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無力感(陽)

朝陽を全身に感じながら、私はいつもの公園にやってきました。

雲雀公園。そこには虐めが原因で自殺した男との子と会う為に日々魔法陣の錬成に明け暮れる登校拒否児童の久瀬浩樹君がベンチに腰かけています。

 「おはよう、浩樹君」

 「うん。おはよう芽依さん」

 私はその隣に佇む少女に気付いて声をかけます。

 「あれ?浩樹君の横に居るのはお友達?」

 浩樹君が少し照れくさそうにその女の子を紹介してくれる。

 「あぁ。幼馴染で俺の魔法陣錬成の師匠だよ」

 私がその女の子の方を視るとケーラさんや段ボールおじさんみたいに鮮やかな鳶色のオーラが見えてその輪郭を頼りによく視ると浩樹君と同じぐらいの年代の可愛い女の子がこちらを警戒しながら見つめていた。

 「ガールフレンド?」

 「女の子の……友達」

 「可愛いねぇ」

 「見えてないだろ?」

 「見えて無くても分かるよ。こんにちわ。私、陽守芽依って言います。宜しくネ?」

 しばらく戸惑う様な息遣いの後、か細くて可愛い声が聞こえてくる。

 「私、佐島奏さじま かなで。こんにちわ、です」

 「珍しいわね。浩樹君がお友達連れてくるなんて」

 浩樹君が溜息を吐きながら事情を説明する。

 「タイムアウトみたいでさ。奏の奴、俺を学校に連れて行くって聞かなくて」

 浩樹君はずっと虐めを苦に自殺した男の子ともう一度話がしたい為に半分無駄だと分かっていながらこの数ヶ月間、ここで魔法陣の実験を繰り返していた。それは他でもない、自分が友達の死をなかなか受け入れられなかったからだって思う。

 「浩樹君、私なんかから大層なアドバイスは出来ないけど、良平君はね、きっと君に感謝してたんだと思う」

 「そんな事無いよ、俺は結局、あいつを助けられなかった。親友だった良平を救えたのはきっと俺だけだったのに!」

 浩樹君の悲しみがヒシヒシと私の心まで届いて悲鳴をあげている。すごく、苦しくて、やるせなくて、もどかしくて、そして何より自分の事を許せないんだと思う。私も兄を失った。その時の記憶は無いけど、もし、私に兄を救うだけの力があれば良かったとどれほど思ったか。そんな私の声を代弁するように浩樹君の魔術の師匠である佐島奏ちゃんが口を開く。

 「浩樹、もう帰ろ?お兄ちゃんも浩樹には救われたって話してたから」

 「そんな推測いらないんだよ!俺は!俺は本人の口から直接聞きたいんだ!あいつ、校舎から飛び降りる瞬間、きっと怖かったはずだ!死ぬほど怖いのに、それでもあいつは死を選んだんだ!虐められてあいつは、死ぬ事より辛かったんだぞ!そんなあいつに!俺は何もしてやれない!虐めてた奴に復讐する事も!」

 浩樹君が手を伸ばした奏ちゃんの手を弾いて差し伸ばされた手から逃れるように身を引いてしまう。二人の動きは魔法陣錬成の成果か、身体に刻まれた紋章を中心に身体が仄かに光を帯びているのである程度視認する事が出来た。奏ちゃんは死んだ良平君の妹さんみたいね。奏ちゃんと同学年だったのだとしたら、良平君は年上の男の子だったのかな?そしたら浩樹君も年上の虐めてた子供に対してなかなか手が出せなかったのかも知れ無い。私に何かしてあげられないか考えを巡らせるけど、両目の無い私はいじめっ子達を探し出して、その罪の重さを教える事も、叱りつける事も出来ない。今まで生きてきて何回目だろうか。私が自分自身の無力感に途方にくれるのは。昨日見た悪夢を思い出しながら悔しくなって私は唇を噛み締める。

 「浩樹君、私もね、悔しい。私、こんなだから、何一つ、君に良平君の事で助けてあげられない。本当に情けない芽依お姉ちゃんでごめんね?友達が悩んでるのに何もしてあげられない、なんで私こんな……ぐすっ」

 私は我慢出来なくなってその場に蹲って涙を流してしまう。目は無いのにきちんと涙は流れるなんてどこまでも神様はいじわるだ。戸惑う様に浩樹君が私の肩に手を置いてくれる。

 「め、芽依姉さん、ごめん!俺の事でそんなに悩んでくれてるなんて思ってもみなくて……」

 私は溢れる涙を抑えられ無いまま浩樹君を見上げる。

 「浩樹君は私の数少ない貴重なお友達だよ?私、友達1人、助ける事出来なくて悔しいよ……ぐす」

 私をあやすように今度は奏ちゃんが私の事をそっと抱き締めてくれて、抱き締められたその部分が仄かに柔らかくて暖かい。9歳の男の子と女の子に慰められる17歳の私って一体なんなのだろう。私はしばらく奏ちゃんに落ち着くまで抱きつかせて貰う。良平君とお話しさせてあげたい。すぐ傍に居るのに彼等は私達と言葉を交わす事が出来ない。その事がすごくもどかしくて……!?私はある事に気付いて立ち上がると辺りを見渡す。首を傾げる二人を余所に私は声を荒げる。

 「良平君が居ない!?いつもそこに居て、浩樹君を見守ってくれてるのに!」

 私は雲雀公園内に漂う良平君の姿を探すけどどこにもそれが見当たらない。姿形は同じ様に辺りを彷徨う影法師達と同じだけど、私にはそれらが別人である事は何故かすぐに分かる。公園内を彷徨う私を心配して浩樹君と奏ちゃんが声をかけてくれる。

 「芽依姉さん、そんな気を使わなくていいんだぜ?」

 「お姉ちゃん、その気持ちは嬉しいけど、慰めてくれなくて大丈……」

 私は額に汗を掻きながら声を荒げる。

 「違うの!本当に良平君は昨日まで居たの!この手で触れたもん!」

 呆れる二人の口から溜息が洩れて聞こえてくる。年上のお姉さんの威厳が台無しだけど、それどころじゃない。説明しても信じてくれないと思うけど、彼は確かに昨日、そこに居たの!雲雀公園で良平君を探す私達(私だけ)の横をサイレンをけたたましく鳴らしたパトカー数台が忙しなく横切って行く。事件かな?

 「浩樹、帰ろ?!嫌な予感がするの?!」

 「奏、帰るじゃなくて学校に行こ?だろ?」

 「違う!学校へは今行かない方がいい!」

 奏ちゃんが怯えた様に浩樹君の腕を掴むのが見えた後、パトカーが走って行った方角から爆音が鳴り響き、何かが焼ける様な匂いが遠くから漂ってきた。それは私の初めて遭遇する事となる怪異との接触の前触れだったのです。

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