ギルドマスター再び
…
「向かって正面の部屋がギルドマスターの部屋です。左側の部屋は会議室、右側の部屋は臨時の宿泊部屋。私はまだ仕事あるのでこれで」
「ありがとうございます」
「いえいえ、それでは」
丁寧な説明にきちんとお辞儀を一つして返す。
スクエアレンズの眼鏡を掛けた受付の人との別れ、奥の部屋へと進む。
見渡してみると──ううむ、やはり広い。
会議室はなんとなく分かるが臨時の宿泊部屋まであるとは。
また、通路にも彩り鮮やかな絵画や、注意書きなどがつらつらと書かれていた。
「〝面倒事を起こすな〟、〝無理な仕事は受けるな〟、〝てめぇに出来ねぇ事をさせるな〟。以上を守れない奴はギルドを追放する……うーむ、当たり前でとても分かりやすい……いやまて文字可愛い」
荒々しい文章と違い、綺麗で可愛い丸文字でこのギルドの決まり事であろう文字が見やすい大きさで書かれていた。
まて、まさかと思うけどファウストさん直筆……よし、考えるな。
スライドショーのように今現在の思う事を流し、ギルドマスターの部屋のドアを叩く。
「失礼しまーす。カナタです」
「おう、来たか。入れ」
相変わらずの低音響く、しっぶい良い声がドア越しに聞こえた。
ううむ、ドア越しなのにこの音圧。良い声だなぁ。
ドアノブを引き、金属の奏でる心地よい音が耳へと入ると、そこには──
「どうもファウストさ──どなたですか?」
灰色の短髪を生やし、髪と同じ色の整えられた口髭と顎髭が似合う渋い男性がそこには居た。
広めの机に僅かばかり乗る書類を数枚広げ、腕組みしながら、フォックス型のいかつーいサングラスを掛けてこちらを見ている。
とてもガタイは良く、人化したヴィレットと同じくらい。
…あの……怖いんですが?部屋間違えました?
「ああ、悪い。お前にはこっちの方が分かりやすいか──」
ぽひん、と可愛いらしい音と共に真っ白な煙がその男性の周りに一瞬包まれたと思ったらそこに居たのは──
「──悪いな。この姿だと書類仕事には不向きでな。良く来たカナタ、俺のギルドへようこそ」
「おお、ファウストさん。人化出来たんですね」
縁に金の装飾が施された群青色の上着を羽織り、サングラスを掛けたネズミの獣人、ファウストさんがそこにいた。
確かにこの姿で書類仕事は無理ですね。読むのも大変そうだし。
「ヴァサーゴやヴァネッサの人化と少し違うがな」
「違うとは一体」
「まぁ、こっち座れ。立ち話もなんだろ」
それは確かに、とファウストさんがさっき迄座っていた机から離れ、その右側、俺から見て左側にある客席っぽいソファとテーブルの場所へ案内してくれた。
ぴょいーんと机の上からソファへぽすん。
青と白のギンガムチェックのカバーがされたふかふかのソファへと……あの、センスが可愛いんですが?
ファウストさんの人化状態に驚いてしまってスルーしていたが、ギルドマスターの部屋はそこそこ広い。
例えるなら校長室見たいな広さ。
あくまで広さだけ校長室に似ているだけで中身は至ってシンプル。
左右に窓があり、隅に棚が少しと机、ソファ、テーブル、そして多少の筋トレ道具。
なんか反対側にボロボロの木人っぽいのとか天井から伸びる丈夫な縄もあるし。
さてはファウストさん、気分転換に筋トレしているな。
「俺のは〝変化〟の応用だ。お前が異世界人なら狐や狸とかが人を化かすとかは聞いた事があるだろ」
「ええ、まぁ。実際に見た事はないですけど」
「ヴァサーゴとかが使う人化は気を使って骨格を変えるもんでな。俺見たいな種族には物理的に無理だ」
ああ、なるほど。ファウストさん見たいなサイズの種族が骨格を変えたぐらいで俺のような人族みたいには成れないよな。
「〝変化〟に使うのは魔力だ。俺は幸いその容量が多くてそっちを使ってる。自分よりデカいのになるにはそれ相応の魔力が必要だがな」
ふすー、と鼻息で一息つき、ソファにある青と白のギンガムチェック色の丸いクッション身体を預けて腕組みをしながらファウストさんが説明してくれた。
なんだこの低音と仕草のギャップ癒しは。絶対ファンがいる奴だコレ。
「ヴァサーゴさんとは知った中なんですね」
「おう。戦友だ。ちょっと待ってろ…よっと──」
ぴょいーんと飛び上がり、再び人へと変化したファウストさんが部屋の隅にある艶やかな木製の引き出しを漁る。
しかし、シンプルな部屋だな。てっきり壁に書類べたーだったり、酒瓶ころころしてると思ったけど……
「まずはコレが報酬の百万バイスだ」
とすん、と薄緑色の紙束…これがこの世界の通貨である〝バイス〟、それが俺の目の前のテーブルに置かれた。
「アルメスの奴からはこの世界の通貨の事は教えて貰っただろう?確かお前達の世界でも似た物を使っていたとはこちらも聞いている」
「ええ、価値的にはほぼ同じと……それをこんなに?」
百万バイスとは……早い話が〝約百万円〟だ。
ルギくんに付けられていたあの壊れた手錠を渡しただけでこんなに貰っていいのだろうか。
「連中等は全く足掛かりを出さなかった時の情報だったからな。それにお前……仮にも人の命を救ったんだぞ?俺はもっと渡してやっても良いと思うが…国王から『そんなに大金を急に渡されても困るだろう』と言われてな」
ファウストさんの言葉にそういえばと頭にルギくんののほーんとした顔が浮かんだ。
そうか、現状はルギくんを助けた上にその村も助けてさらに奴隷商の情報提供をしたのか俺は。
ルギくんが無事で良かったとしか思っていなかったから……えらい大変な事をしていたんだな、言われて改めて思ったわ。
あとハウィさん、十分百万でも多いんですが、もう困るのですが。
「あの、十分大金なんですが」
「…お前達はどんな世界で生きて来たんだ。…とりあえず貰っておけ」
ふすー、とネズミ姿では無く渋い男性姿でファウストさんが鼻息を零した。
そうですね…大体一万バイスで一月分の食費になる生活ですかね……ではなくて。
「いえこの大金を無事に持って歩く手段が……」
無いのである。サイフ?そんな物はない。リュックとポーチならあるけどばら撒き事件発生してしまうぞこれは。
「ああ、知らないか。お前の腕にも着いてるそのベッセル。〝収納出来るぞ〟」
「なんですと!」
いやまてびっくり。コレそんなに便利な奴なの!?
思わず目ん玉かっ広げて左腕のベッセルを見つめた。
ん、ちょっと待てよ?
「そんな機能は無かったような……」
「うははっ、そりゃあ標準機能だから説明されないのはしょうがねぇよ。この世界の常識って奴だな。お前も眼鏡見てどう使うんですかって聞かねぇだろ」
低いながらも優しい笑いでファウストさんがそう口にした。
なるほどー。この世界での常識だから説明されなかったのか。
常識ってやっぱり、その時、その場所、その状況によって変わるよね。
カナタ
「百万か……食費と宿代とあとは薬…ううむ、やはり食費にほとんど消えるだろうな。稼ぐ手段を……うごごごご」




