第20話 呪われた水門と通りがかり聖女
ミレイの情報を元にレグロス城へ急ぐと、サルド鉱山からすぐだと言われていたはずの道に大行列が出来ていて、進むに進めない状態だった。
「通行止めみたいですね。しかしアクセルさま、単なる通行止めじゃない気がします」
シャンテは俺よりも背が高く、少し先の方まで見渡すことが出来る。そんな彼女が言うには城へ向かっていく道は途中から川に阻まれ、その先には大きな湖が見えるらしい。
湖城というやつか。
城へ入るには川に架けられた橋からしか向かえず、しかも城への入り口は水門を開けていくしかない。
「水門か……厄介な」
「しかも、水門は閉じられていますわ」
「だから進むに進めなくなっているわけか」
洞穴を出たすぐ目の前の道は水の気配がまるで感じられず、進むに苦労はなかった。だが城に行くのに水門を抜けなければいけないとなると、普通の状態では向かえない。
「水門が閉ざされて通行止めをくらうとか、何ともおかしな話だな。救援要請をしていながら通行止めをして足止めをさせるとか、どういうつもりなんだ?」
「ええ……」
もしくは、攻めてきている冒険者どもがここを使ってくることが多いとか?
しかしそれだけでは防ぎようがないと思うのだが。
「お師匠さま。このまま水門前まで進んじゃっていいと思いますにぁ」
俺とシャンテで進むかどうかを迷っていると、リミアが自信ありげな顔で提案をしてきた。
猫賢者の見識というやつか?
「どうしてそう思うんだ?」
「ある程度待てば、鉱山の町に引き返す人たちが出てくるからにぁ。その隙を狙って行けば簡単に水門前まで行けますにぅ」
「……ほぅ? それも賢者なりの考えか?」
「にぅ」
……なるほど。
「リミアの言う通りにすればいいんじゃない?」
それまで大人しくしていたクレア王女もリミアの頭を撫でながら同意している。賢者だろうとお構いなしな奴め。
「猫賢者と同じ考えか」
「それはそうでしょ。だって、あんなに行列を作ったところで進めないんだもの。ここで大人しく見物しながら待つのが最善だと思うけど」
道具を使えばどうにか出来なくもないが、ここは猫賢者と王女に従って黙って様子を見ることにした。
――しばらくして、それまで行列を作っていた者たちが鉱山の町へ引き返し始める。ほとんどが町ギルドでの報酬に釣られての者ばかりのようで、文句を言いながらの引き返しだった。
洞穴に戻れば比較的早く町に戻れるのも理由だと思われるが、やはり貴族の城に対する協力関係なんてこんなものだろう。
とりあえず歩きやすくなったし進むか。閉じられている水門は、門前に行ってから対処方法を考えればいい。
「とりあえず水門前まで行くぞ」
「はいにぁ」
「かしこまりました」
「まぁ、いいんじゃない」
彼女たちから文句など出るはずもなく、鉱山の町へ引き返す者たちとは逆に俺たちは水門への道へと進む。
「……ん? あそこにいるのは……」
順調に川に架かる橋へと足を進め、水門に近づくと、少数だがまだ水門前に留まっている者たちの姿があった。
外見は冒険者のように見えるが、一人の女性に対しお付きの者が二人か。レグロス城への客人か要人か、とにかくどうしても城に行かなければいけない関係だろうな。
「まだ水門の前に人が残っていたんですね」
「魔法か何かで何とかしているみたいだが、魔法門なのか?」
魔法がかけられてる門ならクレアの力で開けられそうだが、そんな簡単じゃないだろうな。
「クレア王女なら何とか出来そうじゃないのか?」
「そこでわたしを頼るわけ? 近づいてみないとなんともだけど、あの門はおそらく――」
「ん? 原因が分かるのか?」
「さぁ。そこで頑張ってる人に訊くのがいいんじゃない? なんか知り合いに似てる気がするし……」
沼地の王女の知り合いとなると、クセのある立場の人間か。
「あ~、そこの――」
「――丁度いいところにきた! そこの優しそうなおっさん、聖なる力とか使えたりするか?」
聖なる力?
「あたし、か弱い女なんだけどさぁ……いつまで経っても水門が開けられそうにないんだよ。だからおっさんも協力してくれない?」
見た目は清楚そうで大人しそうな女性に見えるが、口調が随分と……。
「相変わらず口が悪いのね、あなた」
「ぞろぞろとおっさんの後ろにいると思ったら、あんたクレア? なぁんだ、そうならそうと言いなよ! ちょっと控えめに言って損しちまったじゃんか!」
こんな漢っぽい女性がこの辺にいたとはな。クレアの知り合いということは、王女クラスか?
「クレア。彼女は何者なんだ?」
「そ、そうね。あんなのでも肩書きは本物だから教えておくわ。そこで偉そうにしている彼女の名はアルマ。アルマ・オルコット、アルゾス共和国の聖女よ」
「……なるほど、聖女か。聖女!? あんな口が悪くてか?」
「見た目はともかく、現実はそんなものでしょ」
クレアが言うように、聖女であるならばきちんと挨拶をしておくのが礼儀か。リミアとシャンテは後ろにいるし俺がやるしかない。
お付きの女性たちに軽く会釈したあと、俺はその聖女に向かって膝をつき――
「――あ~お初にお目にかかる。俺はロアード王国の王都バーネルから来ているアクセル・リオット。聖女アルマにおかれましては……」
「あんただろ? 噂のレンタル道具屋のおっさんって。あたし、堅い挨拶は好きじゃないんだ。いいよ、そこまでしなくても」
……悪い噂か?
「そ、そうなのか?」
「気にすんなって! 呪われてる水門も開けられない聖女なんて、崇められるわけがねーもんな! あははははっ!」
なんて軽い聖女なんだ……。しかし単なる水門ではなく呪われた水門とは。しかも聖女の力でも開かないとなると、冒険者の仕業と考えるのが正解か。
「アクセル。分かったでしょ? 聖女なんてそんなものだって」
「そ、そうだな……」
大人しそうな見た目だからと油断は出来んということだな。
「沼地のクレア王女様があたしをそういう風に言うのか?」
「何よ、あなただって似たもんじゃない! アクセル! 見た目に騙さないでね。こう見えてアルマは……」
行列を作っていた者たちがまた戻ってこないとも限らんからな、彼女らの争いはまた今度にしてもらおう。
「とにかく今は、目の前の水門を何とかしないとどうにも出来ないはずだ。聖女と王女の争いは後にしてくれ!」
争いを始めようとする彼女たちの間に入り、手で制する。
すると、
「そ、そうね。アクセルの言う通りにするわ」
「ほ~。おっさんのくせに聖女も王女も制するなんてね。いいさ、ここはおっさんの言う通りにする。おっさんの力を見せてもらうよ!」
聖女に力を見せられるような力なんて俺には無いんだが、だが分かりやすい道具の力で見せるしかなさそうだ。




