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カレーの試合(6)

不定期掲載。16時ころ更新します。

 満場の注視の中、面目のない表情をした岡本が押すワゴンの上の肉塊を、あの二人はかつてない真剣なまなざしで見詰め続けている。

「……それにしても」

 わたくしにはよくわからない。

「あれは、そんなに貴重なモノですの?」

 ……数日前、例の店の経営状態を調査したときに、その経常収支とあのお肉の入荷状況に密接な関係があることがわかりましたの。

 おそらく店主の心のハリに、このことは大きな関係があるのではないかと思い、わたくしは岡本に世界市場全域を探るようにとの厳命はしておいたのですが……。

「なんだか、普通のよいお肉ではないの……?」

「わかっていないのね、あなたは」

「え……?」

 それまでわたくしの横にうずくまっていたヤヤがやおら立ち上がり、その人差し指を岡本が運ぶ肉の塊にまっすぐに向けた。

「あれは、そう、あなたの言うとおりこちらの世界で言うカレー肉。この日本の、いえ、世界中のどんなお肉屋さんでも滅多にはお目にかかれないという希少な品……」

 場内の観衆も、わたしのマイクを通じて会場に響くヤヤの声に聞き入っているようだ。

「……古くは古代ローマの時代から、新しくはドイツ第三帝国に至るまで、時の権力者もその美味を探し求めて止まなかったという幻の逸品。旧大陸南方のある王族だけが代々その飼養の秘法を受け継ぎ、その牛自体も数千年来一系統の純血種だという。古来よりそのあまりの希少さ、高貴さゆえ、その一帯の国々では勢い余って、牛という牛全てを神聖視するようになってしまったほど……」

 ……いや、つまりあなたが今おっしゃっているのは『あの亜大陸』のことですわよね……。大丈夫かしら……。

「……その育成の秘密は餌にある。豊富なスパイスに恵まれた熱帯の国で、各種の刺激に耐えられる者を野生種から選び抜いて交配し、入念に調合された香辛料を飼料として与えられ、数十代、数百代にわたって愛育された……やがて完成されたその牛たちは、歩んだだけでその芳香は貧者の空腹を癒し、また人々はその涙一しずくを口に含むだけで、軽くごはん三杯はいけたという……」

 ……ごはん、ですか。古代の南国に……。

 それはともかく、今まさにキッチンに届けられたそのお肉が、尋常のモノでないことはわかりました。

 ステージの二人が向ける視線も熱を帯びているのが、こちらまでひしひしと伝わってきます。

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