さざ波。
第19章
寝室では、ミオが赤い顔をして眠っていた。側には、フィージアが付きっきりで看病していた。
フィージアが立ちあがり、お辞儀をして、場所を移る。
「ミオ、起きれるか?」
ミオは、目を開けると、体がだるくて、お腹が空いていた。
「クランが、ミオが食べられそうな物を作ってくれた。食べるか?」
ミオは、頷き、アイシン男爵がその白いゼリーを口に運んだ。
「美味しい・・・・」
ミオは、その白いゼリーを全部食べて、いつもの水も飲み干し、薬も飲みまた眠った。
その寝顔は、さっきまでの赤い顔ではなく、息苦しさも抜け、周りのみんなを安心させる寝顔に変わった。
「良かった。クランに感謝だ。この料理方法をマカフィに教えてもらって、もっと栄養がある物を、取り入れて行こう。
「良かったです。奥様が、お食事出来て・・・・」
泣きながらミオの顔を拭き、手足をいつもマッサージしているフィージアを見て、アイシン男爵は、
「本当に、どっちが子供だかわからないな・・・・。食事をしただけで、こんなにも喜ばれる」
「ーーーーーー」
「でも、一番、嬉しいのは、僕だけどな・・・、本当に、困ったものだ」
それから、厨房に戻り、皆で、その白いゼリーに何を入れるかなどが話し合い、クランから作り方を教わり、全員で、食してみてたりした。
マカフィが、
「君は、戻らなくていいのか?」と、ブーメン子爵の使用人に聞き、
「いけない! 子爵の食事を忘れてました。ありがとうございました。鳥まで料理してもらって、このゼリーも、子爵にお出しします。本当に、勉強になりました」
そのブーメンの使用人は、ミミルーと言い、人懐こくて、いつも、ブーメン子爵に出世して下さいと、お願いしているメイドだった。
「彼女・・・カレコレ、2時間以上は、ここにいましたけど、大丈夫でしょうか?」
「ブーメンは、小さな事を気にしないタイプだ、大丈夫だろう」
その日の夜、ブーメン子爵の夕食は、少し遅れたが、王都に来てからの初めてのご馳走で、ブーメン子爵から、ミミルーには、ちょく、ちょく、ヴァイオレット家を訪ねる許可が下りた。
次の日、通常通りに、出勤したアイシン男爵は、ブーメン子爵から、
「今度、僕もヴァイオレット家を訪ねていいだろうか?」と聞かれ、
「わが家は、貴族との交際を行う予定はないので、申し訳ない」と断られた。
「そんな・・・・。じゃあ、ミミルーだけでも、いいか?」
「ああ、彼女は、すでに、我が家の使用人のように振舞っている」
「ああ、・・・・・すまない。本当に、申し訳ない」
そんな会話をしていると、官僚の一人がやって来て、
「サージ宰相が、お二人にお聞きしたい事があると申うされています」
「??合同訓練の事か?」と、ブーメン子爵は囁いた。
二人は、始めての階段を登り、上層部の部屋を訪れる。
トントン、
「どうそ・・」
「失礼します」
二人は背筋を伸ばし、キチンと一礼して、サージ宰相の言葉を待つ。
「この前の、合同訓練では、素晴らしい成績を収めたそうだね。その後も、慣れない地方貴族たちを支えてくれたと、全員が感謝をしている。どうだろう?その能力を生かして、上層部で働いてみないか?君たち二人なら、同期の貴族たちからも不平はでないだろう・・・」
「ーーーーーー」
ブーメン子爵は、アイシン男爵が答えないので、黙ったままでいる。
「ブーメン子爵はどうだ?給金は倍額になると思うが、今、返事できなくてもいい、考えてくれ」
「・・・・・・」
アイシン男爵は、
「私は、上層部で働けるような教育も受けていませんし、身分もありません。有難い話ですが、今のままの研修生で、お願いします。1年の研修を終えて、配属が決まり、その場所で、地道に働いて行く方が、自分には向いています」
そして、強く言う。
「サージ宰相、私は、身分が足りません。父は男爵で、妻は庶民、私は永遠に、男爵の嫡男です」
「しかし、聞けば、ブーメン子爵の家は、名門だそうです。私が、断っても彼を昇格してあげて下さい」
ブーメン子爵は、驚いた顔で、アイシン男爵の方を見て、
「サージ宰相、有難いお話ですが、自分も辞退します。自分が誇れるものは、体力のみで、頭を、使う上層部には向いていません。邪魔になるだけです」
「ふぅ、君たちは、欲がないな・・・。わかった。国王にはそのように話しておこう・・」
「所で、聞いた話だが、アイシン男爵は、あの日、雨が降ってくると、事前にわかっていたのか?」
「まさか、朝、蛙が庭先にいました。それだけです」
「それだけなのか?」とブーメン子爵が大声で話す。
「ああ、オリザナダ領では、みんな、そのように言い伝えられている。朝、蛙に会うと、昼には雨が降ると、セキセキ領では、無いのか?」
「セキセキ領では、もう少し下世話な迷信ならあるが、ここでは言えない」
「しかし、捜索隊が借りた帽子は、大変、役にたったそうだ。あれは・・・?」
「あれは、日焼けを嫌がる妻に、職人たちの妻が、作ってくれたのを、借りて来ました。妻は、美容には厳しく、日焼けは、大敵です」
「奥さんの噂は、聞いている。物凄くお金持ちの奥方で、あの辺一帯の土地を買っていると聞いたが、一つの町でも作るのか?」
「ええ、その辺の事は聞いていませんが、土地を買って、随分とお金がなくなったみたいです」
「そうか?君たちは、王都に来て、一度も夜会に等に参加していないと聞くが、理由はあるのか?」
ブーメン子爵は、キッパリ、はっきりと、
「家の使用人に、無駄にお金を使う事を禁じられています」
「・・・・・・」
「使用人?」
「はい、彼らは、両親が選んだスパイで、逐一、領土に報告していまして、気が抜けません」
「ハハハハハ・・・・」
「それでは、昇級を辞退したことは、秘密にしておいた方がいいな。しかし、合同練習での功績を認め、金一封を、支給するように、文官には話しておこう」
二人は、思いっきり頭を下げて、感謝を表し、その広い部屋を出て行った。
二人を見送った後、部屋の壁の向こうから、国王陛下が姿を現し、
「陛下、どのようでしたか?」
「うん、抜かりがなく、頭がいいと感じた。それに、誠実で、おまけに、ハンサムだ」
「はい、あの顔に、娘も夢中になりました」
「アイシン男爵は、決して、上には上がって来ないだろう」
「はい、私も、言葉の端端に感じます」
「それが、彼の意志だとしても、我が息子たちはどう出るか?これから本当の事がわかる」
アイシン男爵は、屋敷に戻り、直ぐに、ミオの待つ寝室に向かった。ミオはベットの上で起き、アイシン男爵を迎えた。
「良かった。起きられるようになったのか?」
「はい、少しずつ、食事も摂れて、体が楽になりました」
「でも、疲れたら直ぐに布団に入りなさい。早く、ほら、寝て、布団をかけるから、いいね」
ミオは、こっそり、何か食べようとしたが、仕方がないので、また、布団の中に入って、寝たふりをした。
アイシン男爵は、フィージアを呼び、ミオに付いているように言いつけ、次に、トハルト家令を呼び、初めて、使用人全員の前に立って、指示を出した。そこには、ジュリエールも加わった。
「今日、サージ宰相の部屋に呼ばれた。その部屋の中には、国王陛下か?その他の重鎮も同席していたと、私は考える」
「ーーーーーー」
「メインに聞かれたのではないが、どうしてあの日、雨が降るとわかったかと、言う事だ」
「君たちには、慣れ親しんだ習慣だろうが、ミオの力を王宮が知る事は、非常に良くない! わかるか?」
「はい! 」
「だから、今後は、屋敷内には、ダルマル、クラン、ブーメン子爵のメイドのミミルーも入れたくない」
話しを聞いて、トハルトが提案する。
「今、丁度、小屋の建設が終わりそうです、そのまま、そちらに厨房を作りましょう。干し肉の問い合わせも、一日10件以上あります。ダルマル、クラン、ミミルーは、今後、そちらに通す事とします」
「ああ、それがいい、丁度、今、ミオも寝室からは出られない。ミオを守る事が、君たちの仕事だと信じている。これからが、大変になる。保存庫の事も、プラスムス家の商売に結び付けてくれ!」
「はい」
その時、大きな門の音が鳴り、トハルトが向かうと、「プラスムス様!! 奥様!!! 」