デーモンへの取材
「取材・・・?」
ロイは今、新聞社にいる。
昼の街を歩いていた彼は、一人の男に連れてこられた。
その男は新聞記者であった。
「そうです。 あなたの働きを世に教えようではありませんか!」
記者は両手を前に出し、掌を上にして、ロイに語り掛けた。
すぐさまロイは、掌を相手に見せるように片腕を前に出した。
「断る。」
即答だった。
腰を椅子から離し、立ち上がった。
そして出口へ向かおうとする。
「ま、待ってください!!」
記者は慌てて呼び止めた。
しかしロイは足を止めようとしない。
記者は慌てて椅子から立ち上がり、ロイを追いかけた。
出口にたどり着く前に、ロイを捕まえることに成功はした。
「これで少しは世間での評判が良くなるのですよ?」
ロイの腕を両手で掴みながら記者はそう言った。
するとロイは、少しだけ顔を横に向けた。
「必要ない。」
そう一言だけ言い放った。
人間と悪魔では力の差は圧倒的である。
記者を連れたまま、出口から出た。
廊下に出たにもかかわらず、まだ記者は腕を掴んでいた。
だが遠慮なくロイは歩みを止めなかった。
「お願いです! 最近あまりいい記事が書けなくて困っているのですよ!」
記者はついに本音を漏らした。
しかしロイは止まらなかった。
「ならエロい記事でも書けばいい。 男性の読者が増えるぞ。」
「そんなのダメに決まってるじゃないですか!!」
ロイは冗談を言いながらも、やはり歩みは止めない。
記者は、階段を下りられても、外に出られても、腕から手を離さなかった。
「ならお話だけでも・・・!」
「断る。」
記者は頑なに腕から手を離さない。
ロイもずっと歩みを止めていない。
ついに大通りまで来てしまった。
「おい、周りから変な目で見られてるだろうが! 離しやがれ!!」
ロイの言葉通り、周りの視線がロイと記者に向いていた。
それもそのハズ。
悪魔と人間がもめているからだ。
「嫌です。 あなたのことを記事にするまで離しません!!」
ロイは一旦歩みを止めて、記者を振り払おうと腕を激しく振った。
しかし記者は全く離そうとはしなかった。
「ちっ、仕方ねえ・・・。」
その言葉を言ったと同時にロイは掴まれていない方の手で拳銃を取り出し、記者の顔に狙いを定めた。
「えっ・・・。」
記者の小さな声の次には、銃声が響いた。
ロイが拳銃の引き金を引いたのだ。
記者はついにロイの腕から手を離し、後方に吹っ飛んだ。
そして地面に倒れた。
その光景を見た周りの人は驚愕しており、悲鳴を上げる女性もいた。
ロイはというと、拳銃を仕舞ったと同時にその場から走って逃げた。
十秒も経たない内に、大通りから姿を消した。
すると、撃たれたハズの記者は目を開き、ゆっくりと体を起こした。
「キミ、大丈夫かね?」
「え、ああ、はい・・・。」
記者は頭や体を触ったが、血などは一切出ていなかった。
周りの人は救急車を呼ぼうとしたりしていた。
だが、一人の男性が止めた。
「落ち着け。 ロイの拳銃はデビルを殺すためのモノだ。 人間には効かない。」
その言葉を聞いて、記者は立ち上がった。
そして男性に聞いた。
「人間には効かないって、どういうことです?」
「前に聞いたことがあるんだが、ロイの拳銃の弾丸は鉛とかではなく、自身の魔力で生成させているらしい。」
「魔力・・・?」
「ああ。 だからデビルにしか効かず、人間に当たっても吹っ飛ばされる程度で済むらしい。」
男性の話を聞いて、周りの人は「へー」という声を漏らしていた。
記者はというと、とても興味深そうな顔をしていた。
一方、ロイは自宅へ帰っていた。
「ロイ、どうしたのそんなに慌てて・・・。」
アリスが慌てて帰ってきたロイを玄関で迎えていた。
「い、いや、なんでもない・・・。 ただいま。」
そう言って、ロイは玄関から上がり部屋のソファに向かった。
しかしアリスがロイの肩を掴んで止めた。
「ダメ、ちゃんと手を洗ってからだよ。」
「あ、ああ、そうだったな・・・。」
ロイは言われた通り、洗面所で手洗いを済ませた。
そして今度こそ部屋のソファに座った。
「ふう・・・。」
ロイは思わず息を吐いた。
先ほどの記者のせいで、だいぶ疲れてしまった。
「大丈夫? 帰って来てから様子がおかしいけど・・・。」
アリスがロイを心配して、近寄ってきた。
中腰になってロイの顔を覗いている。
「いや、ちょっと厄介な奴に追われててさ・・・。」
「厄介な奴・・・?」
ロイはアリスに先程までに起こったことを話した。
すると、アリスはクスクスと笑った。
「なにが可笑しいんだ・・・?」
「だ、だって、ま、まさかロイが発砲するほど苦戦するなんて・・・。 」
アリスは笑いを抑えようと必死になっていた。
「デビルは殺せばそれで終わりだから、人間の方が厄介だ・・・。」
ロイはガクッと肩を落とした。
その後は夜中になるまで家の中で大人しくしていた。
そして、夜中になった。
今日も夜の街を駆ける二人。
いつも通りロイは屋根の上を、アリスは普通に通りの道を走っている。
アリスを狙った最下級デビルを狙撃し、接近して射殺する。
その後アリスを隠して、騒ぎを嗅ぎつけた最下級デビルを次々に駆除する。
最終的に数十匹の最下級デビルを駆除し終わり、一服する。
いつも通りだ。
「他のデビルの気配は・・・?」
「一体だけ感じるのだが、なんか変だな・・・。」
「変・・・?」
タバコを吸いながら、再び気を集中させる。
アリスは黙ってロイの言葉を待っていた。
数十秒後、ロイはタバコを手に持ち、言葉を発した。
「これは、もしかして・・・。」
「どうしたの?」
ロイはタバコを携帯灰皿に入れ、後ろを向いた。
「アリス、少し手伝ってくれ。」
ロイはそう言うと、走り出した。
アリスも走るロイを見て、後を追いかけた。
ロイは街中を走り回った末、ついに最後の一体を見つけた。
そのデビルは、ただの最下級デビルだった。
だが、おかしな動きをしていた。
ガレキの穴の中に顔を突っ込んでいたのだ。
「あれ、なにしてるの?」
「今に分かるさ。」
ロイは拳銃を取り出し、音を立てずにデビルへ接近した。
デビルはガレキの穴の中に夢中で全く気付かない。
アリスはロイの邪魔をしないように、息を殺している。
数十秒後、ロイはデビルの背中に数発弾を撃ち込んだ。
デビルは黒い煙と共に消滅した。
「・・・出て来い。」
ロイはガレキの穴の中に向かって、言い放った。
すると、ガレキの穴の中から誰かがロイの言葉に従って出てきた。
アリスはデビルの消滅を確認し、ロイに近寄った。
「いやあ、凄いですねロイさん。」
「やっぱり、てめえか・・・。」
ロイの目の前に現れたのは、昼間の新聞記者だった。
首からカメラを提げていた。
「運よくデビルの顔をカメラに収められましたよ。」
記者は笑顔で答えた。
先ほどまで殺されかけていた人間の顔ではなかった。
「言いたいことはそれだけか・・・?」
「はい・・・?」
すると、ロイは記者の顔面目掛けて思いっきり殴った。
記者は吹っ飛び、ガレキにぶつかった。
「ちょ、ちょっとロイ・・・。」
「下手をすれば死んでたんだぞ・・・! 笑ってんじゃねえよ!!」
ロイは珍しく、本気で怒っていた。
アリスも、珍しいものを見るような顔で見ていた。
「確かにそうですが、得たものが大きかったので、「恐怖」より「喜び」が勝ってしまったのですよ。」
体を起こした記者は殴られた頬を抑えながら言った。
ロイは記者に近付き、襟を掴んで持ち上げた。
「お前、もしかして俺に会うために夜中の街にいたのか・・・?」
「鋭いですね。 だって、この方法しかなかったんですもの。」
記者は全く反省の色を見せず、ヘラヘラ笑っている。
そんな記者を揺らしながら、ロイは言葉を発した。
「ふざけるな! たったそれだけのことで、お前はこんな愚かな行為をしたのか!!」
「「それだけ」・・・? あなた、今「それだけ」と言いましたか・・・?」
ロイの言葉に反応した記者は、先程までヘラヘラしていた顔から、怒りの顔に変わった。
そしてロイを見下ろしながら言葉を続けた。
「僕たち記者にとっては、その「それだけ」がとても大切なことなのですよ?」
「なんだと?」
「あなた、全く人間のことを"分かっていない"ようですね・・・。」
「なっ・・・。」
ロイは記者の言葉に動揺し、腕の力が抜けてしまった。
持ち上げていた記者は落とされ、地面に尻餅をついた。
やや痛がりながらゆっくりと立ち上がり、着ていたコートを叩きながら、喋り出した。
「私たち記者は、情報収集に命を懸けております。 他の人たちも色々なことに命を懸けていたりします。 一見くだらないと思うようなことにもね。」
「・・・。」
記者の発言をロイは黙って聞いている。
さっきまでと立場が逆転していた。
「他人から見れば「それだけ」のことでも、その人にとっては大切なことである可能性も十分にあります。 ですから、言葉には気を付けることですね。」
「・・・。」
ロイは項垂だれてしまった。
普段なら全く気にしない彼だが、分かっていたハズだったことが間違いだったのかもしれないという衝撃で酷く落ち込んでしまった。
しかし、その直後に後ろからアリスが記者に近付き、強烈な平手打ちを放った。
記者は一瞬よろけて、叩かれた頬を抑えながらアリスの方を向いた。
そしてアリスは大声で怒鳴った。
「さっきから聞いてれば偉そうに!! 確かにあんたにとっては大切なことかもしれないけど、どっちが正しいかと言われれば間違いなくロイが正しいわよ!!」
「アリス・・・。」
ロイは怒り顔のアリスを見つめていた。
そしてアリスは、まだ言葉を続けていた。
「"命を懸ける"ってのはね、それほど本気って意味なだけよ! 本当に死にそうになってどうすんのよ!! あんたのようなバカな奴のせいで、ロイがいつも苦労してるのよ!!」
「アリス・・・。」
「言葉に気を付けるのはあんたの方よ! ロイは人間にどんなに嫌われようが、どんなに恨まれようが、絶対に人間を嫌いにはならないし、助けてくれるのよ!!」
するとアリスは記者に蹴りを食らわした。
そして倒れた記者に馬乗りになって、記者の顔を殴り始めた。
「あんたにロイのなにがわかるのよ! なぜ、あんたなんかにロイが叱られなきゃならないのよ!! 文句を言う前に、ロイにお礼を言いなさいよ!! こうしてあんたが今生きていられるのはロイのおかげなのに・・・!!!」
「アリス・・・!」
ロイがアリスの腕を掴み、止めに入った。
アリスの手は赤くなっていた。
"人を殴る"という慣れてない行為をしたからだ。
アリスの顔は赤くなっており、目からは涙が流れ出ていた。
「もういい、帰ろう・・・。」
「・・・うん。」
ロイはアリスを立たせた。
地面に倒れた記者は、顔が少し腫れていた。
ロイは記者を抱えて運び、建物の壁を背にして座らせた。
「デビルの気配はもうしない。 位置的に風があまり当たらないところだから、ここに置いてても大丈夫だろう。」
アリスは黙って頷いた。
あまり元気がないようだ。
「大丈夫だって、俺は気にしてない。」
「・・・私は気にする。」
「・・・そうか。」
ロイはアリスの頭を軽く撫でて、歩き出した。
アリスも遅れずにロイの後をついていった。
「なあ、アリス。」
「なに・・・?」
「・・・ありがとうな。」
ロイは優しい声でアリスにお礼を言った。
その言葉に、アリスは少し微笑んだ。




