小言と可愛い独占欲
それから、ルピアは寮の部屋に入った。
寮の部屋は、ルピアの元々の部屋よりは流石に狭いが、それでも充分な広さがある。
ベッドも丁度いいふかふか加減で、肌触りも良くて、質の良さが窺えた。
「……学園って、お金持ってるんだぁ……」
『……公爵家の方が、お金は持ってると思う。公爵家よりはお金の使い道が狭まるから、こういうところにちゃんとお金を使えるんだと思うけど』
「あっ、そうだ! アルちゃん、放置しちゃってごめんね。寂しかったよね……」
『うん。だから、みつちゃんはわたしとたくさん話すべき』
「……ふふっ。なんか、妹ができたみたい。アルちゃんは可愛いねー、二人っきりの時は、たくさんお話しようね!」
『……わたしも、お姉ちゃんがいたらこんな感じかなって、思う』
少し恥ずかしそうにアルテが言うので、ルピアは嬉しそうにはにかんだ。
そして、ようやく訪れた二人きりの時間だからと、ルピアはアルテの話に耳を傾け始める。
「アルちゃんのしたいお話、聞かせてほしい。いっぱいお話、しよ?」
『うん……ええ、と。……あの、あのね、みつちゃん』
「うん、なーに?」
『みつちゃんは……警戒心が、無さすぎだと思う……!』
「……えっ!?」
楽しい話が来ると思っていたのに、そんな言葉が飛び出してきてルピアは目を丸くした。
少しの間困惑した後、ルピアは眉尻を下げ、困ったような表情で微笑む。
「……えっと……警戒心が無いっていうのは……?」
『みつちゃんは、公爵令嬢だから……無闇に物を拾ったりするのは、良くないと思う……! わたし、心配……』
「ええと……まずは、心配かけてごめんね。物を拾うっていうのは……リリスさんのリボンのことだよね? ……リリスさんは悪い子じゃないと思うけどなぁ」
『それは、今だから言えることでしょ。リボンを拾った時は、そんなのわからなかったよ』
「……でも、肩にリボンを落として、気付かなかったんだよ……? ただのおっちょこちょいじゃないかなぁ……」
心配してくれる気持ちはありがたいが、どうしてもルピアにはリリスが悪い人には思えなくて、困ったような表情でそう口にした。
それにアルテは少し黙ると、うん、と小さく口にする。
『……悪い人じゃないかも、とは、わたしも思った。でも……なんか、変な感じがして。先生さんもそう』
「変な感じ? ……んー……わかった。気にしておくね、心配してくれてありがとう」
『……うん……わたしも、口うるさくしちゃった、かも。ごめんなさい……』
「いいんだよ、謝らないで。こうして二人っきりになるまで言わなかったのは、私の邪魔はしたくなかったから……でしょ?」
『……みつちゃんにはわたしがいるけど、友達も必要。その邪魔は、したくないから』
「ふふっ、そっかぁ。ありがとね、アルちゃん」
心配しても、邪魔はしないようにしていたというアルテに、ルピアはニコニコと微笑んだ。
そうしてから、ルピアはふと気になっていたことをアルテに質問する。
「ねぇ、アルちゃん。アルちゃんって……フィレウス様のこと、嫌いなの? 凄く……文句を言ってたけど」
『……。………………いい人、だと思う。変なところも無いし、みつちゃんを巻き込んでしまったことに……すごく、申し訳なさそうにしてた』
「うんうん。それで、アルちゃんの気持ちは?」
『嫌いじゃ、ないよ。好きにはなれないけど、嫌いじゃない。……わたしが一番、みつちゃんに近い場所にいるのに……わたし、ずっと……師匠としか、話したことなかったから。取られるかもって思って、すごく……嫌だったの……』
言いづらそうに口にするアルテに、ルピアは嬉しそうに頬を緩めた。
それはたぶん、年相応の可愛い独占欲だと感じたから。
きっとアルテは、普通ではない日常を過ごしてきたのだろう。
何がどうなってこの状態になったのかは未だ不明だが、それでも、できる限りのことはしてあげたいとルピアは思うのだ。
だから、アルテが子どもらしい一面を見せてくれたことが、とても嬉しかった。
「アルちゃんってば可愛いんだから〜! 大丈夫だよ、アルちゃんのこと放ったらかしたりはしないから! ……あ、でも、返事できない時は、いっぱいあるんだけど……出会ってからそんなに長くは経ってないけど、それでもずっと一緒にいるんだもん。フィレウス様は……幼馴染くらいの関係性ではあるけど、特別仲良くはないから。昔からの知り合い……かな? とにかく、心配しなくて大丈夫! 私、アルちゃんのこと大好きだよ!」
『うん……わ、わたしも、好き。……でも、あの人がなんだか可哀想になってきた……』
あちらはルピアに好意を寄せているというのに、ルピアからは昔からの知り合い程度にしか思われていないことを知り、アルテはフィレウスを憐れんだ。
友達くらいには思っていると考えていたのだが、知り合い止まりというのは中々に可哀想だ。
「ん? 可哀想って……?」
『……なんでもない。とにかく……みつちゃん、ありがとう。いっぱい、大丈夫って言ってくれて……お陰でわたし、きっと、もうみつちゃんがあの人とお喋りしててもあんな気持ちにならない。不安だったけど……みつちゃんが、大丈夫って信じさせてくれたから』
「そう? ふふ……それなら良かった! じゃ、まだまだ満足するまでいっぱい話そ?」
『うん……! ……あっ、じゃあ、あの人……うぅ、王子様のことについて聞きたい……! みつちゃん……会った時、なんだか緊張してた?』
アルテがずっと気になっていたことについて質問すると、ルピアは悩ましそうにんー、と声を零した。
返答に迷っている様子のルピアに、アルテは不思議に思いながら黙って考えが纏まるのを待つ。
そうしていると、数十秒間の間を空けて、ルピアはようやく口を開いた。
「大したことじゃないの。えっとね……色々あるんだけど、大きいのは……フィレウス様が婚約者だから、かな。私は将来、あの人と結婚しないといけないって思うと……どうしてもね」
『……ふぅん……でも、それだけじゃない……? みつちゃん……誤魔化そうとしてるように見える……』
「そうだね、それだけじゃない。……はぁ……うん、やっぱり話すよ。誤魔化そうとしてごめんね。フィレウス様は全力で隠してたけど、凄くピリピリしてるみたいだったから……ちょっと、緊張しちゃった。……ただ、それだけなんだけどね」
『ぴりぴり……うん、聞けてよかった。ありがとう、みつちゃん……楽しいお話も、いっぱいする。あの、あのね……!』
アルテの言葉にルピアは頷くと、アルテの話に耳を傾けた。




