十分凄いぞ
きゅ、給料が…おのれコロナめ……
ホワイトデー?知りませんなぁ……
…
『ん゛に゛ゃあああああああああ!!!!』
『慣れるのだぼーず。ほれ、景色の綺麗な事綺麗な──』
『無理ィ!!』
猫のしっぽを踏ん付けてしまったかのような悲鳴を上げるルギくんを宥めようとしたがぶった斬られてしまった。
いつものぱっちり三白眼も、もぎゅっと閉じられ頑に開けようとしない。
まさか高所恐怖症なのでは。
『なぁにをそんなに怖がってんだよぼーず。奴隷商から逃げ出す根性あるくせにどうしたぃ?』
『何言ってんだよぉ!!!!この速度でぶつかったりでもしたら死んじゃうだろぉ!!?』
『…ああ、そっちの心配か』
『何納得してんだよぉ!?!?』
きゅぴーと擬音が出ているかのような涙目で叫ぶルギくんを余所に一人で納得。
そういえば今の速度は瞬動程──とはいえ原チャを飛ばしたぐらいの速度は出ているんだったなーと。
うーん、小さい時に田舎のじいちゃんの原チャに乗せてもらった思い出があったなー、懐かしや。
『良い子は真似しちゃダメだぞ!!』
「にゅ!!」
『いきなり何言ってんだよぉ!?前!!前前!前見てぇ!!!』
虚無へとキメ顔で語る俺に乗るシラタマとは違い、凄まじい速さとなかなかの高さによる恐怖に支配されたルギくんにはこの突然の行動は理解出来なかったようだ。
そんでルギくんの注意の言う通り、俺達の目の前にはなかなかの太さの大木が迫り来ていた。
きゅぴぴーと泣いては左肩の服をぐいやぐいやと引っ張って訴えるルギくんを他所に、俺は至って落ち着いていた。
宙へと飛び上がっているこの衝突必至のこの状況下、己の右脚を後ろへとやり、気を巡らせ滾らせ、力を込める。
弓が糸引くように貯めた力を衝突の刹那──その力を解き放つ。
その瞬きの間に響くのは、けたたましい程の轟音。
俺の身体の幅程はありそうなその大木は唸りを上げるように蹴り出した方向へとそってへし『折れ』た。
『はぁああ!?!?』
『いっけねぇ。やっぱりよそ見はいかんのぉ』
よそ見運転は行けませんねぇ。運転すらしてねぇけど。
んぴーと今度は騒ぐルギくんをほっといて反省。
大木に実っていたであろう実らしきものがあちらこちらへと散らばっていく。
それに気付いたシラタマが二つ鳴いて頭の上で揺れる。
「ふにゅー。にゅ?」
とれたー、食う?と身体の一部を伸ばして目の前へと見せるこの食欲毛玉は空中で散らばった果実を取ったらしい。
頭の揺れはコイツが果実を取ったせいだろう。
檸檬にも似た形だが熟れた蜜柑のような橙色をしたこの果実はモカレミ。
蜜漬けにされた柑橘系の程良い甘酸っぱさと粘度のある舌触りは老若男女に人気でおやつにもお酒のツマミにもなる。
もちろん食用でドライフルーツにすると甘味ではなく酸味が増し、ちょっとした飲み物に混ぜると良い疲労回復を促してくれる。
ちなみに姉御ことヴァネッサさんの好物でありこの知識も受け売りである。
『ないすきゃっちシラタマ。食っていいぞー。ルギくんも食う?』
『平和かっ!!』
『じゃあ全てシラタマの胃袋行きに──』
『食べるけども!!!人間かよアンタッ!!?人族が身体強化無しの生身でモカレミの木をへし折るなんて聞いた事ないよ!!!』
食うんかい、というツッコミは置いとくとして。
ルギくんも言った通りモカレミの木は固く、木の繊維が複雑に絡まったこの世界独特の木の一種で建築材は基、乗り物や道具にも用いられる程の物らしい。
ううん、気で強化したから毛程も痛くないんだがこれもヴァサーゴさんの修行の賜物だなぁ。
『頑張った!』
『ただの頑張りで出来るかっ!!』
怒られてしまった。何故だ、嘘はついていないのに。
『まぁまぁ、これで分かったろ。大抵の事は俺とシラタマが守るから食って落ち着け、な?』
よっぽどの事なきゃなんとかなるだろう。
ヴィレットぐらいの実力の奴が出てこなければ。
組手で本気出す筈もないアイツの実力は……高い。
【魔眼】も使って無かったし使ってたら俺なんて傷を付けれたら良い方だろう。
これから先、そんな奴が出てきたらどうなるか───いや、今考えてもしょうがない。
まずはルギくんを助ける、それを果たそう。
『……分かったよ。あんなに容易く折られちゃなんも言えねぇや』
息を吸い込み、己を落ち着かせるように鼻からそのわだかまりを伴った呼気を静かに零すとルギくんが折れた。
『何だよルギくんなら大抵の木なら出来んじゃねぇのか?』
『オレは【忌み子】なんだよ。鬼人族特有の怪力や能力は持ってない。…あむっ』
『【忌み子】?ルギくんの仲間もおんなじ白髪とかじゃねぇのか?あ、シラタマ俺の口に一つくれ』
「にゅ」
シラタマからにゅみーんと伸びた身体経由でモカレミの実を頂く。
皮ごと噛み締めると広がる甘酸っぱさ、金柑を蜜漬けにしたような甘いけどももう一つ……そんな風味が堪らない……美味い。
『他の奴らは金混じりの黒髪に赤肌か青肌だよ。怪力や能力の代わりにオレが授かったのは──』
その刹那──しゅるしゅるとした音が耳元から聞こえると思うと、白い糸と共にモカレミの実が目の前に〝ぶら下がって〟いた。
『──この糸を出す能力だけ。気持ち悪りぃだろ?』
その笑った声は何処か寂しげだった。
何を思って〝ぶら下げた〟のか。
ならば俺の答えは──
『頂きまー……ふむ、ふんまいふんまい!』
美味しく頂くに限る!
『いや、アンタお構い無しかよ。何となく知っててやったのはあるけど』
『…んぐんぐ。なぁに言ってんだ便利な能力じゃねぇか!俺の能力は【無属性】の【身体系】だぞ?夢もへったくれもねぇ脳筋だよハッハッハ!!』
糸出せるなんてすげぇじゃねぇか。
脳筋の代表格の二つ揃えた俺はなんてただのぱんぴーよ。
『ちなみにこの毛玉は【重力属性】の【付与系】だぞどう思う』
『うん、なんかバカバカしくなって来た』
いや全くだよこのどたまの上で「ふんにゅ」とドヤ顔してそうな毛玉を殴っていいぞ。
『その糸の強度はどんくらいのもんなんだ?さっきくらいので限界?』
『普通に出したら俺の体重の倍かな。魔力を込めればそれに比例すると思う』
ええ、めっちゃ強いやん。あの細い一本でルギくんの倍の体重引っ張れるのかよやばくね。
『よし、村潰すか』
「ふにゅ」
『気持ちは嬉しいけどやめて!?』
止められてしまった。
優しい子じゃのうルギくんは。
…
その後なんどか雑談をしながら少し経つと、目の前に小さな建物達が見えて来ていた。
『見えて来たぞ。アレか?』
『ああ、アレがオレの居た──!?』
村が見えるなり言葉に詰まるルギくんの意味が分かるのは早かった。
『俺にも見えた。門番が──倒れてるな』
どうやらまた一波乱ありそうだ。
カナタ
「しまった!ドライフルーツ用に残さねば!!」
シラタマ
「にゅ〜」
ルギ
「もう無いって」




