母親学級②
第22章
落ち込んでいたプラスムス夫妻は、だんだんと王都のヴァイオレット邸に馴染んでいった。
秋になり、冬が近づいた頃、
「プラスムス様、オリザナダ領の領主は、市民によって公開処刑されたようです」
「え??」
「今回の反乱は、日を追うごとに激しくなり、政府も動き始めたようで、領民たちは、プラスムスご夫妻を、戻してくれと、懇願している様です」
今回の暴動は、ラミベース国にとっては、大きな話題となった。
王室は、地方の貴族をイジメ、地方市民をも貧困に追いやった。と、国内外まで、悪評が知れ渡った。
「国王陛下、オリザナダ領の混乱は、このままでは、全国レベルでの騒ぎになります」
「ーーー誰の指示で、このようになったかを調べたか?」
「はい、第1皇子のアンユン様です。アイシン男爵が、庶民の娘と結婚し、その父親を警戒した為に、プラスミス様の破産を目論んだようです」
「たかが庶民だぞ、あれほど、ヴァイオレット家に手を出すなと、言いつけておいたはずだ」
「しかし、そのプラスミスの家は、どうやら武器も輸入しているみたいで、いち早く手を打ったと、申しています」
「アンユン皇子を、呼んでくれ」
国王は、アンユン皇子を呼び出し、アンユン皇子が、これまでアイシン男爵にしてきた事を、すべて聞き出し、問い詰める。しかし、アンユン皇子は、反省する事もなく、自分の保身ばかりの言い訳をし、国王を呆れさせた。
「・・・・迷信だと、本当にそう考えているのか?」
その頃、プラスミスは、ミオが、食べられる干し肉を、気に入り、今回、助けてくれたアルバ国に、送る事を考えていた。
「干して、乾燥させただけだが、本当に、日持ちするのか?」
「ええ、夏を越しても、誰も、お腹を壊していません」
「では、作れるだけ作って、アルバ国に送ってもいいか?」
「喜びますよ。彼女たちも、働くことが、好きですから」
プラスミスは、今まで培った建設能力と、商売の才能をこのヴァイオレット邸で、生かし始め、破産した事など忘れて、生まれてくる子の為に、働き、生きがいを見出していた。
ミール夫人とミオは、ジュリエールから、妊娠、出産、育児について、毎日のように指導され、心の癒しは、ダルマルや子供達と、おやつを食べて、遊ぶことだった。
ミール夫人とミオは、いつものんびり、子供たちを見ているが、ジュリエールは、違った。
子供たちに、文字や数字、計算、武道なども教え始め、将来の為に、備え始めている。
子供達の為に、ミオの提案で、教室の様な育児室も、現場の近くに建設された。
ジュエリエールが、腕を振るった学校の様な建物は、ヴァイオレット邸から少し離れてはいるが、風通しも良く、丈夫に出来ていた。
「お母様、ここは高台で、王都の町が一望出来て、いい場所ですね」
「ええ、水の音や、子供の声が、こんなに心地よいなんて、思いませんでした。貴族の邸宅は、守られている安心感があり、オリザナダ領を出て来た方が、心が穏やかに過ごせるのは、不思議です」
その頃、王室では、プラスミスがすでにヴァイオレット邸に滞在している事は、わかっていたが、一般庶民に助けを求める事は、出来ない。
「国王陛下、オリザナダ領は、どのようになさいますか?職を失った人々は、ヴァイオレット家を頼っている様で、ーーーヴァイオレット男爵を、領主にいたしますか?」
「う~~~~ん」
国王陛下は、なかなかいい案が思い浮かばないで、時間ばかりが過ぎて行った。
解決案が見つからないまま、時が過ぎて行き、オリザナダ領は、どんどん荒んでいった。そんな中で、王都、王宮は、問題が起きた。
「国王陛下、王都東側の川が氾濫しました」
「どうした?まだ、雨は3日くらいしか降っていないはずだ」
「雨が降り始めて3日ですが、雨の量が多く、川が溢れ、水の逃げ道がなくなり、王都の街にも水が入り込んでいます」
「・・・・・・」
「何をしてる、水をせき止めろ! 軍を出せ! 」
国王は、軍を出し、災害対策を始めるが、国軍よりも水の力が強く、二次災害を恐れ、対策は上手くいかずに、どんどん、王都の街は、水に沈んで行った。
「旦那様・・・、本当に王宮に向かうのですか?」
「ああ、とにかく、王都の街も見てみたい。ーーー船に代わる物は、この敷地内にあるか?」
「旦那様、ラミベース国、中央の王都で、船は・・・・必要ですか?」
「・・・・・・」
「私がどうにかしよう」と、プラスムスが名乗りを上げた。
プラスミスは、何度も船に乗ったことがあり、船の構造を知っていたので、彼の指導のもと、トハルトと使用人たちは、職人が残して行っている材料や工具で、大きめのボートを作り、王宮へと向かうが、王宮も水に沈んでいたので、そのまま、屋敷に戻る事にした。
「これは酷い、街も水没していたが、王宮が、最も酷い状態だ。ええ、王宮へ入る為の入り口が、見つかりませんね・・・・」
「ああ、水深が、屋敷の方とは、比べ物にならない、近くの川の水がすべて王宮に、流れ込んだみたいだ。ここにいても仕方がないから、戻るか・・?」
「アイシン男爵、あの大きな木がある場所は、職人たちの長屋が住んでいる所ですが・・」
「ああ、寄って行こう」
幸運な事に、その長屋は、王宮ほどの水深ではなく、職人たちは、2階や屋根の上で雨が止み、水が引くのを待っていた。それでも、男爵が見えると、涙声で、全員が男爵を呼び始めた。
「アイシン男爵様~~~~!! 男爵様~~! 助けて下さい。お願いします」
「男爵様~~~!!! ビェ~~~!! 男爵様!アイシン様~~~!! 助けて下さい! 」
今では、その長屋の一帯は、ヴァイオレット家ご用達の職人たちが集まる集落の様で、全員が、毎日、ヴァイオレット家に出勤していた。
一緒に船に乗っていた、トナカリとルフリーは、
「旦那様、どのようにいたしますか?」
「勿論、助けよう。先ずは、子供と年寄りたちが優先だ」
トナカリとルフリーは、大声で、職人たちに話し、
「子供が優先になる。次に病人やお年寄りの順で、救助するから、もう少し待ってくれ」
雨が降る中、凍えながらでも希望が見えた職人たちは、小さい子供たちをアイシン男爵を信じ、次々と手渡して行った。中には、生まれて数か月の赤ちゃんも居て、この時、この災害の重大さを、3人は、身に染みて感じていた。
「急ごう! 救助できる人は、どんどん助けて行こう!」
屋敷に戻り、ジュリエールやフィージアに、赤ん坊たちを渡し、もう一度、長屋の方へ、救助にむかう。
「お義父様、船は作れるだけ、作って下さい。助けられるだけ、人々を助けたいです」
「ああ、あれから、もう一艘、自分たちの避難用に完成させてある。それも使ってくれ! 」
今度は、ツタハル、パンネルが、もう一艘の船に乗り、アイシン男爵と共に、救助に向かって行った。
ヴァイオレット家では、冷え切った赤ん坊をお風呂に入れ、ミール夫人が用意していた赤ん坊用のオムツや服を着せ、ジュリエールは、ミオに抱かせてみた。
「奥様、優しく抱いてあげて下さい。母親が来ないと、お乳が飲めないので、泣いていますが、大丈夫です。ゆっくりと愛情をもって抱いてあげれば、泣き止みますから・・・」
ミオは、人生で初めて、こんなに小さい赤ん坊を抱いて、本当に固まっていたが、ジュリエールとミール夫人は、優しくミオに寄り添っていて、「大丈夫よ。大丈夫。少し揺らして、ゆっくりね」




