに飛び越してると思うが。
「あ~いたいた! ちょっと、アクセル!! 店に帰ってきたなら早く言いなさいよ! あ~疲れた。はい、これ! はぁ~……全く、これだから他国の王は面倒すぎ」
こいつも来てたのか。黙って自分の王国に戻ればいいのに。
「……ん? クレア。それは何だ?」
クレアが息を切らせながら渡してきたのは、誓約書と記された羊皮紙一枚だ。
「それに書かれてるのを読んで。そうすれば、アクセルの店は絶対に潰れないから」
潰れるとか、失礼な奴だな。
「どれどれ……」
【誓約書 レンタル道具屋アクセル・リオット殿 アルゾス共和国使者及びパルーデ王国王女より伝えられた功績をそなたに贈ることを記す。ロアード王国が在る限り、そなたの店は永劫的に続くものである。また、当面の生活についてはアルゾス共和国からの賜わりがあるので心配は無用である】
「一応訊くが、俺はどういう立場に?」
クレアに訊くも、彼女ははっきりとした答えがないのか目を伏せた。シャンテも同様で、首を左右に振るだけだ。
「王国が無くならない限り店は続けられる――で合ってる?」
彼女たちは無言で頷いた。
そうらしい。
「アルゾス共和国のは分かるが、クレアまでここにいなくてもいいんじゃないのか?」
「何言ってるの? アクセルには道具のイロハを全然教わってないのに、国に帰れるわけないでしょ!」
……シャンテにクレア、となると次はリミアか?
「リミアとかSランクの冒険者連中もここに来てるのか?」
「リミアはアルゾスに残っております。ここに来ているのは――」
シャンテが首で示した方を見ると、団体客のような人間が店に向かってきているのが見える。
しかもそれを先導しているのは――
「――聖女アルマ……か?」
転生前の世界でいうところのツアー客のように、かなりの大人数が向かってきている。
「リミアはアルゾスに残りました。ですが、その代わりに聖女をと向こうの大統領が……」
「代わりって……だが、どう見てもアルマだけじゃない尋常じゃない数の人間が列をなしているぞ? あいつらは何だ?」
驚く暇もないまま聖女アルマが俺の店に到着し、俺の目の前に姿を見せる。
「来てやったぜ、アクセル!」
また口が悪くなってるな。
「聖女を弟子にした覚えはないが……」
「そう硬いこと言うなよ。あたしとあんたの仲じゃねえか!」
「お前はともかく、お前の後ろに並んでる連中は?」
思わず睨んでしまうが、後ろの連中は真剣な眼差しを俺に送るだけだ。
「あんたがこらしめた冒険者の中でも心を入れ替えた奴。それと、後ろの方にSランクのパーティーも。つまり、全員あんたの弟子入り希望ってわけだ!」
あの訳の分からない誓約書はこれだったのか。
シャンテとクレアだけなら別にいいかと思っていたのに、まさか聖女付きでアルゾスにいた冒険者連中まで面倒を見るとか、冗談きついぞ。
「アクセルさま。ご心配には及びません。この者たちが少しでも粗相をした際には、ダークエルフの獄に向かわせることになっております。ですので……」
「そうそう。生活費とかもアルゾス共和国から贈られるから、あなたは何にも心配いらないんだからね! わたしも生活費くらいなら出すわ」
「……なるほど」
いや、彼女たちはまだいいとして冒険者連中はどこで生活をするんだ?
「生活の拠点は人民街区になるのか?」
「そうだぜ! もっとも、あんたの店で暮らすのはあたしとシャンテとクレアの三人に限られるけどな!」
そう言ってアルマは得意げにしている。
弟子がいっぺんに出来たうえ、処罰された冒険者連中まで俺が面倒を見ることになるとはな。
「俺としては全然儲かる話じゃないが、シャンテにクレアにアルマ……。弟子として何とかしてくれるんなら、全て受け入れてやる!」
「あぁ、アクセルさまっ!」
「頼りにしてるわ、アクセル」
「よっしゃー! そうと決まれば、全員で店を磨こうぜ!!」
「おい、やめろ」
俺の何が凄くて弟子入りをされたのか俺自身が分かっていないうえ、こいつらが弟子入りしたらレンタル道具屋の客が増えないのではと思ってしまうが、とはいえ弟子たちが何とかしてくれる。
そう思いながら、俺はまたここでレンタル道具屋を再開する――。




