案件 恋人①
ピンポーン
「はい」
扉を開けると、二十代前半だろうか、一人の男が立っていた。そして、何故か俺の顔を凝視している。
「あの……依頼をしたくて……」
「はい、中へどうぞ」
俺は依頼者を椅子に座らせ、お茶の用意をするべくキッチンへ行った。
うーん、今度も一癖ありそうだな。何故なら依頼人は女装している男にしか見えなかったからだ。この人はオカマ?それとも流行りの女装男子?とりあえずは話を聞いてみるか……。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
俺はお茶を出しながら、話を切り出した。
「それで、今日はどう行ったご依頼でしょうか」
「あの……」
「はい」
「その……」
言いにくそうだな。あ、そうか。俺は改めて話し始めた。
「ご依頼の内容は、秘密厳守いたしますので、遠慮なく仰ってください」
「……はい。実は……恋人になって欲しいんです」
今何て言った?
「えーと、どういうことでしょうか?」
「あの……パーティーがあるんです。そこで恋人として一緒に行って欲しいんです」
ああ、そういうことか。
「つまり、恋人役を演じて欲しいということでしょうか」
「そうなんです。このパーティーはカップル参加なんです。もう参加することにして、お金も払い込んでしまったんです。このパーティーには私たちのカリスマのような方が出席されるんです。だから絶対行きたくて……。それに、その……」
「はい、何ですか?」
頬を赤らめて彼女、いや、彼は言った。
「……河田さんって私の好みで……」
ゾクリ
思わず背中に悪寒が走った。
「あの、もしかして、失礼ですが、男同士のカップルのパーティーでしょうか……?」
「はい、そうです」
「いや、えーと、む、難しいですね……」
男同士で腕を組んで行くってことだよな。しかも同性カップルのパーティー……。俺には特に偏見があるわけではない。本人たちが良ければそれでいいと思っている。だが、自分にその趣味はない。それになんだか怖い……。
「……便利屋さんでしょう?受けて頂けないのですか?」
それを言われると辛い。仕事の依頼はまだほとんどない状態だ。ここは腹を括るか。
「わかりました。お受けします」
「ありがとうございます!」
「それで、いつなんですか?」
「明日の夕方です」
「あ、明日ですか!?」
「はい、まずいですか?」
「……いえ、大丈夫です」
心の準備が……。しかし、受けると言ってしまったんだ。仕方がない。