カレーの試合(7)
不定期掲載。16時ころ更新します。
「ではこれで、あのご主人も本来の腕を存分に振るうことができる、というわけですわね」
「……いや、それは……」
「お嬢さん!」
わたくしの問いにヤヤが答えるより早く、スタジアムの店主が口を開いた。
「……ここまでの数々のご配慮、痛み入ります。もはやわたくし、この状況以上に望むものを知りません。最後にこのようなステージに立てましたことを深く感謝致します。この肉さえあれば……」
……そう、ここは恩に着ることですわね。なにしろこのお肉を間に合わすためには並々ならぬ手数と予算が……
「しかしながら、この勝負、やはりここまでとさせていただきます。もう、わたしは……」
「なんです? ここまでわたくしにお膳立てさせておいて、勝負を投げるなど、許しませんわよ!」
店主の弱気な発言に、わたくし思わずマイクを手元まで掴んで言ってしまいましたの。それはそうでしょう? わたくしがどんな思いをしてここまで待たされていたと!
「……ちがう。あれを」
激高したわたくしをたしなめるように言うヤヤ。その指さすほうを見ると。
「ああっ!?」
つい先ほどまで店主の側のキッチンで幾つもの皿に盛られていた香辛料の山。二十皿は優にあったであろう色とりどりのスパイスが今は跡形もなく無くなっている!
「……新たに肉がまいりましても、それを調味するスパイスがなければ、わたしにできることはないのです」
からのスパイス皿に顔を向けて店主は言った。
もちろんわたくしにだって、すでにできているルーにただ肉を追加しただけでマトモな料理にはならないだろうコトは理解できます。
でも、なんで。店主が店の在庫全てと言った、あれほどあったスパイスは……?
「お嬢ちゃん! あんたのせいじゃないのさ!」
戸惑うわたくしに向けて、思わぬ所から声が投げかけられた。
この勝負のもう一人の主役、店主の娘レイコが自分のスタジアムからこちらを睨んでいる。
「あんたの優秀な運転手ちゃんが、あのヘリコプターでスパイス全部吹っ飛ばしてくれたんだよ!」
……あ・の・バ・カ!! スタジアムの前に立つ岡本を見ると、顔色こそ真っ青ながらへらへらと笑っているようにも見える。いわゆるキョドっているというやつね。
御店主の望んだ肉は届いた。けれどそれを調味するスパイスは消し飛んでいる……。




