そう言えばそんな事をしていた
…
換気させるのが楽そうな、上と下が空いた、木製のスイングドア……分かりやすく言うならばウエスタンドアを右手で押し開けた。
飛び込んでくるのは酒と飯との匂い、それと……薬草…いやこれはそんなにつんとするようなキツイものじゃない。
そうだ、例えるなら心が和むハーブティの匂いが、それらを中和している。
恐らくギルドを利用する人等が不快にならないようにする為の処置なんだろう。
中は──広い。
真正面には受付らしい男性が書類を書いており、左側には丸いテーブルスペースと地下へ続いてそうな階段、右側には厨房の見えるカウンター席と四角いテーブル席があった。
もちろん、少ないが食事している人もいるしテーブルで本を読んでいる人もいる。
受付の奥に階段が見える辺り、二階も同じように広い空間になっているのだろう。
慣れているのか、落ち着いているルギくんとは違い、こんな所が初めての俺とシラタマはきょろきょろとしていた為、先ほど人が入っていても賑わっていたギルドの中は、シン──と、静まり返り、目線が俺たち三名へと向かっていた。
居た堪れない気持ちにたじろんでいると、ふいに女性の声が聞こえた。
「よう、アンタ見かけない顔だね。そこ突っ立ってたらジャマなるからとりあえずこっちおいでんな」
顔を薄ら赤くして俺達に手を振るのは露出の多い、鎧をした黒髪ウェーブのお美人。
ビキニアーマー程ではないが、腕に太もも、そしてかっちりと割れた美しい腹筋が晒されている。
胸元は装甲でがっちりとガードされているのが、彼女は必要最低限の軽装で戦うのだろうと近くに立て掛けてある身の丈程の戦斧が物語っていた。
アマゾネスってこんな感じだったかなーなどと思っていたが、彼女の近くにとてもガタイの良いゴリラの獣人がいたので零れかけた口をつぐんだ。
ゆっくりとした深緑色のツナギをはだけ、腰元で結んでいる為、真っ白なノースリーブが黒く、ごんぶとの体毛とのツートーンになっている。
なにあれ腕が丸太じゃないですか。ひえ。
とりあえずアマゾネスっぽい人の言う通り、出入り口の近くに居てはジャマなのでそちらに移動する事にする。
「……長身で筋肉質、白い毛玉のような魔物を手懐けている…そして…まさかルギくんか…!?」
「……?──ッカルロさん?カルロさんなの!?」
見定めするかのような視線が俺とシラタマ、そしてルギくんへと向かう。
どうやら知り合いらしい。
一瞬、首を傾げたが思い出したようにルギくんがそのカルロと呼んだゴリラの獣人の男性に飛び付く。
泣き付く、というより、また会えて嬉しいという色が強い声色だった。
「無事で良かった。そうか、アンタが〝噂の異世界人〟カナタ殿か。ポプラの姉さん、彼がそうだよ」
子犬のように腰元に抱き付いたルギくんを軽く受け止め、カルロさんがこちらを見た。
「あ、どうも噂になっている見たいで恐縮ですがカナタと申します。このどたまに乗ってる毛玉はシラタマ」
「ふにゅっ!」
わたしです!とでも言ってそうにシラタマがほよんと跳ねた。
なんだろか〝噂の異世界人〟という通り名は。なんか嫌である。
「んぅ?ーってぇと?このガキンチョが…おいおい、本当にあの純情バカのいとこかい!?……全く似て非なる程に可愛い子じゃないかい」
眉間に皺を寄せながら、眉をくにょんとさせてるや、今度はお目々を見開いて驚き、最後には真顔になって言葉を零した。
ころころと表情を変えながら、ポプラの姉さんと呼ばれた女性が真顔で呟くのを見て俺は思わずこう思う。
なんだこの人、外見より可愛いぞ。
「まずはお礼を言わせてくれ。知人を救ってくれてありがとう。ルギくんとはギルド繋がりで顔見知りなんだ」
「ああ、いえいえ。俺のお節介が都合良く運んだだけですよ」
きちりと頭を下げるカルロさんに両手を広げて軽く流す。
凄い綺麗なお辞儀だ、ルギくんの反応もそうだけど、見た目と違って真面目で穏やかな人だな。
「へぇ、確かに〝前に見た異世界人〟とは違ってまともだねぇ。あたいはポプラ。こいつはカルロ。よろしくな」
「あ、ども。よろしくお願いします」
「なっはっは!いいよいいよそんな畏まらんでも!」
自己紹介をするポプラ姉さんにきちんとお辞儀をすると、片手をひらひらと振って笑い飛ばされた。
あ、凄い姉御に似てる人だ。あと名前可愛い。
「ギルドには何か依頼かい?」
「カルロさん、お金が無い」
「ああ、なるほど、把握した」
ルギくん、俺の代わりにとても分かりやすい答えを言ってくれてありがとう。
「今なら丁度人も少ないし受け付けに行けば掛け合ってくれるが……奥の部屋でギルドマスターが待ってるよ。君が来たらそう伝えるように言われていたんだ」
「え、何用でございましょうか……なんかそういう闘いの試験とかでしょうか……」
カルロさんの言葉に冷や汗がじわりと吹き出す。
あの、あれですか、お前にごにょごにょランクを与える代わりにコイツと闘ってもらう──とかですかね。
そんなのいらないですし痛いのやなんですが。
「何故そんな発想に……ギルドに奴隷商の手掛かりを提供してくれただろう?その礼としての情報提供代を渡したいらしい」
「手掛かり……ああ、あの拘束具」
ルギくんと初めて出会った時に付いていた手錠の事だろう。
ゴミを捨ててはいけないと思って拾っておいたのがそうなるとは、これはありがたい。
「おー、あんたもふもふだねぇ。これ食うかい?」
「にゅ!」
いつの間にかポプラ姉さんのいるテーブルへと降りていたシラタマが元気良く答えた。
餌付けされておる。よし、ポプラ姉さんにシラタマは任せよう。
「すんません、この毛玉の相手お願い出来ますか?撫でくりまわすと喜ぶので……」
「ああいいよ。行っといで。そーかー、撫でて欲しいのかー?ほれほれほれー」
「ふにゅにゅにゅー♪」
普通の声よりも半音上がったポプラ姉さんの手によって撫で撫でされる毛玉。
あ、この人確実に可愛いの好きなタイプだわ。手付きがとても慣れてるもん。
「それじゃルギくんも──」
「ああ、呼ばれてるのは君だけだ。ルギくんは私が見ておくから大丈夫だ。こっちに来てくれ」
あらま。俺一人だけですか。ちょっと寂しい。
カルロさんについて受付へと行くと二つ返事で係の眼鏡をした男性が俺を見て口を開いた。
「ギルドマスターが二階でお待ちですのでどうぞこちらに」
「それではよろしく頼む。カナタさん、また」
「行ってらっしゃい」
「うす。そんじゃよろしく頼みます」
…
カナタ
「あれ、そう言えばファウストさんこの階段登ってるのか……?」
ルギ
「カルロさんはもう告白したんかな」
シラタマ
「にゅ〜♪」




