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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第六章 避け得ぬ争い、未来の為に
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開かれる戦端

前話の経過時間について、ご指摘がありましたので修正が入っております。ストーリーに影響はございません。

それは、普段よりも頻度を増やしたための僥倖と言うべきか。


「ん……おい、聞こえるか……?」


「何が……いや、分かった、確かに聞こえた」


空を飛行して哨戒に当たっていた二人のドラゴニュートが、普段は聞くことのない音を聞いたのだ。具体的に言えば、人の声と金属がこすれるような音、そして草木をかき分けるような音である。


「……確認にいくぞ」


「応」


その音がする方向へと向かった二人が見たものは、満身創痍になりながらも、この森林の危険地帯を突破してきた1000人以上はいるであろう人間の群れだった。

















「来たか……」


「はっ。間もなく危険区域は突破し、安全圏に到達するものと思われます」


議事堂執務室で、リーシアと二人で書類仕事に追われていたゲオルグの元に知らせが届いたのは、発見されてから僅かに30分後である。


「数は?」


「1500に満たない程度。しかし、負傷者も多く疲労も抜けきっていないものかと……」


「……そこまで数を減じても尚、進軍を止めなかったか。愚かなのか、或いは別の思惑があるのか……どちらにせよ、こちらがやるべきことは変わらないがな…………直ちに議会を召集する。ただし警衛隊はヨハンのみを出席とし、ジルには警衛隊の出立準備を整えるよう伝えよ」


「はっ、直ちに」


「あぁそれから、よくぞこれだけ早く発見してくれた。おかげで優位に事が運べそうだ、助かった」


「い、いえ、滅相もございません。これも職務の内ですので……では、召集を掛けて参ります故、これにて」


ゲオルグの命令を受け、速やかに行動に移るドラゴニュート。その頼もしい背中で、謙遜しながらも嬉しげに尾が揺れていたのを、ゲオルグは見逃してはいない。


「まぁ、それはおいおい弄るとして…………思ったよりも時間が掛かったな。正直、もう来ないかと思っていたが……」


ゲオルグが街に帰還してから、既に一か月半近く経過している。間もなく帝国との正式な和平の為に、またリュドミラの元へ行かねばならないかと思っていたところだ。


「リュドミラが情報を手に入れ、軍備を始めた頃にはディナントとてもう大分準備は進んでいたはず……それから随分経ったが、だがまぁ……王都からはるばる危険な地域を踏み越えて来たと思えば、早い方か。むしろ、引き返しておけば、無事に生きて帰れただろうに」


独り言としては非常に物騒この上ない。しかし、偽りではない。今回の一戦、序盤こそ警衛隊と近衛に全て任せるつもりであるが、この両者に被害が出そうになった、ないし、出た場合、そしてそれが無視出来ない規模になった場合は、自ら出向く所存だ。今回の主な目的は、ガルディナの唯一の戦闘組織に対人戦の経験を積ませることにある。それさえ達成されれば、被害を出してまで継戦させようなどとは思っていない。


そも、200にも満たない兵で1000を超える軍を殲滅させるということ自体に無理がある。


<俺抜きで殲滅……土台無理な話だな。久し振りに、力を揮わねばならんか……>


出来る事なら、この個人としては持て余す程の力を、こういった形では使いたくないものだが、そうも言っていられない。この一戦の行く末が、ガルディナの未来に大きく関わってくる。人間には気の毒な話だが、一人として生かして帰す訳にはいかないのだ。


<何人……殺すことになることやら……>


今更人を殺すことにどうこう言うつもりもない。と言うより、殺すよう命じる立場にいながら言えようはずもないのだが。


<人にとっては悪魔か鬼か……まぁ、甘んじて受け入れよう。あれこれ考えたところで無駄な事。全ては自身の選択の結果なのだから>


「閣下、間もなく皆様がお見えになるかと」


最近、侍従が板に付いてきたリーシアが、ちらりと外を見やってからそう告げる。恐らく、議会の面子が誰かしら入ってくるのを確認したのであろう。


ドラゴニュートは、伝令としても非常に優秀であるというのは言わずともわかることだ。なんせ空を飛んで目的地までまっすぐ向かえるし、視力も非常に優れている為、上空から特定の人物を探すのも得意である。


「ん、では行こうか」


「はい」


リーシアを引き連れ、議事堂に向かう。その表情がどこか浮かないものであるのは、恐らく気のせいではないだろう。














「では、いよいよ出陣ですか」


「あぁ、準備の方は?」


「万事滞りなく。今はジルが兵に緊急招集をかけておりますが、それが完了すればいつでも」


「兵糧の準備は」


「差し当たって2週間分は確保してあります。恐らく、それ以上の戦闘は今の我らでは困難でしょう。あまり時間を掛ければ、数の力に押し負けるは必定かと」


ヨハンが淀みなく答えるその様は、正しく一軍の将のそれである。


「ヨハン、お前はどのように戦う事を考えている?」


故に、ゲオルグも敢えて、最初から「こう戦え」などとは言わない。


「森林内部での奇襲、それしかありませぬ。近衛猟兵団の方々に、まずは上空から敵を攪乱して頂き、そこで敵が壊乱状態になるのであれば、隊列から外れた者から我らが各個撃破、敵が纏まっているところは近衛猟兵団に継続的な攻撃をお願いしたい。それが叶わねば、夜討ち朝駆けを基本に、ひたすら隙を突く他ないかと存じます」


「仕掛けるタイミングは?」


「3日から4日後を予定しております」


「何故そのタイミングを選んだ?」


「ここから発見された地点まで、集団で隊を揃えながら歩けばおよそ5日といったところ。されど、敵は負傷者多く、疲労も抜けきらぬとなれば、それよりも遥かに時間を要するでしょう。そして、安全圏に入り、魔物や獣の襲撃がなくなれば、奴らも多少は気を緩めてくるはず。一日目、二日目ではまだ警戒も厳しいでしょうが、三日目、四日目ともなれば徐々にそれも緩くなる筈。故に、こちらは少数の機動力を活かし、可及的速やかに接敵、これを追跡し、最も気が緩んだであろう瞬間を狙います」


及第点、どころかほぼ満点な答えが返ってきた。確かに、これまでゲオルグが暇を見ては様々な講義を行ってきたが、恐らくここまでの回答が出来ると言うことは、自分でも戦略について様々な考察を行っていたのだろう。特に、実戦を間近に控えていた最近は。


どこまでも生真面目な男であるが、今ほどに頼もしいと思ったこともない。


「見事だ。俺から指示することなどほとんどないくらいにな」


「勿体無きお言葉」


「ヨハンの計画をほぼそのままで行こう。ニーナ、ケイル」


「はい」


「はっ」


「警衛隊と近衛は、数日街を空けることになる。その間の治安維持について、計画は?」


「現在、各部門より有志の自警団を募っております。一時的に生産能力が低下しますが、備蓄分で十分対応可能な範囲です」


「維持管理に特に手間と時間がかかる部門については極力募集は避けておりますので、そちらの面でも問題はないかと」


「よろしい。商いをする者に関してだが、売る物がある内は自粛する必要もないと伝えてくれ。出来るだけ、住民を不安がらせようなことがないよう心掛けろ」


「「はいっ」」


「各部門の管理官は、その旨をしっかりと部下たちに示達し、職務を滞らせることがないよう留意せよ」


「「「「「はいっ!!」」」」


「では諸君、いよいよ始まる。もはや多くは語るまい。各々が己の責務をしかりと果たす事を期待する、以上だ」


こうして解散となった議会。ゲオルグはヨハンと共に警衛隊詰所に向かい、リーシアに近衛もそちらへ集合するよう伝達させる。



いよいよ、戦火がガルディナに上がろうとしている。

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