第550話【さようなら】
アグリスとの決戦からかなりの時間が経った。
エルガンディはレグの支配から解放され、ヨコアナに避難していた人々はそこへ帰還した。
シエルグリスは無くなってしまったが、エルガンディの被害は極めて少なく、人が再び住むのにそう時間は必要なかった。
そして……
「リベカちゃん。シエルグリスがなくなるって本当なの?」
市民たちが往来するエルガンディの広間で休憩していたリベカにミオンが聞いた。
木製ベンチに座るリベカは小さく頷く。
「本当です。レイゼがそう決めました。シエルグリスを復興させるよりエルガンディでまとまった方がいいと」
「ふーん……」
「やはり嫌ですか?」
「べつに」っとミオンはリベカの隣に座る。
「ただレイゼちゃんにとっては母親の形見みたいな国だったから、ちょっと意外だった。わりとあっさり諦めるんだなって」
「いえ、かなり悩んでましたよ。ただ……国を再興させるには莫大な時間と資源が必要ですから」
「エルガンディ側もよく受け入れてくれたね」
「エルガンディは精鋭こそ多いですが、圧倒的に人口不足でしたからね。そもそもエルガンディとシエルグリスの関係は良好でしたから、それが功を成したのかと」
「そっか。まぁレイゼちゃんが決めたなら何でもいいか」
そこからしばらくミオンとリベカは街中の声と小鳥の囀り、そして川の流れる音を聞いていた。
そして思い出したようにリベカはミオンに聞く。
「ミオン。ネオのことは聞いてますか?」
「聞いた。ゼクード・カーティス・ネオでエルガンディ最高戦力【三大騎士】になったんでしょう?」
エルガンディとシエルグリスの戦力をまとめ、そして抜きん出た三人の騎士が最高戦力として選ばれた。
この三人に異を唱える者は一人もいなかった。
もちろんミオンも。
「嬉しいですか?」
「べつに……」
興味なさそうにそっぽ向くミオンにリベカは溜息をもらす。
「まったく……もう少し誇ってあげたらどうです? あなたの肚から生まれた子なんですよ?」
ネオの事を言っているらしいリベカに、ミオンは自分のお腹を撫でて過去を振り返る。
「……子供って凄いわよね。ううん、子供って言うより男の子が、かな? あんなに小さかったのに、気づいたら私より大きくなってて、私より力が強くなってて……」
本当にこのお腹の中にいたのかと疑いたくなる。
リベカもそれは同意らしく頷いてきた。
「女の子はともかく、男の子は母親なんてすぐに抜かしちゃうみたいですね。カティアさんが言ってました」
「カティアか。あの人とは話が合いそうね。今度食事にでも誘ってみようかな」
「いいんじゃないですか? もう同じ国に住んでるんですし。お互い男の子を持つ者同士『息子自慢』に花を咲かせてみるのもいいでしょう」
『息子自慢』か。
やったことないな。
「ふふ……そうね。そういうのもいいかもね。そういえばレイゼちゃんは? 朝から見ないけど」
「レイゼならロジェールを連れてセレンさんのもとへ行きましたよ」
※
「結局またエルガンディに帰ってきたなぁ」
どこか感慨深くローグが呟いた。
空き家になってた我が家。
そこに再び住むことになるとは。
しかも今度は母リベカと妹エルジーも一緒だ。
父さんが生きていれば死ぬほど喜んだだろうな。
母リベカもよくこの家に住むことを決意してくれたと思う。
ああ見えてもう父のことは許してるのかもしれない。
母と妹とこの家で住むことができるのは嬉しいが、もっと嬉しいのはレグナたちとまた一緒に仕事ができることだ。
「いいじゃねぇかローグ。むしろエルガンディもシエルグリスもそこまで人口が多いわけでもねぇのに、今まで一緒にならなかったのが不思議なくらいだぜ」
レグナの言葉に隣のリイドが肩を竦める。
「そんな簡単な話じゃなかったんだよ〜。故郷ってのはなかなか捨てられない物だよ。理屈じゃないんだから」
すると今度はアルベールが腕を組んで頷いた。
「そうだな。現に今でもシエルグリスの再興を願う市民もいるらしい。エルガンディは嫌だってな」
「そうか……やっぱりみんながみんな納得してるわけでもないのか」っとローグ。
となると母リベカはその人たちの説得に尽力しなければいけないのか。
なんとか手伝いをできないだろうか?
考えているとレグナが口を開く。
「あそこまで綺麗に無くなったら国の再興にもとんでもねえ時間が掛かるだろ。レイゼ女王の判断は間違ってねぇと思うけどな」
確かにそうだ。
レイゼ女王は間違ってないと市民たちに伝えて説得するしかないか?
いや、待てよ?
おれたちなりにアピールする方法もあるはずだ。
「そうだな。ならおれは母さんたちのためにエルガンディの良さをシエルグリスの市民たちに教えていこう。いつか納得してここで暮らしてもらうために」
「真面目だねぇお前は。いつからそんなに真面目になったんだ?」っとレグナ。
「おれはもとから真面目だっつーの」
え? っとリイドとアルベールが見てくる。
失礼な奴らだ。
「そうかい。ならオレは真面目に彼女を作ってくるぜ!」
「は?」
「シエルグリスには可愛い女の子がたくさんいるからな! おら行くぞリイド! アルベール!」
「おいコラ! またそうやってナンパなことして! エルガンディのイメージ悪くなるだろ!」
※
「ふぅ〜。これで配給は全員に届いたわね」
お昼の時間になり、リリーベールがシエルグリスの市民たちに配給を配っていた。
ガイスも一緒に手伝っている。
「リリー。あとは後続に任せてオレたちも休もう」
「そうね。あ、ちょっと待って」
リリーベールが市民たちの真ん中に立って叫ぶ。
「みなさーん! 子供の件で困ったことがあったら私に相談しなさい! いくらでも面倒を見てあげるからね!」
リリーベールの言葉に市民達は驚きザワつく。
しかし言っておくだけでもかなり違うだろう。
現に子持ちの市民は何人もいる。
「よし! これで大丈夫ね。ご飯にしましょうか」
「……変わったな君は」
「え? そう?」
「今の君はとても素敵だ。リリーベール」
わざわざベールを付けて呼んだ。
ガイスは敬意を評する時は相手の名前は略さない。
「ちょ……やめてよ! こんなところで!」
すると何故かヒューヒューと口笛が吹かれて、その場が盛り上がってしまった。
そしてリリーベールの名を聞いたシエルグリスの市民たちが口々にざわめく。
「リリーベールって確か」
「あの【三大騎士】カーティスの育ての親で有名な人だわ」
え?
わたし有名だったの!?
※
ここはエルガンディの【東の領地】にある一角の家。
そこにはネオとミオンが暮らすことになっている。
そして当のネオはまだベッドで横になっていた。
とある理由で傷が開いてしまったのだ。
「ネオ!【三大騎士】の叙任おめでとう!」
「おめでとうございますネオ」
傷が開いた元凶の二人……ロジェールとエルジーに祝福され、砂を噛むような真顔で「ああ」と答えるネオ。
「……で、お身体は大丈夫ですか?」
恐る恐る聞くエルジーにネオは即答する。
「お前らのせいで悪化したよ」
「ごめん……」
「ごめんなさい……」
ロジェールとエルジーは同時に謝った。
ネオは一息ついてから諭すように話す。
「気持ちは嬉しいがな。ああいうのは傷が治ってからにしてくれ」
傷が治ってないのに激しい運動をしてこうなった。
理由は明白だが、完全に拒否できなかった自分も悪いとネオは内心で反省している。
あまりにもロジェールとエルジーに積極的に迫られた。
その結果、二人を抱くまでに発展してついに……
「うん……でもあの時、なんかデキそうな気がして」
「私もです。あの時はとても身体の調子や肌の調子が良かったんです。あと妙にムラムラしてました」
「だからって怪我人を押し倒すな。まったく……」
一線を超えてしまった幼馴染三人。
そのことはまだ母ミオンにも、リベカにも、レイゼにも言っていない。
ロジェールとエルジーに種を植え付けてしまったことも。
「ねぇネオ。このまま上手く赤ちゃんがデキた時のことを考えて名前を考えておかない?」
「名前……か」
「それはいいですね。どんな名前にしましょうか……」
「気が早くないか?」
「そうかな? だってもうわたしもエルジーもデキちゃってるかもしれないよ? ネオの子供」
「そんなことは分かってる。それよりロジェールお前……セレンさんへの挨拶は良かったのか?」
「……うん。大丈夫。今朝お母様としてきたから」
※
「グリータ。お義兄様たちは?」
レィナに聞かれてグリータは静かに答える。
「行ったよ。約束を果たしに」
館内にあるホールでグリータはレィナとリーネとテーブルを囲んでいた。
するとリーネが口を開く。
「やっぱり……セレンさんはダメなの? グリータ」
「……ああ。侵食され始めているそうだ。そのうちまた意識を乗っ取られて別の人格が形成されるのも時間の問題だろうってゼクードが言っていた」
「そんな……セレンさん……あんなに優しい人だったのに……」
リーネが俯く。
グリータはそんな彼女を見ながら言った。
「優しいからこそ、こうしたんだろうな。ゼクードとグロリアを人間に戻して、自分を犠牲にする。生半可な覚悟じゃできん。たとえ親でもだ」
「うん……。帰ってきたら、どんな顔で迎えればいいのかしら……」
レィナに聞かれ、グリータはしばらく黙ってから。
「静かに迎えてやればいいんだ。これはゼクードたちの……フォルス家の問題だからな。しばらくは暗いだろうが大丈夫さ。あれだけ家族がいたら」
※
「ナイト……もう行っちゃうの?」
エルガンディの城壁から出た草原。
誰にも見送られず去ろうとするナイトとリィにグロリアは暗い顔をする。
『ああ。障害は排除された。お前らとの利害関係はもうない。長居する理由もないだろう』
ナイトの声が、まだ鮮明に分かる。
グロリアの瞳は母ローエのエメラルドグリーンに戻り、人間の血に戻ったのに、まだ彼らの言葉だけは分かるままだった。
しかし父ゼクードだけはもうナイトたちの声は聞こえなくなっていた。
ドラゴン化していた期間が短いせいだろうか?
グロリアは腕がドラゴン化するまで進行していた。
期間も父ゼクードと比べれば倍以上なんてものじゃない。
だからこれは、長すぎたドラゴン化の後遺症なのかもしれない。
『……そんな顔をするな。俺たちはドラゴン。お前は人間。相容れてはいけない存在なんだ』
「うん……わかってる」
『ならばもう話すことはない。お別れだ。……もう二度と会うことはないだろう。今度こそな』
「せめて最後にお父さんと会わない?」
『いらん。アイツを見ていると虫唾が走る。このまま静かに去らせてもらう』
「そう……」
あまりに暗くなるグロリアにナイトは溜息を吐き、ゆっくり話し出した。
『グロリア。前にも言ったが……お前には感謝している』
「え……」
『お前が居なければ俺もリィも、上手くいかなかっただろう』
「ナイト……」
『そこだけは礼を言う。……ありがとう』
ありがとう、だなんて。
まさか彼からそんな言葉が聞けるとは思っても見なかった。
本当にナイトが言ったのか疑うほどに。
「アタシこそ……助けてくれたり、力を貸してくれて、本当にありがとう。二人のことは忘れない」
『忘れろ。覚えている必要はない』
「やだ。だって好きだもん。二人のこと」
『お前を殺したのは俺だぞ?』
「忘れたわ。そんなの」
『……本当に変わったヤツだ。お前は』
「結果論だけどね。……ねぇリィ。またパパがつまんなかったらいつでもアタシのところに来なさい。説教してあげるわ」
『うん! わかった!』
『……ふ、そうならんように気をつけよう』
「ん……それじゃあ、元気でね。ナイト。リィ」
『お前もな。せっかく人間に戻れたんだ。幸せになれ』
『ばいばい! グロリア!』
手を振ってくれるリィに手を振り返し、ナイトの背中を見送る。
遠くなっていく背中に寂しさを感じながらも、グロリアは空を見上げた。
「……。幸せになれ、か。ナイトほどの良い男なんているかしら?」
結局ナイトにはフラレてしまった。
彼の心の中にいるリイスには勝てなかった。
ドラゴンに恋をしていたと思うと馬鹿馬鹿しいことこの上ないが、ナイトはやっぱりグロリアにとってカッコいい異性だった。
自分を殺したヤツに惚れるなんて、なんて馬鹿なんだろう。
自嘲しつつ、グロリアは涙を拭った。
「……そろそろ時間ね」
※
城の食事に招かれたレイゼはテーブルから椅子を引き座る。その目前にアスレイも座った。
「レイゼ女王。お疲れ様です」
「陛下。私はもう女王ではありません」
「あ、すみません……なかなか慣れなくて」
レイゼはもう王族ではない。
シエルグリスの代表である。
「いえ。それよりシエルグリス民の受け入れ感謝します」
「困ってる時はお互いさまです。それにエルガンディも人口不足で困っていたのでシエルグリスの移入は助かります」
「まだ何人かの反対派がいますが、あれらも時間を掛けてしっかり説得していく所存です」
「助かります。共に力を合わせ、良き国にしていきましょう」
「もちろんです陛下」
「……ところでレイゼ代表。あなたは行かなくて良かったんですか?」
「大丈夫です。義母さんへの挨拶なら今朝ロジェールと済ませました」
「そうですか……しかし……残念です。セレンさんは、やはりダメなのですか?」
「ええ。心臓の侵食が始まってるみたいです。だからもう義母さんはここへは戻らないと……」
「……ゼクード殿は?」
「家族を連れて出ていきましたよ。約束を果たすために」
※
エルガンディから出てすぐの森。
そこはいつかカティアとローエとゼクードが競ったあの森だ。
懐かしいと感じつつ、ゼクードは家族を率いてセレンの待つ森の奥へと歩いた。
そして……
「来てくれたのね。ゼクード」
いつもの姿で母であるセレンが待っていた。
「ああ。約束を……果たしに来た」
ゼクードが前に出ると、セレンは彼の後ろにいるローエ・カティア・フランベール・カーティス・グロリア・レミーベール・オフィーリアに気づいて目を丸くした。
さらにはローエ・カティア・フランベールの腕にはオラージュ・カレンティア・リィンベールの姿もあった。
「みなさんまで……どうして……」
ゼクード一人で来るようにと伝えたのに、まさかフォルス家全員で来るとは思ってなかったセレン。
そんな彼女にカティアは口を開く。
「お義母様。カレンティアたちの顔をちゃんと見たことなかったですよね? この子たちがそうです。あなたの孫たちです」
「孫……」
セレンが呟き、今度はローエが言う。
「お義母様はこの子たちの安全を考えて、一度も近づきませんでしたわ。だからせめて顔だけでも見てほしいんですの」
そういうことかと、セレンはようやく理解した。
嬉しくて、涙が出そうになる。
「ローエさん……ありがとう。左からオラージュ・カレンティア・リィンベールね。ふふ、それとカーティス・グロリア・レミーベール。大きな孫と小さな孫が居て不思議な光景だわ」
「確かに。お婆ちゃんも小さいですもんね」
っとフランベールの一言でセレンが笑い、釣られてみんなも笑った。
まさかこんなサプライズがあるとは思ってなかった。
「……最後にこんなに笑えて嬉しいわ。それもこんな大家族で」
「母さん……」
ゼクードが悲しい顔を浮かべ、それでもセレンは微笑みながら言う。
「みんなの顔……もう一度だけ良く見せてください」
せっかくここまで来てくれたのだ。
ゼクードの妻たちの顔を、
孫たちの顔を、しっかりと焼き付けたいと思った。
すると過去の記憶が蘇り、いつかの日を思い出した。
優しい息子の手のぬくもりが遠くなっていく感覚。
それは今でもハッキリ覚えている。
『ごめんね……ゼクード……お母さんは…………もぅ……』
掠れる自分の声。もう意識も朦朧としている。
病魔に侵された自分が死ぬのも時間の問題だった。
息子のゼクードは心配性だったから、いつだって強がっていた。
母である自分を心配させないように。
『だ、大丈夫だよお母さん! お婆ちゃんもいるし! 俺、父さんより強い騎士になるから! だから大丈夫だよ! 本当だよ!』
自分が泣いてることにすら気づいてない少年が言った。
母の手をしっかりと握り、安心させようと必死だった。
その姿があまりに尊くて、置いて逝ってしまう自分の不甲斐なさを呪った。
『強くなったら女の子にモテるって父さんが言ってたから、俺、強くなるよ! そしていっぱい家族を作るから! だから……大丈夫だよ!』
『そぅ…………見てみたかったな……ゼクードの…………家族……――――』
息子の精一杯の強がりを見て……
無念の最後を迎えたわたしは……
今、奇跡を見ている。
本来ならば見ることさえ叶わなかったはずの光景が目の前に広がっている。
「素敵ね。これがあなたの家族……」
「……っ!」
ゼクードは目をこれでもかと大きくした。
あの時は独りぼっちだったのに。
今はこんなにもたくさんの家族に囲まれている。
『家族』と『最強』
二つの責任を背負った一人前の息子の姿がそこにあった。
なんて誇らしのだろう。
なんて幸せなんだろう。
息子のこんな素晴らしい姿を見せてもらえて。
涙が溢れた。
止まらない。
セレンの涙に、みんなが涙した。
幸せ過ぎて、こんなにも…………
「……さぁゼクード。お願い」
意を決したセレンはドラゴンの姿に変身した。
これ以上はいけない。
戻りたくなってしまう。
この決意が揺らぐ前に……
ゼクードも悲しい顔をなんとか拭いながら長剣を抜刀した。
『この姿の方がやりやすいでしょう?』
「……変わんないよ」
母を斬らせる事実は何も変わらない。
ゼクードの涙がそれを訴えていた。
『ごめんねゼクード。こんなことをやらせてしまって……』
「……」
『強く生きてねゼクード。……愛してるわ』
「母さん……」
『さようなら』
フォレッドの墓にセレンの遺骨を埋めた。
ロゼは遺骨が無いからレイゼの髪を縛って一緒に埋めてあげた。
ゼクードとカーティスがスコップで穴を土で埋め、石の墓標を立てる。
そしてみんなで黙祷した。
ゼクード・ローエ・カティア・フランベール。
カーティス・オフィーリア。
レミーベール・グロリア。
レイゼ。
オラージュ・カレンティア・リィンベール。
小さく風が吹き、青空に草が飛んでいく。
長い黙祷は終わりを告げ、姉レイゼが先に口を開いた。
「終わったな……ゼクード」
「ああ。やっと一緒になれたな。この三人」
「あの世でイチャイチャしてんじゃねぇか?」
「どうかなぁ? 案外とぶっ飛ばされてるかもよ? 母さん怒ると怖いし」
「そうなのか?」
「最近知った」
「そうか。まぁ……これでフォルス家はみんな元通りだな」
「ああ……そうだな」
ゼクードが空を見上げてセレンを想うと、レミーベールがお腹を撫でた。
「できればお婆ちゃんに曾孫を抱かせたかったわ……」
「わたしもです……」
オフィーリアもそう言うのでゼクードは頷く。
「なら次の墓参りは曾孫が生まれた時だな。抱かせることはできないが、見せることはできる」
これ以上にない親孝行だろう。
「そうですわね。わたくし達も三人目が生まれたらまた見せたいですわ」
「おいおい三人目って……どんだけ作る気だよゼクードお前」
レイゼが呆れながら言うとゼクードは顎を撫でた。
「大家族が俺の夢だったからなぁ。せっかくだしもっと頑張るか?」
「まったく……育児下手なくせして数だけは欲しがる」
「だよね〜」
いつか聞いたようなカティアとフランベールのやりとりに、ゼクードは不貞腐れる。
「それはお前らが俺に手伝わせてくれないからだろう? 俺の育児練度が上がらんだろうが」
「あなたは剣の腕だけ磨いてればいいんですわ。余計なことしないでくださる?」
「酷くない?」
ローエに一蹴されて落ち込むゼクード。
「ねぇグロリア。ワタシの子供が生まれたらちょっと手伝ってよね? 陛下もそういうの下手そうだし」
「え〜? アタシは男探すのに忙しいっての」
「探さなくていいですわ!」
「そうだよグロリア! お前はそのまま無垢でいてくれ!」
「なんでよ!」
ここに来てローエとゼクードが過保護を発動してきた。
「カーティスさん! 育児は任せてくださいね!」
「バカ。育児は大変だと聞くぞ。オレも手伝う」
「うむ。さすが私の息子だカーティス。それでいい」
「はい! 母さん!」
なんかカティアがカーティスだけ育児を認めている!?
「……なんでカーティスは良くて俺は駄目なの?」
「頼むからお前は仕事だけしていてくれ」
「そんなに!?」
そんなカティアとゼクードのやりとりを見ていたフランベールが笑った。
「ゼクードくんは仕事に集中してくれればいいのよ。家の事はわたし達がちゃんとするから心配しないで」
「そうだ。心配するな。そのために私たちは騎士を辞めたんだからな」
「そうですわよあなた。これからも頑張ってね」
「はは……ああ。任せとけ」
カッコつけながら返すと、妻たちの腕の中でオラージュたちがゼクードを見ていた。
母セレンのおかげでパープルに戻った瞳に子供たちが映る。
子供たちはとても可愛らしく微笑んでくれた。
それにゼクードも釣られて笑ってしまった。
そして実感する。
本当に、元に戻ったんだな。
フォルス家は。
俺も人間に戻った。
グロリアも人間に戻った。
また人間として生きていける。
人間として終われるんだ。
……母さんのおかげだ
ありがとう
母さん
さようなら




