激情
色々辛い事ばかりですが自分の小説で少しでも気分が晴れる人がいれば幸いです。
…
金髪の男──いや、クズ野郎の小剣の連撃が俺の身体を斬らんと迫りくる。
しかし──見える。
ヴィレットと模擬戦をしていたおかげで俺の目にははっきりとその連撃は見えていた。
「オラオラオラ!!どうしたよ!!避けてばかりかテメェ!!」
倒れていた鬼人族の門番の傷からこの小剣には触れない方が良いだろう。
毒が塗ってあるかもしれない。
ならどうするか──蹴り飛ばそう。
「しっ!」
小剣が左から右へと振り切る一瞬だけ動きが止まるタイミングで上半身を倒し、左脚を軸に右脚をガラ空きになったクズ野郎の腹部へと突き上げるように蹴り出した。
鈍い音と右脚へと伝わる確かな手応えがまともに当たった事を示す。
「ッお──ガハッ!!──チィッ!!」
口から体液を出しながらクズ野郎が宙へと飛ばされていく。
だがクズ野郎は空中で受け身を取ると、砂埃を舞わせながら着地する。
「…ブハッ!!……ゲホッ」
「避けてばかりがなんだって?クズ野郎、見えてんだよその程度の攻撃は」
挑発をしてみるがそれと共に疑問が浮かぶ。
この程度であのガタイの良い鬼人族の門番を倒せるのか?……と。
その答えは次の瞬間に分かる事になった。
「……くっくっく…お前如きに〝二つ〟使うとは思っても見なかったんだがよぉ……」
口元を乱雑に腕で拭いながらゆらりとクズ野郎が立ち上がった。
その眼は未だに余裕があるのが見て取れた。
「オレ様はよぉ…選ばれてるんだよ。凡人が一つしかないがオレ様にはもう一つ【属性】があるんだぜぇ?」
クズ野郎の──気配が変わった。
「【無属性】の付与系に加え、もう〝一つ〟」
クズ野郎の身体の周りにある〝現象〟が起き始めた。
その薄汚れた金髪が〝風も無いのに〟ふわりとし、人間からはあり得ない音が〝ある現象〟と共に鳴り響いた。
風もないのに髪が逆立ち始めた…?
そしてこの音と周りに迸る──〝稲妻〟!?
「【雷属性】の身体系もあるん──だよッ!!!」
凄まじい、光の瞬き。弾けるような快音が鳴る。
その時、一瞬の稲妻の放出と共に、クズ野郎の身体がブレた。
気付いた時には俺のガラ空きの腹部へとその脚が突き刺さっていた。
「──っ!!ぐあっっ!!!」
くの字へと曲がった身体が後ろへと吹き飛び、強烈な衝撃が俺の腹部へと炸裂する──〝ように見えた〟だろう。
生憎さっきの苦悶の声は〝俺〟じゃない。
「──ッテッ!!テメェエエエエエエッ!!!!」
後ろへと吹き飛ぶように〝わざと〟飛んで衝撃を逃した俺が前を見ると、〝蹴り出した右脚のスネを抑えた〟クズ野郎がそこにいた。
「──ッぐぅ……テメェ…許さねぇ…!!ぜってぇにぶっ殺すッ!!!」
抑えた右足のスネの服は破れ、血がじわりじわりと周りを浸食していく。
クズ野郎が俺の腹部に当たる瞬間──俺はそのわざわざ射程範囲に入ったそのスネの皮膚を〝ちぎって〟やった。
「──十二箇所だ」
「あ゛あ゛ッ!?」
俺の放った言葉が理解出来ていないクズ野郎はその右足から放たれる痛みを誤魔化すように激昂した。
……なんだ。詳しく説明しないと分からないか。
「十二箇所だ。ルギくんにあった怪我の数だよ」
ルギくんを手当てする時に確認したその怪我は打撲だけに収まらなかった。
打撲を始め、切り傷が様々な場所に残っていた。
そのうちの大半は治りかけていたがそれは彼が【鬼人族】と言う種族故の治癒力のお陰だろう。
「ハッ!それがどうかしたのかよ……強者が弱者をいたぶって何が悪いッ!!!」
ほんとに救いようのねぇクズだな……救う気もおきねぇけど。
「今からその数だけおめーを殴る。その一発は風評被害を受けた俺の分だとでも思え」
右の拳を左手で包み、骨を鳴らす。
両手首を回し、骨を鳴らす。
首を左右に倒し、骨を鳴らす──等々。
全身の関節と言う関節に力を入れて動かし骨という骨を鳴らす。
小気味の良い音が複数聞こえると共に、自分の意思が澄まされて行くような気がした。
これは俺のルーティン…集中をする為の儀式のようなものだ。
「虚仮威しのつもりかぁ……?はんッ!偶々攻撃が当たった程度で調子コイてんじゃねぇぞッ!!出力強化ッ!!!」
ただの威嚇と受け取ったクズ野郎は声を吐き捨てるようにそう叫ぶ。
身体に纏う小さな稲妻の量が増し、電気が空気を叩く音が辺りに響く。
──ッ!!!
クズ野郎の居た地面が抉れ、凄まじいスピードで俺の首元目掛けて小剣を繰り出す。
稲妻を前身に纏う副産物か、その小剣にもそれが付与されていた。
ああ──そう言えば忘れてた。
「──ッ!?──何ィ!!?」
小剣が無防備な首に触れようしたその時、〝忘れてた技〟をしてそれを自分に掛けて下に避ける。
「わりぃな。〝まだ身体強化〟すらしてなかったわ」
目標を失った身体、ガラ空きの腹部に握りしめた右拳を突き上げた。
クズ野郎の腹筋へと放たれた俺のアッパーが鈍く、重い音が打ち響く。
「──ッァ!!!」
声にならない叫びがクズ野郎の口から吐き出され、身体の動きが止まった。
がしゃりとクズ野郎の手から小剣が抜け落ちた。
「──強者が弱者をいたぶって何が悪い──だっけか?」
不意に口元からその言葉が俺から溢れた。
いや、そう身体が口に出していたのかも知れない。
だらりと力の抜けたクズ野郎の胸ぐらを左腕で鷲掴み、俺は怒り共に叫んだ。
「なら──おめーがそうなるのも通りだよなぁ!!!」
俺にはそんな趣味は無いが──あんな良い子をいたぶるこのクズ野郎は──俺が許さん。
…
─── 一方、村の中では───
「貴様……ゲホッ…この先には行かせんぞ……!」
ふらつく身体を自身の背丈と同じ、白鞘の刀を杖代わりに鬼人族の老人が目の前の男に立つ。
藍色の着流しに、雪駄。
体格は健康体であれば大男に分類されるであろうその身体は老人とは思えない程高く、引き締まった体格、眼光を宿す。
しかし、今はその〝健康体〟では無かった。
「病に冒されたご老人には悪いが──これも仕事でね。大人しくそこを退いてもらおうか」
褐色の、スキンヘッドに整えられた顎髭を生やした男が老人へと促す。
奴隷商である彼には分かっていた──その後ろの建物に子供等が居るという事は。
「ぬかせぃ。病に冒されていようが若き光を摘ませる訳にはいかんわ……!」
刃をゆっくりと抜き放ち、老人は眼前にいる奴隷商へと構える。
村の他の連中は既にやられた。
あの馬鹿弟は口だけだったし、その贔屓していた自慢の息子もこの男やその従者によって既に倒されてしまった。
鷹を括っていたあの馬鹿共は腐っても鬼人族の戦士。
それを倒せるのは我が友か、その息子ぐらいなものだ。
だが──この男…只者じゃない。
「老人はこの村でもかなりの強さと見た。様子見はやめておこう。こちらも時間が少ないのでね」
閃光が走った、あるいはそう見えたのかも知れない。
鋭い刃物がかち合うような、剣戟の音が鳴り響いた。
「──ふむ、強いな」
「──ッ。貴様……本当に人間か……素手で儂の刀と打ち合えるとは」
そう、スキンヘッドの男はあろうことか老人の剣戟を素手で応戦していた。
「生憎普通じゃないんでね。──おや、この反応は──」
戦いの最中、男は左腕に付けた秒針の無い時計のような物の反応に気付いた。
そしてその正体はすぐに分かる。
『──!!?じいちゃん!!!大丈夫か!!!!』
頭に毛玉を乗せた白髪、褐色肌の少年の声が後方から聞こえてきた。
ああ、悪い事は続く。無常にも形、時を合わせるように。
『ルギ!!!来てはならん!!!!──ぶふッ!!』
刹那の時だった。だが確かにそれは老人に〝隙〟を生んだ。
老人の腹部には深々と男の拳が打ち込まれていた。
「卑怯などとは思わん。俺は既に汚れた身でな」
どしゃりと老人の身体が崩れる。掌から刀が溢れ落ちる。
老人は腹部からの激痛を堪えながら愛する孫へと言葉を放った。
『ルギ…よ…!逃げるんじゃ……ッ!!』
「好都合だな。お前はあの時逃げた奴か」
スキンヘッドの男は無常にもまた少年を捕らえる事にした。
その方が早いと思ったから。
だが───男は彼の【能力】と…その頭にいる毛玉の【能力】を知らなかった。
その───ぶっとんでくる毛玉の本領を。
「にゅあーー!!!!」
「なんだこの毛玉は──ぐおっ!??」
毛玉を弾いたその刹那、突然の重さに男が膝を着く。
まるで自分の身体が重くなったかのようなその現象に。
だが、その現象に意識がいっていた男は気付かなかった。
左腕に付けた時計のような物の──呼出しに。
タイムリミットまで──あと少し。
カナタ
「ふるぼっこだドン」
シラタマ
「ふんにゅっ!!」
ルギ
「真面目な場面なのに色々台無し」




