傍に寄り添う
それから、ルピアはアルテに本当にもう嫌と言うまで撫でられ続け、ベッドで眠った。
一時間ほど眠り、そして目を覚ましたルピアは、ぐっと身体を伸ばしながら言う。
「……うん! だいぶ元気出た! アルちゃんのお陰だよ!」
『え……? ……わたしのお陰じゃないよ。寝てすっきりしただけ……』
「その影響があることは否定しないけど、アルちゃんのお陰でもあるの! 寝れたのもアルちゃんのお陰なんだからね!」
『……わ、わかった、じゃあ……どういたしまして』
アルテがお礼を受け入れると、ルピアは満足そうに頷いた。
そしてルピアは、立ち上がって窓の外を見る。
「時間は……今はお昼くらいかぁ。まだ授業やってそうだなー……フィレウス様に魔法のお話聞きたかったんだけど」
『……授業に戻っちゃ、だめなの?』
「あー……あははぁ。積極的にサボるほど不真面目ではないんだけど、合法サボりの機会を逃すほど真面目じゃないっていうか……ね?」
『……わたしはやらないけど、気持ちはわかる。でも……戻れるほど元気があるわけじゃないって、素直に言って』
「うぅ……ごめんなさぁい。フィレウス様のことだから、様子見に来てくれると思うし……それからでもいいかなぁ……って。早くても昼食の時間だし、もしかすると授業が終わったあとになるかもしれないけど……」
『うん、それからでいい。でも、嘘は吐かないで。わかるから……わたし、悲しくなる』
本当に落ち込んだ様子でアルテが言うと、ルピアは申し訳なさそうに眉尻を下げた。
しかし、軽く頬を叩いて気を取り直すと、とことこと部屋の中を歩き回りながら明るい声で言う。
「アルちゃん! フィレウス様、優しいでしょ! あんまり嫌わないであげてね!」
『……いい人、だよね。みつちゃんのためにたくさん考えて、寄り添ってくれてた……みつちゃんを取られるのは、絶対、嫌だけど……他の人に取られるよりはマシって、思える。心配しなくても平気。……今はわたしより、自分に目を向けてほしい。わたし……何も、心配いらないから』
「でも、アルちゃんもほんのちょっぴりだけ、元気がないように感じるよ?」
『それはみつちゃんに元気がないから、心配なだけ。みつちゃんが元気になれば、わたしも元気になる。……また……よしよしって、する?』
「し、しなくていいけどっ」
ルピアは照れながら食い気味にそう答えて、再びベッドに腰掛けた。
そのままルピアは目を瞑ると、ゆっくりと深呼吸する。
そして、穏やかな声でアルテに語りかけた。
「ごめんね、アルちゃん。私、ちょっと集中するから……寂しいかもしれないけど、ちょっとだけ我慢してほしいな。終わったら、私……きっと、元気になってるから。ちゃんと、気持ちを整理する。どうして、あんなにショックを受けたのかとか……色々ね。理由はわかってるつもりなんだけど……やっぱりまだ、そわそわしちゃうから」
『うん、平気。……でも……忘れないでね。わたし、傍にいるから。みつちゃんのこと、見守ってる』
「うん……ありがとう。心配掛けてごめんね」
『大丈夫』
大丈夫、とそんなたった一言に、ルピアは嬉しそうに頬を緩めた。
とても寄り添ってくれているのが、よくわかるから。
幼くも美しい少女が、そっとルピアと手を繋いでいてくれている幻覚さえ見えるほど。
それはきっと悪いものではなくて、内側に居る少女の意思の具現化だ。
「……ふぅ……よし」
ルピアはそれだけ呟くと、深い深い思考の海へと沈んでいった。
◇
それから時間が経って、夕方頃。
コンコンとノックの音がして、ルピアは目を開けた。
いつの間にかこんなにも時間が経っていたらしい。
自分にこんな集中力があったことに驚きつつ、ルピアは急いで扉に近付いていく。
「ルピア、起きているかい? 私だ、フィレウスだ」
「フィレウス様……!」
ルピアは扉の奥にいるのがフィレウスで安心したような表情をしつつ、そっと扉を開いた。
すると、少しだけ驚いたような表情をしているフィレウスが立っていて、ルピアは不思議そうに首を傾げる。
だが、ルピアはそれに関して訊ねるよりも先に、心からの感謝を込めて頭を下げた。
「フィレウス様、本当に……本当に、ありがとうございました。色々としていただいて……それに、たくさんご迷惑も……」
「いや、いいんだ。顔を上げてくれ。私がしたいから提案したんだよ、ルピアがそんな風に頭を下げる必要はないんだ。それより、私はルピアの調子を聞きたいな」
「私の調子……えっと、少し寝ましたし、しっかり休んで随分落ち着いたと思います。教室に行っていないので、もう大丈夫かは明日にならないとわかりませんが……少なくとも、寮に戻った時よりは確実に落ち着きました」
「そうか……本当に良かった。すまない、事情を知っている私が行動を起こすべきだったのに……見送ることしかできなくて……」
心底悔いている様子のフィレウスに、ルピアは困ったような顔になると、そっとその手を取った。
フィレウスの頬が薄く赤色に染まり、アルテが何も言わず、だが少しだけ不機嫌になる。
「フィレウス様も、私と同じ……まだ、学園に通う学生なんです。大人ではないんです。だから……できないことがあるのは、当然のことです。その後のフォローで、充分救われました。本当に……ありがとうございます」
「……こちらこそ、ありがとう。ルピアが嫌でなければ、リリスさんからの伝言があるのだけれど……聞けるかい?」
「リリスさん……! もちろんです、聞かせてください……!」
ルピアが目を輝かせながら頷くと、フィレウスは目を細めて伝言を口にした。




