さざ波②
第20章
集まっていた12人は、急いで、プラスムス夫妻を出迎えた。
「プラスムス様・・・・」
「ああ、良かった。ああ・・男爵様、お久しぶりです。ミオは?ミオは元気ですか?」
「ええ、今は、少し体調を崩して居ますが、食事も薬もとれるようになりました」
「家内が、1ケ月前から、落ち着かなくなって、ミオを、心配して、食事も喉を通らなくなり、それなら、二人で、王都に出向こうと、決めました。遠く離れているよりも、ミオの近くにいさせて欲しいと、今日は、男爵様にお願いに来ました」
使用人たちは、変わり果てたミール夫人を見て、言葉を失う、妊娠している割に、痩せていて、顔色も悪く、今にも倒れそうだ。
「有難い話です。ーーお義母様、ミオの近くにお願いします。きっと、ミオは大喜びします」
アイシン男爵は、パンネルとコメネル、ジュリエールにミール夫人を頼み、プラスムスと話す。
「お義父さんも、直ぐにお休みになりますか?」
「イヤ、私は大丈夫だ。長旅で、疲れたが、ヴァイオレット邸に辿り着いた事の安心感の方が大きい。やった、やっと着いた。・・・よかった・・・」
トハルトは、急いでお茶や食事を用意させ、プラスムスの労をねぎらった。
「ああ、すまない。二人で、休みながら、やっとここまで来たが、長旅で、君たちも大変だったな・・・」
「使用人はどうしたのですか?」
「使用人たちは、全員解雇した。私達二人だ。ーーー連絡もしないで、すまない。オリザナダ領からは、夜中に出発して、こちらに向かったので、連絡もできなかった」
「何か、仕事で不都合でも・・?」
「うん、ーーさすが、君は賢い人で助かる。薄々は、気づいているだろうが、ミオが王都に出向く時に、大量の現金を持たせた」
「ーーーーーー」
「王都で、すべて使ってもらう為だ」
「それは、マネーロンダリングですか?」
「それに近い事だ。私は他国との貿易で財をなした。それは知っているね?」
「はい」
「ミオの事は聞いたかね?」
「占いの事ですか?」
「そうだ。ミオが居なくなって、夫婦二人で少しのんびりしようと思い。ずっと、仕事を人任せにしていた。だから、色々な事を、後回しにして、決済をしなかった。イヤ、できなかったと言ってもいい。そんな時、妻の妊娠がわかり、妻をいたわり、家に籠り、二人でのんびりする事にした。今まで働きづめで、こんなにのんびりしたことは、一度もなく、二人で、どんなに喜んだかわからない。ーー今度生まれる子供の事を、ずっと、話したりしていた」
「しかし、妻の妊娠が落ち着いて、生まれてくる子供の為にも、もう一度、稼がなくてはいけないと思い、久しぶりに仕事に復帰した時に、周りの裏切りに気づいたんだ。それは、ミオが居なくなり、道がわからなくなり、戸惑い、仕方なく、1から全て確認することから始めた。ーーーびっくりしたよ」
「それは・・・・?」
「オリザナダ領の領主が、私の土地を、国に譲渡していた。その手続きを、秘密裏に行っていたのは、一番信用していた家令だ。貧しい時から一緒に頑張って来て、誰よりも信用していた」
「え?どうしてそのような事を・・・、プラスムス産業がなくなると、オリザナダ領は壊滅します」
「そうだ。私も、そう、思って貧しい人を助け、雇用を生み、大地を耕し、開発もした」
「地道に、土地を買い、手を広げて行ったと言える。しかし、国とは酷い物で、税金と言う名目で、国の名義になっていた。ミオや君、これから生まれてくる子供や孫たちには、何も、残らない」
「それでも、今でも、オリザナダ領を買えるくらいの預金は、この国にも、他国にもあるが、しかし、今は、すべてが要らないと思える。そのような状況で、妻と二人で、自分たちの最後の望みを考えたら、君たちの近くで暮らす事だった。アイシン男爵とミオ、生まれる子供、孫の近くで暮らしたいと、心から思った。それが、高齢出産のミールの為にも一番いいと思った、」
「だから、すまないが、この屋敷にしばらく置いてくらないか?」
「勿論です。一つ質問ですが、その周りの裏切りは、何時から始まったか、わかりますか?」
「多分、ミオが、オリザナダ領を、出て行ってからだと思う。すべての伝票を照らし合わせた訳ではないが、ミオが居なくなって、道が見えなくなり、もたもたしている所を、突かれたと思う」
「恥ずかしい話だが、今まで、ミオが難色を示す商売に、手を出したことがなかった。それは、ゲン担ぎの様な事で、商売の世界ではよくあることだ。・・・・・だが、ミオに頼っていたことも認めている。情けないが、私は、小心者だ」
「オリザナダ領のショッピングセンターの品物は、どうしたのですか?」
「すべて、外国に売った。人知れずに運び出せる人間は、いくらでも知っている。この国の誰よりも、他の国の内情を、私は、知っていて、ツテもある。明日には、全ても商品は、キレイになくなり、彼らの仕事もなく、そして、食べる物もなくなる」
「出発前に、ヴァイオレット家には、運べる高級品のすべては運び込ませてもらった。金もたっぷり置いてきた。男爵様も元気を取り戻し、私の話を真剣に聞いてくれて、理解もして下さった」
「しかし、出発前に、エミリオ夫人が、ミールの手を取り、泣いていて、本当に心配をかけてしまって、申し訳ないと、アイシン男爵からも話してもらえないだろうか?」
「お義父さん、今は、私も、両親と同じ気持ちです。・・・残念だとしか言えません。許して下さい」と、何故か、アイシン男爵は、頭を下げた。
その時の、プライムスは、アイシン男爵が頭を下げた意味を、考える余裕はなく、椅子に座ったまま眠りについてしまったので、他の使用人たちに、客室へ運んでもらった。
ジュリエールは、アイシン男爵の近くに寄って来て、
「ミール夫人と奥様は、再会を喜び合い、眠りについています。今日は、そのまま二人で寝かせてあげて下さい」
「ジュリエール、僕は、どうしたらいい?--母と同じように何も望まず、愛する人と共に生きるだけで、十分だと思っていた。ミオを大切にして、二人で暖かい家庭を築き、国の為に少しだけ働く・・・、母も僕も、たったそれだけの小さな望みだ」
「前政権で、エミリオ様とアイシン様のお命の保証はなされています。その保証を破った時に、この国には、大きな災いが起きると、先王の遺言も有ります。それなのに、彼らは何を恐れているのでしょうか?」
「坊ちゃま、わたくしが、エミリオ様とヴァイオレット男爵の、ご結婚に反対したのは、彼にはお二人をお守りする力が無いと思ったからです。しかし、命の恩人であるプラスムス様は、全財産を没収され、王都に逃げ込む事になって、オリザナダ領の領民たちは、きっと、ヴァイオレット男爵を頼るでしょう。その時、彼やエミリオ様が、どのように動くかが、今後を左右します」
「いつまでも逃げていては、大切な人は守れません」
「ジュリエール、あなたは、この国で、一番、勇敢な人だ」
「ええ、わかっています」二人は微笑み合い、部屋を出た。
アイシン男爵は、寝室で眠るミール夫人とミオを見て、自分には、守る家族がいる。今までと同じでは、きっといかなくなる。
トハルト家令がやって来て、隣の部屋に、アイシン男爵の寝室を用意したと、話した。
「トハルト、この屋敷の中の人間は、信じられる人達なのか?」と、聞いた。
「私たちも、以前は、プラスムス様のご商売の手伝いもしていました。しかし、メインの仕事は、ミオ様に仕える事で、10人でその仕事を潤滑に行う事が使命でした」
「それに・・・・」
「それに?」
「ミオ様は、ご自分を裏切る人間を、見極めて、私たちに伝えます。だから、エンの事は、不思議でなりません。ミオ様は、どうして、彼女の事を、私たちに伝えなかったのか・・・?」
「昔、裏切った人間が、いたの?」
「はい、いました。ミオ様を誘拐犯に渡そうと手引きした人間です」
「あの頃、プラスムス様は、少し悪い事に手を染めようとしていましたので、どこに行くにもお嬢様をお連れでした。相手も、ミオ様の同席を望み、人質にして、ダンピングを仕掛けようとしたのです。しかし、その前に、ミオ様は、プラスムス様に訴えたのです」




