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吸血姫異聞  作者: 染井めそ
一章:転生
12/13

少年と少女が出会い、8年後

 すっかりと日が落ち、誰も彼もが眠りについた後の事である。


 小さな村の近く、森の中に隠れるように野営があった。ざっと20人前後の規模であろうそれの中心には、煌々と輝く焚き火がある。

 野営の主である男達が6人ほど、焚き火に背を向けて立っていた。彼らの全身には冷や汗がたらたらと流れ、武器を持つ掌は緊張の汗で湿っている。だが、武器を手放して体を拭いている暇はない。

 男達から少し離れた場所には、首を斬られて横たわる仲間だった肉の塊がある。生気を失い濡れた瞳が焚き火の火を受けてちらちらと輝く以外、ぴくりとも動く事は無かった。周囲には濃い血の香りが漂う。

 彼らは村を襲撃しようとしていた盗賊団だった。ほとんどが年寄りばかりの村だ、村に火を放たれたくなければ金と食糧、若い女を用意しておけと前日に()()したばかりである。2日ほど寝て待てば村人達が言いつけていた物を用意しているはずだった。気がつけば、盗賊団の半分がやられていた。様子を見てくると言った団員は首だけになって地面に転がっていた。怖気付き逃げ出した団員は断末魔だけ残して消えた。

 残ったのは6人。20人近くいた団員の内6人である。


「クソ! 隠れてねえで姿を見せろ!!」


「相手は1人だ! 向かってきたら囲んで殺せばいい!!」


「朝までこうやって見張ってれば全滅はしねえ!」


 男達が口々に叫ぶ。確かに彼らが言うように、焚き火を囲んでから襲撃者は手を出しあぐねているようだ。襲撃がピタリと止んでいた。


「おい、クソ野郎! てめえが何者かは知らねえが今引けば見逃してやる! 今すぐ俺達の前から消えろ!」


 襲撃者からの返答は無い。拮抗状態が続く。


 ──かに思われた。


 何か、大きなものが派手な音を立てて焚き火に向かって落ちてきた。男達が悲鳴を上げて振り向く。それは、襲撃者に首を斬られて絶命した男の遺体の一つだ。死人の目が男達を見る。


「う、うわ、うわああああ!?!!?」


 恐怖に抗えなかった男達が、闇の中へと走り出す。


「待て!! 逃げるな!! 陣形を崩すな!!」


 だが、その忠告も虚しく、程なくして肉が斬られる音と蛙を潰したような断末魔が響いた。


 焚き火の側に残ったのは、たった2人だった。2人の男は慌ただしく周囲を見回して警戒する。屍肉の焼ける臭いが香り始めた。


 暫くして、空が白み始めた。朝が来たのだ。同時に、襲撃者が姿を現す。

 少年とも青年ともつかぬ美しい男だった。身長は大人と言ってもいいが、どことなく幼い顔立ちと雰囲気をしている。長く白い髪を一つに結び、金色の冷たい瞳で生き残った2人を見ていた。その手には血塗れの剣一振りと、短剣一振り。服は元の色が判らないほどの鮮血で彩られている。


 襲撃者の青年は口を開く。


「イル、どちらがいいですか?」


 すると、近くの茂みから小さな影が姿を現した。歳の頃は10かそこらであろうか。金色の髪と赤銅色の瞳を持つ美しい少女だった。少女は生き残り2人を見ると顔を(しか)


「えー、どっちも不味そう!」


 などと(のたま)った。


「分かりました。今回の食事は村人を選びましょう」


 青年が顔色も変えずにそう言うと、イルと呼ばれた少女は慌てた様子で両手を振る。


「ち、ちが、嘘嘘! 冗談だってば!」


「では選んで下さい」


 青年に言われ、イルは渋々といった表情で盗賊の2人を見る。そして、「モジャモジャのおじさん……」と呟いて盗賊の1人を指差した。青年はイルに「分かりました」と答えると、剣を構え、短剣を逆手に持った。男達が構え直す前に、青年の脚が地面を蹴る。


 赤を纏った白い残像が、稲妻のような軌跡を残して男に接近する。男達が何かを喚きながら武器を振り上げるが、その時にはもう武器の射程よりも近い懐に青年は潜り込んでいた。

 青年は何の躊躇いもなく、男の顎下から脳天に目掛けて剣を突き刺す。青年の突き出した刃先は、男の柔らかな喉を通り、脳を囲む骨を下から砕くと、中にある柔らかな組織を蹂躙した。脳を侵された男は声にならない叫びを上げながら喉から血と脳漿を吹き出す。もう1人の男は青年の隙を突こうと武器を振り下ろしたが、死にゆく仲間を盾にされたため、青年に攻撃が当たる事は無かった。


「じっとしていて下さい」


 青年は生きている男の太腿に短剣を突き刺し、横に裂く。男がたまらず武器を取り落とし蹲ると、青年は男を蹴り飛ばした。地面に転がった男の元に、パタパタと軽い足音が近づいてくる。先程の少女が、男を覗き込んでにこりと笑っていた。


「じゃあ、いただきます!」


 少女は元気よく手を合わせる。まるで、今から生きた男を喰らおうとでも言うかのように。まさか、いや、そのまさかだ。少女が男の首筋に顔を埋める。

 彼女は男の頸動脈を噛み千切ると、そのまま血を啜り始めた。


「ひい、ひいい!!!」


 どこかで聞いた事がある。人の姿をし、人を喰らう魔物がいると。男は少女を払いのけようと暴れるが、小さな手に体を押さえられて動けない。まるで、丸太の下敷きにされたかのように。

 体から血が失われていく。感覚に、男は死の影を見た。


 とても、寒い。

 たすけてほしい。

 しにたくない。


 男は助けを求めるかのように青年に手を伸ばしたが、青年は男を睨む。

 その目は、激しい嫉妬の炎を孕んでいた。



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