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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第七章 外交 ~融和に向けて~
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要求

「そう、ディナント側は生存者無し、ね」


「まぁ、そいうことになるな」


あの戦いからはや1週間、残党も確認されず、街も平常に戻ったので、ゲオルグはリュドミラの元を訪れていた。


「つくづく、貴方を敵に回さなくてよかったと思うわ」


「いや、俺が手を出したのは敗残兵数百といったところだ。ほとんどは森の魔物と、俺の部下たちがやってくれたのでな」


「……それもそれで凄いわね。初陣だったのでしょう?」


「あぁ、まぁ、戦いが終わって高揚が解けた時は、中々酷い状況だったがな。多くの兵が沈鬱な様相になってな。人を斬ることに慣れていなかった故だろうが、まぁ、これも時間が解決するだろう。幸いにして、もう戦いたくない、などと言う者も、自らを手に掛けようとする者もいないそうだ」


「それは人間の新兵も同じね、初めて人を斬った後は、吐いたりトラウマを抱えたり、中々厄介なものよ」


「だろうな。まぁ相手が同族でなかった分、多少マシ、というよりかは、これまでの仕打ちに対する恨みや辛みで乗り越えた、と言う方が正しいかもしれんが」


「そういえば、殆どはディナントの出身……と言っていいのかはわからないけど、だったものね。あの国は教会の総本山もあるし、特に亜人の差別と弾圧が厳しいから、分からなくもないわ」


「そういうことだ」


なんということもない話題に花を咲かせながら、オリガの淹れてくれたお茶(紅茶に近い)を飲む二人、そんな調子が暫く続いた後、ゲオルグは本題を切り出した。


「それで、そろそろそちらの準備は整ったのか?」


「えぇ、苦労したけどね。とりあえず、ラシード……バスネル将軍、つまり我が国でも名うての将と、その腹心達、それに、大臣の何人かに話をつけたわ。4000の兵のうち、3000はディナントとの国境に、1000はガルディナの北に、亜人を引き連れて向かうことになる予定よ」


「そうか。障害になりそうなものは?」


「今のところは……むしろ、私以上に乗り気なのが若干一名いるけど……」


そう言いながらこめかみに手を当てるリュドミラは、苦笑を浮かべていた。


「乗り気とは……亜人集めに、か?」


「いえそうではないわ。貴方……つまり、ドラグニルと友好関係を築き、共に歩もうということに、ね」


「ほう……それは、俺にとっては朗報だな」


「かもしれないわね、私としてはちょっと痛手よ。なにせ、優秀な将兵が持っていかれるのだから」


「将兵? もしや、先に言った、バスネルとやらか?」


「ご名答。彼は昔からドラグニルの伝説に目がなくて、この話をしたら、本題に入る前にドラグニルと言ったせいで、興奮して大変だったのよ?」


「……それは、なんというべきか」


「何も言わないで頂戴」


深い溜息をつきながら茶を飲むリュドミラに、ゲオルグも苦笑を浮かべた。詳しく聞けば、元々寒さ故か、一日の多くを屋内で過ごすこの国の人々にとって、伝説や英雄譚といった物語というのは馴染み深く、その中にはドラグニルの話も含まれており、それに憧れを抱き、小さな男の子などは「ドラグニルに会いたい」という者も少なくないのだそうだ。


「悪い子には悪魔がお仕置きに、良い子にはドラグニルが幸福を授けに訪れる」というのは、この国では一般的な言葉だとか。


「バスネル将軍は、数いる将でも特に経験豊富な名将なの。それがガルディナに張り付いて離れない、なんて、いざという時はどうするのかしら」


「そこまでは知らん。人材の選定と配置はそっちの領分だろうに」


「それはそうなんだけれど……まぁ、実は本人が今、その打ち合わせの為にこっちに向かってたりするのだけど、会う?」


「……ひどく面倒になりそうなので断る」


「言うと思ったわ……」


苦虫を噛んだような表所を浮かべるゲオルグに、呆れた様子のリュドミラと、それをおかしそうに眺めるオリガ、非常に和やかな空気が流れていた。


「まぁそれは今は置いておくとして、肝心の亜人はどれほど集まりそうなんだ?」


「あからさまな話題の逸らし方ね、まったく……亜人の方は大分順調よ、今回に関しては元手も殆ど掛かってないわ。野良を中心に、人が持て余している者を安く買い集めているから」


「元手がかかってない、ね。それは言ってよかったのか?」


「貴方相手に暴利を貪ろうと思えるほど、大胆な性格はしてないのよ。それに、こっちとしてもそういった者達を集めた方が、治安の回復には良いもの」


「成程な……良い心掛けだ。末永く付き合おうと言った矢先、そのようなことをされては俺も付き合い方を改めねばならんところだ。まぁ、利害が一致したならなにより、とでも言っておこう」


「ふふ、そうね、あくまで対等なお付き合いだもの、ね。それと、具体的な数だけれど、多分、5000近くなるわよ?」


「5000?……それは、また随分と集めてくれたな……」


思いがけない数字に、流石に驚いた様子のゲオルグ。それを見たリュドミラは。


「私も予想外だったわ。何故か、な・ぜ・か、付近の商人達が亜人を随分集めていたみたいで、ね」


リュドミラの言葉に、そういえば色々根回しをしていたことを思い出すゲオルグだった。


「ちょっと街の者に話を聞いてみたら、銀髪碧眼のドラグニルと思しき方が、大層立派な金細工を持って亜人を集めようとしていた、なんて噂まで聞こえてきたけれど?」


「…………」


「いつから?」


「…………………最初は数か月前、あとはリュドミラに会う直前だな」


リュドミラが最初に本音で語ってきたのは、こちらに嘘をつき辛くさせるためのものだったのだと、今になって気付いた。流石に場数が違う、が、内容は大した事でもない、恐らくは牽制的な意味合いが強い。


「それだけ?」


「あぁ、なにせ、ようやく本格的に動こうかと言う時に、今回の騒ぎだ。本来なら、まだ数十年は人間と関わりたくはなかったが、止むを得ないと判断した結果、だな」


「あら、なら今回の一件、私としてはディナントに感謝ね。長年抱えてきた問題と、大量の金、そして砦の建設、ノーリスクハイリターンだもの」


「……よくもまぁぬけぬけと」


「正直者なのが売りなのよ」


「はっ、忌々しい小娘が、とでも言った方が竜っぽいか?」


「それじゃどちらかと言えば邪竜ね」


「それもそうか」


二人して笑いあい、終始穏やかな雰囲気で会談は続く。


「それで、僅か1000の兵で5000もの亜人を纏められるのか?」


「それは意外と簡単よ。亜人は日々の生活すら危うい者が多いの。そんな彼らに、日々の食糧と衣服、生命の安全を約束してあげれば、割と従順なものよ。ディナントほどの弾圧もないから、給金を与えればそれで買い物だって出来るし、ね。まぁ、お金を持ってるとなれば人間から狙われる可能性もあるし、それを罰する法もないのが現実だけど。そもそもこの国を後にする事になる者達に、この国のお金を与えてもしょうがないでしょ?」


「なかなか辛辣だな、まぁ構わんが。一応言っておくが、本人が希望した場合は送り返すことになるからな?」


「えぇ、問題ないわ。実情をこの目で見てないから推測にすぎないけれど、ディナントにそれだけの打撃を与えられるだけの高度に組織化された部隊があるなら、生活水準だってそれなりに高いのでしょう? それでなくとも、あれだけの金細工を生産できるだけの技術力、採掘能力に、2000を超える人口を他国に一切頼らず自給させられる生産性、それらを鑑みれば、戻ってきたいなんて言わないとは思うけど」


「だといいがな。だが、食糧に関しては少々厳しくなりそうだ。流石に5000もの大所帯とは想定していなかったからな」


「ふふ、支援も吝かではないけれど、タダとはいかないわよ?」


「……言うと思ったがな。何を望む?」


「そうね……正直、金や宝石、砦の建設だけでも結構な儲けだから、あまり無茶な要求をするつもりもないわ」


「ほう、殊勝なことで……で、何が欲しいんだ?」


そこで一度考えるような素振りを見せてから、ぱっと顔を上げ、輝かしいほどの笑顔で、こう言った。













「貴方の街を見せて貰いたいわ」

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