警告、嫌な予感
それからルピアは、リリスとフィレウスに囲まれながら授業を受けた。
守られている感覚にむず痒くなりつつ、ルピアは嬉しそうにして、休み時間には二人と手を繋ぐ。
「こんなに……その、気遣っていただいて、本当にありがとうございます……でも、もう離れても大丈夫ですよ」
「ダメです。みなさんは……まだ、わかっていないみたいですから。あの目を向ける人も、まだきっとたくさんいます」
「は、はい……だから、それを大丈夫だと……昨日は、突然でびっくりしてしまっただけで。今日も、まだそれを引き摺っていただけなんです……」
「私もリリス嬢も、君が誰かと話したりするのを邪魔するつもりはないよ。ただ……心配なんだ。今日だけは、近くにいさせてほしい」
「……リリスさんはさておき、フィレウス様は……その、みなさんが恐縮してしまうと思うのですが……」
ルピアが困ったような表情で言うと、フィレウスは不思議そうな顔になった。
そして、すぐに笑顔を浮かべると、苦笑いしながら言う。
「君は公爵令嬢なんだから、今更な話じゃないかい?」
「……一人と二人では、色々違うと思います……はぁ。……でも……心配を掛けてしまったのは私なので……止めることはしません。では……少し、クラスメイトとお話をしてきます。でも、フィレウス様はさりげなく同行するようにお願いします」
「もちろん、その程度のことはするよ。肩の力を抜いて、行ってくるといい」
「……ルピアさん……」
「リリスさんとは手を繋ぎます。ふふ……フィレウス様と違って、恐縮されることはありませんから」
嬉しそうにルピアはリリスと手を繋ぎ、友達のもとへと歩いて行った。
入学から魔法の授業が始まる日までに、ゆっくりと距離を詰めて作った、ルピアの数少ない友達。
友達になれたのだから、きっと――と、ルピアは少しずつ近付いていく。
『――待って、みつちゃん』
だがそれを、内側から響く声が止めた。
この場ではどうしたの、なんて一言も伝えることができなくて、ルピアはもどかしい気持ちになりながら足を止める。
それはヤキモチだとか、そんな可愛い感情から発せられたものではなく、真剣なものだとわかるから。
幼く美しい少女が、真剣な眼差しをする姿が見える。
『おかしい。ここにいる人、みんな……初めて会った時のリリスさんや、先生さんと同じ目をしてる。何が起きてるかわからないけど、とりあえず近付いちゃダメ……この部屋であの目をしてないのは、みつちゃんと、リリスさん、それから……王子様の三人だけ……!』
アルテの警告を耳にし、ルピアは数歩後退ってリリスと繋いだ手をぎゅっと握り締める。
そして、周囲の人間をよく観察してみれば、確かにその目はどこか焦点が合っていない。
楽しそうに会話をしているのに、一見その行動に違和感なんてないのに、目だけがおかしかった。
「……ルピアさん? どうかしたんですか?」
「あ、いえ……その。……ええと……なんだか、嫌な予感が……」
アルテからの警告を嫌な予感と言い換えて、ルピアはそっとフィレウスの方へと振り返った。
その瞳が揺れていて、フィレウスは焦りながら、だが静かにルピアの傍へと歩み寄る。
フィレウスに軽く手を引かれてルピアは少し下がると、ゆっくりと息を吐き出す。
「ルピア、大丈夫かい? もしかして、また調子を……」
「ああ、いえ、そういうわけでは……ただ、嫌な予感がして。今は、行かない方がいいかもしれないと……思っただけなんです」
「予感……なるほど。……私が話してみようか?」
「えっ……!? い、いえ、大丈夫です……! 私は、ただ……今日はやめておこうと思っただけなので。あまり、気にしないでください。……私の……その、才能のこともありますから、無下にはしない方がいいと思っただけなんです。あまり、深く考えていたわけではなく……それに、もしこの嫌な予感が当たっていたら……フィレウス様も、もしかすると危険な目に遭うかもしれません」
「それは……」
ルピアの言葉に、フィレウスは難しい顔をして黙り込んだ。
フィレウスとしては、ルピアを守りたいから、危険が無いかどうか確かめてあげたいのだ。
だが、王子という立場が、それを許さない。
「……悔しいけれど、そうだね……ルピアの言う通りだ。私にも立場があるし、危険を冒すわけにはいかない……はぁ。もどかしいな……」
「……あ、あの……私が、行きましょうか……?」
「リリスさんはダメです。あなたも私の大切な人ですよ。危ない真似は、絶対にしてはいけません」
メッ、と叱ってくるルピアに、リリスはぱちぱちと目を瞬かせた。
そして、ふにゃりと笑うと口元を隠しながら頷く。
「はい……わかりました。……大切な人だなんて、ふふっ……嬉しいです。そんな風に思っていただけていたなんて……」
「……あっ……! へ、変な意味じゃありませんよ……!? ただ、リリスさんは私の大切な友達で……! 寮で待っていてくれましたし……! ただ、それだけで……」
「わかっていますから、恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。ふふふっ……ルピアさんのこと、私は優しくて綺麗な人……と、思っていたのですが。実は、可愛らしい人なんですね」
「そうだろうそうだろう、ルピアは昔からこうなんだ」
「り、リリスさん……フィレウス様……っ」
『みつちゃんはかわいい』
内側からもかわいいなんて言葉を掛けられて、ルピアはどうにもできずにただ顔を覆った。




