四、嵐過ぎて、凶兆 - 5
最後に残る疑問は、どうしてメルが触れた時だけ、アルは砂になってしまったのか、だろうか。
今後も魔族化に遭遇しないとも言い切れないので、魔族化攻略にも繋がりそうな話として聞いておきたいところではあるのだが……。
いま聞いてもいいことかなぁ……。
あたしは後ろめたさを感じながらも、一応メルに聞いてみることにする。
「ねえメル。あくまで情報共有としてなんだけど、アルに触れた時のこと、いま聞いてもいい? 無理なら、ずっと後でも全然いいんだけど」
「だからミナ。それは今聞くことじゃないだろう」
レオンに諌められて、やっぱりそうだよなぁ、とあたしは引っ込もうとする。
が、それをメル本人が制した。
「……レオンさん、だいじょうぶです。なんで、しょうか」
声に力もないし、本当に大丈夫なのか?
困惑して、あたしはレオンと顔を見合わせる。
「メル、無理しなくていいんだぞ」
椅子に座って俯いたままのメルに、レオンは優しく声をかける。しかし、メルは首をゆるく横に振る。
「じょうほうきょうゆう、なんですよね?」
レオンにじとっと睨まれ、あたしは「うっ」となる。
「本当に後でもいいんだけど――本当の本当に聞いて平気?」
メルが頷いたのを見て、ためらいつつも、あたしは見えなかった部分をメルに尋ねる。
「メルは、どういう風にアルに触れたのかな、って。あたしの位置からは、その、よく見えなかったから」
あたしの質問に、数拍の後、メルはぽつぽつと答えてくれた。
「じぜんに……おはなししたとおり、せなかから、ふれたんです。ミナさんが、いっていたアザも、みえたので、とどいたので、そこにふれました。いぜん本で、そういうのは、魔術のカクのばあいがあると、よんだので」
メルの説明に、あたしは血の気が引くのを自覚した。
メルは、あたしが話したことを、聞いたことを、忠実に実行していた。その事実に、くらくらと目眩がする。
メルはそこで口は閉さず、俯いてから初めて、あたしの目を見る。その目はあたしを責めているようにも見えた。
「ねえ、ミナさん。わたしがいるから、いけないんですか? だから、アルも、ミナさんも、みんな傷つかないといけないんですか……⁉︎」
「それはダッドが勝手に――っ!」
ダッドがメルに向かって発していた言葉だ。
メルは止まらない。
「わたしがいなければ、おとうさんやおかあさんも、シななくてすんだかもしれない。あのとうぞくたちだって、まきこまれなかったかもしれないじゃないですか。
なんで、なんで、こんなことになるんですか。わたしは、わたしは――っ!」
「メルさん。少し、部屋で休みましょうか」
感情をまくし立てるメルの手をそっと取り、優しく声をかけたのは、アンナだった。
「ツライことを思い出させてしまって、ごめんなさい。少し、頭と心を休ませましょう」
アンナの言葉に、メルはヒクついた。今にも泣き出しそうな顔だ。
「ハンナ、ここは任せていい?」
「いいわよ」
「よろしくね。じゃあ、行きましょうか、メルさん」
アンナがメルを抱きかかえるように立ち上がらせると、瞬く間に姿が消えた。
メルとアンナが消えると、レオンは深々と息を吐きながら椅子に深く腰掛け、ハンナはジロリとあたしを見た。
「だから言ったじゃん」
ハンナが何についてそう言ったのか、その時のあたしは気づけなかった。
が、後で天の丘で夕食の準備をしていた時の会話を指していたのだと気がつく。「言った通り、考えうる限り最悪の結果になっただろう」と、ハンナはこの時、言外に言ったのだ。
あたしは、そんなことにも気づけない程、この時ひどく動揺していたのだ――。
MSA!二章、お待たせいたしました。お読みいただき、ありがとうございます!
前半はだいぶノリノリで書いていたのですが、後半の天の丘の出来事がなかなか納得のいく形に纏まらず、難儀いたしました。
前回はちょっと遊ん――げふげふ、試してみたりして、かなり文字数が増えてしまったのですが、今回は書きあがって見てみれば少し控えめになりました(なってるはず)。
んまあ、正直言いますと、もう少し短くしたいのですが。
第二章は暗いラストで締めたのですが、わざとです。元々、第一章はビギナーズラックも含めてゆるく軽くして、第二章で一気に落とすつもりでおりました。
いい塩梅にミナとメル双方に、精神的ダメージを与えられたかなと思っています。これで三章の執筆に入れるというものです。
アルの件は自分でも苦悩しながら書いていたのですが、設定上あの状態で元に戻せるのはせいぜい創造神くらいなのでどーしようもなかったです。
ただ構想段階ではアルが死ぬのはそのままだったんですが、アルの魔族化は存在していなかったはずなんですが。いつ降って湧いたんでしょうね……?
今回、レオンが戦闘であまり活躍していないなと後から思いましたが、次回きっと大活躍まちがいないデスので、きっと大丈夫です。
第三章では、レオンの事についても少し触れられたらいいですね。
そんな不穏な空気で第二章を終えたMSAは、今のところハッピーエンドの予定ですので、どうぞご安心ください。
僕はハッピーエンド主義ですが、そこに至る過程はいくらでも痛ぶって問題ないだろう? と考えているタイプの人間ですので、そこはご承知おきくださいませ。
さて今回、ミナたち一行に加わった双子の白魔女、アンナとハンナですが、黙ってつったっていれば、本当に間違えそうな一卵性双生児です。性格は真反対。というか、アンナはハンナがああなので、ああいう性格にならざるを得なかったといいますか(汗)
また、白魔女の「フェイ」という種族名は、妖精の名から拝借しました。
黒魔女の「ランダ」の種族名も、インドネシアはバリ島の「魔女ランダ」からお借りしております。どうでもいい余談ですが、某悪魔を召喚する系列のゲームに出てくるランダのデザインがすごく好みです。
他、前回のグールやゾンビなど、この作品に出てくるモンスターや種族は基本的に『幻想世界の住人たち』を参考元にしております。
ちなみに、アンナとハンナが火蜥を飼っているのは、旧版で飼っていたからです。それ以上の理由が今のところなく、リメイク版は正直言いまして活躍の予定が立っていないのですが、とりあえず飼っていることには飼っています。
また、二章タイトルにもある「天の丘」ですが、これの元ネタはマチュピチュ遺跡です。
天に近い場所にある遺跡ってそれだけでロマンじゃないですか。出不精なので実際に足を運びたいとは思わない人間なのですが。
そんなロマンチックさだけで、天使たちの丘のネタ元として使用させていただいております。
ではでは、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。また少しお時間いただきますが、お付き合いいただけますと幸いです。
また、お会いできる日を願って。
二〇二〇年二月 瑞代あや





